第12話 配属(2)


「こ、これは、タオ様! な、何故このような場所に……?」


 私の『ステータス』の掛け声と同時に、入社式を取り仕切っていた司会者の驚く声が広場に響き渡った。

 思わず声の方へと顔を向ける。

 そこには、演壇に立ち広場を見渡す若い男の姿があった。


「ぜ、全員、タオ 少武シャオウ様に平伏っ!」


 その声に、広場にいた全員が膝を折り、頭を地につけた。


 え? え?

 隣を見ると菊露ジュルちゃんもそうしている。

 私も慌てて、見よう見まねで同じ姿勢をとった。

 なに? なに?

 偉い人? 若そうだけど、重役?

 でも、こんな土下座みたいな姿勢する必要ある?


「あらら。ちょっと~! 平伏させたら、顔が見えないじゃ~ん!」

「あの、陶様。本日入宮の者達の顔を見に来て下さいましたのでしょうか? わざわざ陶様がお越しにならずとも、こちらで見目麗みめうるわしい者を見繕い、献上差し上げますので」

「ん? ん~。いや、昨日、天が憎たらしい女に会ったと言っててねぇ。その女を、馬車で正六品以下の女官達が住まう寮に送り届けたと言うんだ。あの天がだよ! あはははははははは! いや、失礼……。正六品以下と言ったら、今日、入宮する者達のことだと思ってね。どんな女なのかと興味が湧いて、つい来てしまったんだ」

「なっ! ……そ、その不敬な者の名はなんと? 探しだし、即刻、斬首致します!」

「ん~。名前は分からない。それにダメだよ~。斬首なんかしちゃ~。天が自分から女の話をするなんて初めてなんだから~。もし、そんなことをしたら、キミの首はないよ」

「はっ! はは~!」


 女官達が住む寮に女を馬車で送ったという話に、私はイヤな予感がした。

 天という名前にも、聞き覚えがあった。

 シルクハットのおじいさん、坊ちゃんのことを天様と言ってたよね……。


 あの坊ちゃんナニ?

 社長の跡取り息子とか?

 もしかして、私、ヤバい?

 斬首って、クビ切り……。辞めさせられちゃうってことだよね。

 昨日入社したばっかで、ありえないでしょ!


 でも、私さえ黙っていれば誰も気づかないよね。

 あのとき、誰にも見られてなかったもんね。

 それに、こんなに沢山の同期がいるんだもん。

 バレない……よね?


 んよしっ!

 黙っていよう。


 陶という人が去り、みんながステータス確認会場への移動を再開する。


「入宮初日から陶様見れるなんてやばくない? チョーカッコいいんだけど」

「でも私はやっぱり天様かなぁ」

「私は断然、陶様狙い。絶対モノにする!」

「あんた、こないだ天様がいいって言ってたじゃん」

「実物見ちゃったらさあ~」


 確かにクールな感じのイケメンだったけど。

 私は社内恋愛を周りに隠し通せる自信はないなぁ。

 まあ、そもそも恋愛に縁のない私はスタートラインにすら立てないんだけどね……。

 それよりも、ステータス確認やって、早く配属先に行かなくっちゃ!


 大勢の黄色い声を追いかけるように、私と菊露ちゃんもステータス確認会場へと足を向ける。

 私の後ろを歩く菊露ちゃんが、私のことをジッと見ていることには気づかなかった……。

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