第23話 髪飾り(4)
「おいっ! ステータスを見せろ」
「え~」
「え~とはなんだ! お前自分の立場を分かってるのか?」
「むぅ~」
「ほらっ! 早くしろ!」
坊ちゃんに無理矢理連れていかれたのは、殺風景な小さな部屋。
机とベッドと本棚と衣装棚があるだけ。
っていうか、ここってまさか坊ちゃんの部屋?
いきなり自分の部屋に連れ込むかフツー。
どうしよう。
逃げた方がいいのかしら……。
イケメン坊ちゃんが、背後から、私の顔のすぐ近くに自分の顔を近づける。
ちょっ、ちょっと、ちょっと。
近い近い!
スゥーと離れると、スゥーと近づいてくる。
「……」
スゥー。離れる。
スゥー。近づく。
スススゥー。離れる。
スススゥー。近づく。
「ちょっと! なんで近づいてくるのよっ!」
「お前のステータスを見るためだろうがっ! 目線を合わせないと見えないんだよ!」
「誰もまだ見せるとは言ってないでしょ!」
「なにっ!?」
コンコンッ!
「天、入って良いかなあ?」
「ああ、
のんびりとした口調に合わせるように、ゆったりと入って来たのはイケメン眼鏡君。
「やあ、
「誰がするか! こんなあばずれ女」
むかっ!
「天。彼女も女の子だよ。それは失礼だろう。ほら、こんなに綺麗に着飾って。いや~、孫にも衣装とはよく言ったもんだねぇ」
むかむかっ!
「それで、天。彼女のステータスは見たのかい?」
「……コイツが見せようとしねぇんだ。ったく、自分の立場を少しはわきまえろってんだ!」
プッツーン!
「あんたねぇ! 社長の息子だかなんだか知らないけどいい加減にしなさいよ! 何度も言ってるけどね、あの髪飾りは、平安宮のトイレ掃除をしているときに、女の人から貰っただけよ! 嘘だと思うなら、自分で夜の平安宮に行ってみればいいでしょっ! また来て欲しいって言ってたから、いつでも会ってくれるわよっ!」
こんなところに、もう一秒でもいてたまるかと、ドアへと向かう。
そのドアの前には、立ち塞がるように眼鏡君が立っていた。
「……どいてよ」
「まあまあ、御堂河内さん、少し落ち着いて」
「どきなさいっ!!」
眼鏡君が、暴風に押されたかのように、トットッと数歩横にずれる。
その小さな隙間に自分の身体を捩じ込ませるようにして部屋を出た。
もう知らない……。
せっかく受かったこの会社だけど。
『後宮』を利用するおじいちゃん、おばあちゃんに憩いの場を作ってあげることができなくなるかもしれないけど。
やってもいないことの犯人にされて。
大勢に責められて。
クビにしたけりゃすればいいじゃない。
帰り道がまるで分からず、さ迷い歩く。
途中で雨も降ってきた。
雨宿りをさせてもらおうと、知らない家の軒下に入る。
綺麗な服が汚れるのも気にせずに地面にお尻をつくと、全てから逃げるように膝の間に顔を埋めた。
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