第13話 配属(3)


 私と菊露ジュルちゃんは、正八品の尚寝シャンチンという係になった。


 後宮の居住空間にたずさわる係なんだって。

 要するに、介護施設『後宮』を利用するおじいちゃん、おばあちゃんが、少しでも快適に過ごせるように居住スペースを整備する係ってことよね。


 入社して初めての配属。

 よ~し! やるぞ~!

 おじいちゃん、おばあちゃん、待っててね!

 快適空間にするからねっ!


 あ。おじいちゃん、おばあちゃんのことは、ここでは天子様って言うんだっけ。

 んもうっ! ややこしいなぁ……。



 尚寝に配属された新入女官は、百人。

 全員が集まったところで、先輩女官からの説明が始まった。


「貴女達には後宮の一つ、平安宮の清掃をしてもらいます。各自の清掃場所の担当は、あそこに書いてあるから、あとで見ておいて」


 先輩女官が部屋の右手の壁に指を向ける。

 そこには、壁一面に大きな見取り図が張られていた。


 あれが平安宮かぁ。

 うわぁ~。

 部屋、幾つあんの?

 百人体制でもキツくない?


「昼食等の休憩は自由。但し、とりの刻までに清掃を終わらせること。貴女達の一挙手一投足は、全て先輩女官により記録され採点されているから、そのつもりで。清掃終了時に百人の中で最高点を取った者には、ご褒美として、平安宮にある二十箇所全てのトイレ掃除を実施する権利が与えられるわ。以上よ。質問のある者は?」


 ん?

 トイレ掃除の権利?

 それってご褒美なの?

 いらないんだけど……。

 どうしよう。いらないですって言っていいのかしら……。


「トイレ掃除も分担してやればいいと思うんですけど」


 おおぉ!

 勇気ある真っ当な意見を出した強者つわものが!

 だれだれ?

 どんな人?

 ん? ん~~~。

 誰だっけ? あのお団子頭、どっかで見たような……。


「それなら貴女がやる?」

「……いえ。やりません」

「あら残念。他に質問がないようなら開始よ。全員、自分の担当場所へさっさと行きなさい!」


 菊露ちゃんと一緒に、自分達の清掃場所を確認する。


「美城さんとは、かなり離れた場所ですね。近くになれたら良かったのに……」

「ね。私も菊露ちゃんと一緒に協力してやりたかったな。離れちゃったけど、お互いに、おじいちゃん、おばあちゃん、あ~、じゃないや。天子様のために、頑張ろう!」

「はい! 頑張りましょう!」


 菊露ちゃんの小さい背中を見送る。

 さて、私も自分の場所に行こうかしら。

 と、足を踏み出しかけたその時、背後から肩をトントンと誰かに叩かれた。

 後ろを振り向く。


「貴女、ヤスモノスーツの人ね」


 え?

 あ、あ~!

 さっき先輩に対して意見した人!

 そうだ!

 この人、面接の順番待ちの時に私の後ろでチャイナドレス着てた人だ!


 って、んもうっ!

 お団子頭ッ!

 人を安物みたいに言うなっ!

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