第29話 依頼(2)


 その日、二人は唐突に現れた。


 尚寝シャンチンのオフィスがある文士堂ウェンシータンにふらっと来たの。

 二人が姿を見せた途端、一斉に女官が集まってきて、オフィスの廊下が人で一杯になったわ。

 イケメンだし、社長の息子と重役だもんね。肩書きも申し分なしよね。


「キャー! 天様とタオ様よ!」

「お二人とも今日も素敵だわ」

「あの透き通るような青い瞳がグッとくるわね~」

「今、こちらを見たわ。私、目が合っちゃった! どうしよ~!」


 それにしても二人とも、何しに来たのかしら?

 私は、平安宮の掃除を終わらせて寮に帰ろうとしていたのに。

 そこを急に上司に呼び止められて。

 やれ、お茶をお出ししろ。

 やれ、お茶菓子を買ってこい。

 御堂河内みどこうち、ご指名だ!

 話し相手になって差し上げろって。


 んもうっ~!

 ご指名ってなによっ!

 ここは夜のお店かっ!?

 ここは介護施設よっ!

 誰が話し相手なんかするかっ!

 と、突っぱねたいわ……。

 でもここは、会社という組織……。

 私は、しがない新入社員。あ、……新入女官。


 取り敢えず、誰も来ない会議室へと二人を押し込める。

 さすがに、社長の息子と重役がいる会議室に、のこのこと勝手に入ってくるヤツはいないわよね。


「ハァ~。用件は何ですか?」

「ははは。特に用はないけどね。なんとなく来たんだ」


 うぐっ。

 それが一番迷惑だわ!


「そうですか。今日はお日柄も宜しいようで。他の部署も回られると喜ばれると思いますよ。女官一同首を長~くしてお待ちしていますから。ささっ、次の部署へ!」


 ハ~イ。

 じゃあ、二人とも立って立って~!

 次の部署は、ドアを出て右手ですよ~。


「御堂河内さんは、僕達が来ると迷惑なのかな? すぐに他へ行かせようとするねぇ」

「そうなのか? 御堂河内」


 うっ……。

 睨まれた。


「や、やだなあ。天様、タオ様、誤解ですよ。そんなことはありませんよ。今、お茶をお持ちしますね。ゆっくりしていって下さい」

「待てっ! 御堂河内!」


 ギ、ギギギギギ。

 という音が聞こえたんじゃないかしら。

 そう思えるくらいのぎこちなさで振り返る。


 そこには真剣な顔で私を見つめる坊ちゃんの姿があった。

 イヤな予感しかしないわ……。

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