第2章 キッカケ

第11話 配属(1)


 今日は、入社式。


 清々すがすがしく晴れ渡った空の下。

 菊露ジュルちゃんと一緒に式典会場の広場に立っている。

 昨日、内定もらって、もう今日は入社式なんて、なんだか不思議な気分。


 周りには人、人、人……。

 女ばっか。男は一人もいない。

 なんだか女子高みたい。

 それにしても、これだけの人が、いったいどっから湧いてきたのかしら?

 同期がこんなにいるなんてビックリだわ。


 大学の知り合いでもいないかと、周りを見渡していた時だった。

 突然の大音響に広場が包まれた。


「全員、静粛に! これより入宮式を始める。正二品、充儀、 于姿ユージ様のお言葉を頂戴する。黙って拝聴せよ」


「わぁ~! 思 于姿様よ。お美しいわ~」

「天帝様の覚えもよく、正一品の座に最も近いと言われているお方らしいわ」

「さすが思様ね~。お近づきになりたいわ~」


 へー。有名な人なんだ。

 人の頭が邪魔で、全然見えないけど……。


「静粛に!!」


「皆さん、おはよう。取り敢えず、入宮おめでとうと言っておくわ。この中から何人が脱落するのか見ものだけれど、入ったからには、少しでも天子様の役に立つよう努力なさい。周りにいる者は全員、ライバルになるわけだけれど、只のライバルではないわ。大切な戦友よ。そのことを肝に命じてせいぜい這い上がってきなさい。私からは以上よ」


 姿は見えなかったけど、その凛々しい言葉には感銘を受けた。

 皆、戦友か。

 うん。頑張ろう!

 みんなで介護施設『後宮』を、おじいちゃん、おばあちゃんが、最高にくつろげる場所にしていくんだから!


「思様、ありがとうございました。では諸君、このあとはステータスの確認を行い、その場で配属決定となる。申し渡された配属先に速やかに移動後、制服を受け取り、業務に従事せよ」


 ステータスの確認?

 なにするんだろう?

 自己紹介みたいなことをするのかな?

 隣の菊露ちゃんが不安そうにしている。

 少しでも気持ちが和めばいいなと、努めて明るく話し掛ける。


「ステータス確認だって。何するんだろうね?」

「……美城みきさん?」


 ん? アレ?

 菊露ちゃんの目が点になっている。

 え? 私、なんか変なこと言った?


「美城さん、ひょっとして、ステータスを知らないとか言わないですよね?」

「え? えっと~。社会的な地位とかのことよね? 高級車とかハイブランドのバッグを持つのが一種のステータス、みたいな……」

「あ、あの、私には美城さんの言ってることがよく分からないですけど、多分違うと思います。……あんまり人に見せるようなモノではないですけど……。これです。『ステータス』」


 菊露ちゃんの目の前に半透明のボードのようなモノが表示される。

 手招きされて、菊露ちゃんの目線に合わせてしゃがみこむと、ボード上になにやら文字が見えた。


 おぇ!?

 な、なにこれ?

 どうやって表示してんの?

 ……あ! アレ? 拡張現実ARってヤツ?

 スゴ~い。

 ウチの会社、最新技術も取り入れてるんだ~。

 ちょっと感動。


 ---------------

 名前:伊 菊露

 クラス:女官

 レベル:10


 パッと表示が消える。

 レベルの下にもズラッと文字が並んでいたのに読めなかった。


「あ、まだ全部見てないのに~」

「全部見ないで下さい! そもそも、人に見せるようなモノではないんです! 美城さんだから特別に……」


 菊露ちゃんが顔を真っ赤に染めている。

 恥ずかしそうに唇を尖らせて、ゴニョゴニョと文句を言っているようだった。

 フフッ。可愛いなぁ、菊露ちゃん。

 頭を撫でると、さらに真っ赤になって小さくなった。


 そんな私達を尻目に、周りのみんなは続々とステータス確認の会場へと移動していく。


 ヤバイヤバイ。

 私達も早く行かないと。

 菊露ちゃんが、ぷく~っと膨れながらも『ステータス』と言えば、誰でも見れるんだと教えてくれる。

 どんな原理?


「もうっ! 私は知りませんっ!」


 そう言うと、プイッと向こうを向いてしまう。

 ぷりぷり怒っている。


「菊露ちゃん、ゴメンゴメン。恥ずかしい思いをさせてゴメンね。もう見ないから許して」

「……もうっ! 今回だけですよ」


 うんっ! 約束!

 菊露ちゃんに笑顔が戻ったところで、じゃあ私もやってみるねと大きく息を吸い込んだ。

 ヨシャ! 行くよっ!


「『ステータスッ!』」

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