第7話 出会い(3)
市場からの帰り道。
人気のない狭い路地を二人並んで歩く。
お昼を食べながら、せっかく同部屋になったんだし、記念に二人でお揃いの何かを買って帰ろうということになった。
そうして購入したのが、私と菊露ちゃんそれぞれの左手首に通されたお揃いのシュシュだった。
今度、このシュシュで菊露ちゃんの髪を編んであげたら喜んでくれるかなぁ。
そんなことを考えながら、路地の角を曲がろうとした時だった。
突然、小さな悲鳴が上がった。
「きゃっ!」
「いてーなー」
「ご、ごめんなさい……」
「おー、いてー。腕が上がんなくなっちまった。こりゃあ、医者に見てもらわなくちゃなんねえなぁ。金が掛かるなぁ。どうすっかなぁ」
そう言いながら、
壁のような男だ。
その男の後ろには、樽のような男と、棒のような男がニヤニヤと下品な目つきで、私と菊露ちゃんを値踏みしていた。
菊露ちゃんが、男の視線に固まっている。
蛇に睨まれた蛙だわ。
どう考えても、壁男の言いがかりよね。
「こっちは謝ったし、ぶつかったのはお互い様でしょ。私達、急いでるんで。行こう、菊露ちゃん」
菊露ちゃんの手を引いて、その場からさっさと離れようとした時だった。
「おおっと。兄貴にぶつかったのは、よそ見をして歩いてたその小娘だよなあ。なあ、
「なあ、
樽男と棒男が二人で示し合わせたように、私達の前に立ち塞がる。
後ろには壁男、前には樽男と棒男。
市場は、あんなに人でごった返していたのに、少し離れたこの場所には、人の姿は見当たらない。
……コイツら。
私達のような、いいカモが引っ掛かるのを、ここで待ち伏せしてたわね。
……こんな奴らに。
……勿体ないけど。
男達に気づかれないように、市場で購入した塩の袋にそっと片手を突っ込むと、塩をギュッと掴んだ。
「兄貴の腕の治療費だけどよぉ。取り敢えず持ってる金、全部置いてってくれや。なあ、清」
「なあ、乙」
そう言いながら、ヒタヒタと樽男が近づいてくる。
タイミングを見計らう。
もう二歩、もう一歩。
……今だっ!
と同時に、菊露ちゃんの手を引いて、ダッシュ!
「ウギャッ! め、目が~。目が~」
「ヤロウ。待ちやがれっ!」
「待てコラァ!」
「待てと言ってんだろうがっ!」
待てと言われて、誰が待つかっての!
「菊露ちゃん。ここに隠れて」
菊露ちゃんを物陰に隠し、私は男三人を引き連れて、必死に走る。
狭い路地を右、左、右、右、左……。
もう自分がどこを走っているのか、全く分からない。
気づくと、さっきまで追いかけてきていた男達の足音が聞こえなくなっていた。
なんとか逃げ切れたみたい。
菊露ちゃんは無事だろうか。
あいつらに捕まらずに、寮まで一人で帰れただろうか。
早く菊露ちゃんの無事を確かめなくちゃ。
って、ここはどこかしら?
スマホ、スマホ。
地図アプリ、地図アプリ。
あれ? いつもならここに……。
んん? うーん。
あ……! 今朝、アパート出るときに玄関を出ようとして靴箱の上に置いて。
置いて? そのまま置いて、きた……よね……。
おぅマイガーッ!
思わず天を仰ぐ。
まばらにポツポツと浮かぶ雲。
夕暮れの透き通るような空に、一番星が見えた。
イッタイ、ココハドコデスカ?
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