第8話 出会い(4)


 私はまだ道に迷っていた。

 同じような狭い路地をウロウロウロウロ。

 誰かに道を聞こうにも人に出会わず……。

 周りの家の戸を叩いても誰も出てこず……。


 ふぅ~と息を吐き、空を見上げる。

 あぁ、夕日が綺麗だわ。

 って、今更だけど、ここって都内……よね?

 高層ビルは見当たらず、人や車の姿も全くない。

 んんん?

 と、私が首をひねったときだった。


 カポッ、カポッ、カポッ、……。

 ガラガラガラ……。


 ん? おおっ!

 馬車だ! 箱馬車だ!

 きらびやかな箱に細かな装飾が施された豪華な車体を、しっかりとした足取りの二体の馬が引いている。

 テレビでは見たことはあっても、実物を見るのは初めてだった。

 馬のリズミカルなひづめの音と、馬が引く台車の車輪が地面を転がる音が徐々に近づいてくる。


 やった! 人だ!

 あの馬車に乗っている人に道を聞こう!

 両手を大きく広げ、お~い! と馬車に向かって振る。

 私に気づいてくれたようだ。

 徐々に馬車の速度が緩くなり、私の目の前で停まってくれた。


「あの、すいません」


 黒いシルクハットにオシャレな燕尾服えんびふくを身にまとった御者ぎょしゃのおじいさんに話し掛ける。


「どうしました? こんな場所に貴女のような可憐な女性一人とは、危険極まりない」


 ビシッと伸ばしていた背筋を軽く曲げ、柔らかく微笑む。

 ダンディという言葉は、この人のためにあるのではないかと思った。

 若い頃はモテたに違いない。


「道に迷ってしまって。ここがどこかもよく分からなくて……。もし知っていたら、ここから一番近い駅までの道を教えてくれませんか?」

「駅? う~ん。申し訳ありません。わたくし、駅というものがどんなものなのか存じ上げません」


 え?

 ……。

 馬車や着ているモノが、どことなく気品溢れる高級そうなものばかり。

 お金持ちは、自家用車で移動するから、電車などの公共交通機関は使わないと聞いたことがある。

 だから、駅がどこにあるのか分からないってことなのかもしれない……。

 諦めて、他の人を当たろう。

 長い間、引き留めるのも悪いしね。


「引き留めてしまってごめんなさい。どうもありがとうございました」


 道を開けるため、端に寄った時だった。


 ガチャリ。

 という車体のドアを開ける音と共に「爺、どうした?」という若い男性の声が聞こえた。


 出てきたのは、目がくらみそうなイケメンだった。

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