第17話 ご褒美(1)


菊露ジュルちゃん、お疲れ様~!」

美城みきさん! お疲れ様です」


 とりの刻となり、みんな最初に集まった部屋に戻ってきていた。


 危うく、戻り忘れるところだったわ。

 だって、酉の刻が、何時のことか分からなかったんだもん。

 たまたま近くの部屋を掃除していた子が、「終わりだよ~」って教えてくれたから助かった。


 なんでウチの会社は、普通の時刻で時間をカウントしないのかしら。

 刻と時刻の関係について、菊露ちゃん知ってるかな?

 知ってたら教えてもらいたいな。

 そう思い、隣に立つ菊露ちゃんに話し掛けようとした時だった。


御堂河内みどこうちさん。御堂河内 美城さん!」


 え!?

 な、なに? 私?

 先輩女官が私の名前を呼んでいる。

 え? 私、もしかして初日から、やらかしちゃった……?


「は、はい」


 緊張しながら返事をする。

 口から心臓が飛び出しそうなほどだ。

 そんな私の内心を知ってか知らずか、先輩がみんなの顔をぐるりと見渡す。


 う……。

 な、なに、その「はい、皆さん注目~!」みたいな動作。

 嫌な予感しかしないわ……。


「御堂河内さんが今日の最高点です!」


 ……。

 え? ええっ!?


「平安宮の長廊下が見違えるようにキレイになったと、 于姿ユージ様からお褒めの言葉を頂きました。素晴らしいわ。この調子で明日からもお願いね」

「は、はい。ありがとうございます。精進します」


 よ、良かった~。

 いきなり名前呼ぶんだもん。

 もう一回掃除やり直しっ! とか言われるのかと思ったわ。

 あ~。

 まだ心臓がバクバクいってる。


 ふぅ~。

 早く帰って、寮で菊露ちゃんと一緒にのんびりしよう!

 最高点か~。結構頑張ったもんね。良かった良かった!

 ん? あれ? ……最高点ってまさか?


「御堂河内さん、最高点のご褒美よ! これが平安宮のトイレマップ。二十箇所の掃除、よろしくお願いね!」


 えええぇぇー。


 手渡されたマップは、ファッション誌ほどの大きさだった。

 ミウラ折りで折り畳まれたマップは、かなりの厚みがある。

 えいっ!

 っと、試しに広げたら、畳二、三畳分はありそうな大きさになった。

 一階、二階、三階部分の全ての部屋と通路が、こと細かく記載されている。

 トイレの箇所には、赤丸が印されていた。


 ハァ~。

 これ絶対、罰ゲームだよね……。


 意気消沈する私とは対称的に、菊露ちゃんが満面の笑みを浮かべている。

 キラキラと目を輝かせて私を見ていた。

 まっ、眩しいっ!

 眩しすぎるわっ!


「美城さん、さすがです! 凄いです!」

「……あ、ありがとう菊露ちゃん。でも、たまたまよ、きっと」


「ヤスモノスーツの貴女、凄いじゃない」

「あ、……ありがとう」


 って、んもうっ!

 お団子頭ちゃんっ!

 人を安物みたいに呼ばないでって言ったでしょっ!

 あとで私の名前をその頭に刷り込んでやるっ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る