第3章 ココカラ

第28話 依頼(1)


 髪飾り事件は、私のステータスを確認した坊ちゃんと眼鏡君の取り成しにより無事解決した。


 高熱で寝込んでいたのが三日。

 解決に一日。

 関連部署への説明に一日。

 尚寝シャンチンとしての仕事に復帰したのは、五日後だった。


 復帰後しばらくは、尚寝の同期、先輩に留まらず、どこで聞きつけてきたのか、他の部署の女官も加えての質問攻めにあった。


 陶様が好きな食べ物はなに?

 陶様はどんな女が好きなの?

 陶様に背後から抱きつかれたのは本当?

 陶様に耳元にキスされたのはウソよね?


 な、なによそれっ!?

 どっからそんな話になってんのよ!

 噂を流した本人に猛烈に抗議したいわっ!


 ハァ~。

 ここで私が下手なことを言うと、そこに尾ひれはひれが付いて、トンでもない方向に話が行きかねない。

 事実でない噂については、ハッキリと嘘だと告げる。

 知らないものについては、分からないと伝えた。



 最近は、ようやく噂に落ち着きが見え、いつもの日常が戻りつつある。


「ん~! よく寝た~っ! 菊露ジュルちゃん、おはよー」

「おはようございます」

「今日の朝ごはんは、なぁに?」

「今日は包子バオズーですよ」

「ん? わぁ、肉まんだ! 美味しそう~!」


 菊露ちゃんと一緒に朝食タイム。

 菊露ちゃんが作ってくれた肉まんを頬張りながら、おしゃべりをする。


「ねぇ、菊露ちゃん。私ここに来てから一度もおじいちゃんにも、おばあちゃんにも会ってないんだけど、どこにいるか知ってる?」

「おじいちゃん、おばあちゃんですか? う~ん、それなら、きっと養老宮ヤンラオゴンにいると思いますよ」

「おぉ。そうなのね! だから普段見かけないのか~。ホント、後宮って沢山の建物があって、全然覚えきれないわ」

「百以上の建物があるらしいですよ」

「そんなに……!」

「美城さん、美城さん。私も聞いてもいいですか? あ、あの、……ですか?」


 菊露ちゃんが恥ずかしそうにモジモジしている。

 え?

 ナニナニ?

 声が小さくて聞こえなかった。

 菊露ちゃんの口元に耳を近づける。

 菊露ちゃんが口元を両手で覆い、秘密の話をするように、私の耳元で囁いた。


「あの……、美城さんって、タオ様と付き合ってるって本当ですか?」


 なっ!

 ちょっ、ちょっと、誰っ!?

 このいたいけな少女にくだらない嘘を吹き込んだのはっ!


「菊露ちゃん……、その話は誰から聞いたの?」

「えっ!……」


 あっ!

 だめだめ。

 つい、誰だか知らないけど、噂を流した奴に対する殺意が滲み出てしまったわ。

 ふぅ~。

 優しく、優しくよ。


「菊露ちゃん、私は、陶様とはお付き合いしてないわ。このことは、菊露ちゃんにこのお話をした人にも言っておこうと思うの。そうしないと、この嘘の話がどんどん広まってしまうから。分かるでしょう?」

「……うん」

「だから、もしよかったら、菊露ちゃんがこのお話を聞いた人を教えてくれない?」

「……あ、あの、……シァさんに」


 夏……。

 あの、お団子頭か……。

 人を安物扱いするだけでは飽きたらず、あることないこと撒き散らしてっ!

 んもうっ!

 真実をあの団子頭に刷り込んでやるっ!

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