第22話 髪飾り(3)


 心養殿での天帝様との謁見。

 そこでは、私は罪人だった。


 床から二段ほど上がった位置に、玉座のような立派な椅子がドンッと置かれている。

 その椅子にふんぞり返って座る傲慢そうなおじさんの前で平伏させられた。

 頭を下げた私の脇に立った偉そうな人が口を開く。


「天帝様。今は亡き正妃様が身につけていたものにそっくりな髪飾りを身につけた女がおりました。もし、これが正妃様のものである場合、この女は墓荒らしということに御座います。即座にその首を跳ねますゆえ、髪飾りが本物か否か、ご確認下さりませ」

「なに!? その女は、ヤン シャオの墓を荒らしたと申すか?」


 えっ!?

 なによそれ?

 なんで私が墓荒らしなんか!


「していませんっ!」

「なっ! 黙れ女っ! 誰が口を利いていいと言った? 天帝様の前であらせられるぞっ!」


 むぅー。

 天帝、天帝って、なんなのよっ!

 そもそも天帝ってなによ!?

 社長か? 社長なのか?


如何いかがに御座りまするか?」

「……うむ。似ておる。そこの女。発言を許す。この髪飾りをどこで手に入れた?」

「……」

「貴様っ! 天帝様が聞いておるのだ! さっさと答えんかっ!」


 あ~、もう、やってらんないっ!

 なんで私が社長の奥さんだか愛人だか知らないけど、死んだ人の墓荒らしをしてることになってんのよ!

 言いがかりだわ! パワハラよっ!

 訴えてやろうかしら。


「……ハァ~。平安宮のトイレ掃除をしている最中に、綺麗な女の人から貰いましたー。貴女には資格があるとか何とか言ってましたー」


 はぁっ。これで満足?


「なに!? 資格があるとな……。おい! この女のステータスを」

「はっ! こちらに記されております」

「寄越せ。ふむ……ん? ただの女官ではないか! 資格などないではないかっ! この女……、墓荒らしだけでは飽きたらず、世を騙そうとするとは……。即刻、首を……」

「父上! お待ちを」


 ん?

 平伏してて見えないけど、この声って……。

 もしかして坊ちゃん?


「どうした天成テンチォン。何か言いたいことがあると申すか?」

「はい。父上、発言をお許し下さい」

「うむ。許す」

「ありがとうございます。この女の持っていた髪飾りは本物。それは我が父により証明されました。しかし、ステータスについては、女官一人一人から宦官が聞き取りを行う自己申告制だと聞いております。言い間違いや聞き違い、伝達ミスが全くないとは言い切れません。万が一、ここでこの女を斬首し、後からステータスにミスがあったと分かった場合、取り返しのつかないことになりかねません。父上、ここは今一度、私、自らがこの女のステータスを確認いたしますれば、それまでの猶予をお与え下さい」

「……うむ。では、この件、天成に一任する。皆もそれで良いな?」

「はっ! はは~!」


 ん? 首の皮一枚繋がったってやつ?

 でもな~。

 セクハラ、パワハラ当たり前のブラック企業だからなぁ~。

 辞めた方がいいのかなぁ?

 でも、おじいちゃん、おばあちゃんのために『後宮』をより良い場所にしてあげたいし……。

 う~ん。と迷っているところを、グイッと腕を引き上げられた。


「来いっ!」


 えっ!?

 あっ! ちょっと。

 イタイイタイ。

 ちょっと、坊ちゃん。

 そんなに引っ張らないでよ~。

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