第18話 ご褒美(2)


 暗っ! 怖っ!

 薄暗い闇夜の中、たった一人で寂しくトイレ掃除。

 頼りになるのは、小さなロウソクの灯りのみ。


 どこのお化け屋敷よ!

 これは絶対罰ゲームだわ。

 こんなことなら、昼間の掃除、もっと適当にやればよかった……。

 ブツブツ文句を言いながら、十箇所目のトイレ掃除を終わらせた。

 半分終了っ!

 あと半分。

 お腹空いた~!

 さっさと終わらせて晩ごはんよっ!



 ――さてさて、次は……。

 あっちね。

 平安宮は、広い上に廊下が入り組んでいて、巨大な迷路みたいな構造をしている。

 地図を片手に十九箇所目のトイレに向かう。


 コツ、コツ、コツ……。


 誰もいない平安宮の板敷きの廊下に、私の足音だけが響いている。

 ロウソクの灯りが私の巨大な影をユラユラと揺らし、大きな真っ黒なオバケが、私に覆い被さろうとしているみたいだった。


 え~っと、あそこを左に曲がればいいのよね。

 十字路を左に折れる。

 ん?

 暗がりの中、少し先に薄明かりが見えた。

 月の光に照らされて、暗闇の中にぼうっとドアが浮かんでいる。

 ドアの隙間から、キラキラと不思議な光が廊下に溢れていた。


 部屋の明かり?

 先輩、夜の平安宮には誰もいないって言ってたけど……。

 誰だろう?

 何してるんだろう?


 覗くなんてよくないわ。

 ちょっとだけならいいんじゃない。

 あの部屋のことは気にしないで、トイレ掃除に行きましょう。

 心の中で一人葛藤する。

 ……ノックして、返事をもらってからなら開けても良い……よね?


 足音を忍ばせてドアに近付く。

 足音を隠している時点で、自分がなんだか後ろめたいことをしているような気がした。


 コンコンッ! コンコンッ!

 ……。

 返事はない。


 コンコンッ! コンコンッ!

 ……。

 誰かいませんか~?


 う~。気になる~。

 少しだけなら……。良いよね?

 光の漏れるドアの隙間に手を伸ばし、そ~っと手前に引いていく。


「失礼しま~す」


 誰にも聞こえないような小さな声で呼びかける。

 チラッと中を覗こうとしたその瞬間。

 ふわりと身体が浮き上がり、部屋の中へと引きずりこまれた。


 きゃあっ!


 パタン……。

 後ろでドアが優しく閉まる音がした。

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