第32話 依頼(5)
月明かりに照らされて、暗がりにドアがぼんやりと浮いている。
ドアの隙間からは、キラキラと不思議な光が溢れていた。
「天様、あのドアです」
「ああ」
ん?
坊ちゃんが、急に無口に……。
どうしたのかしら?
ここまでの道程が退屈で、眠くなっちゃった?
「天様、起きてます?」
「……ああ」
うわぁ。
ヤバい、ヤバいわ。
折角ここまできたのに、心ここにあらずだわ……。
どうしよう?
こんなときは、どうしたらいいのかしら?
よしっ!
「天様、これ食べます?」
「……なんだこれは?」
「身体に良いらしいですよ」
小指の先ほどの可愛らしい紫色の豆。
それを三粒ほど坊ちゃんの手のひらに乗せる。
ガリッ、ガリッ、ボリッ。
どうですか? 美味しいですか?
「……うっ! かっ、辛っ! み、水、水、おいっ!
「持ってません」
「……っ! お、お前~!」
「身体に良いらしいですよ」
「……」
あら、余計無口になっちゃった……。
私のせい?
私のせいなの?
坊ちゃんを元気づけようとした私の想いは真実だわ!
辛刺豆が、身体に良いらしいっていうのは真っ赤なウソだけど……。
さて、先に進みましょう!
「さあ、天様どうぞ!」
「お前が先に行け!」
仏頂面の坊ちゃんが私の肩をグイグイと押す。
ちょ、ちょっと。
押さないでよ!
イタイイタイ。
仕方なく、私が先に立ってドアの隙間に手をかけ、ゆっくりと開いていく。
光の洪水が私の全身を包み込む。
フワリと身体が浮き、グイッと中に引きずりこまれた。
パタン……。
静かにドアの閉まる音がした。
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