第5話 出会い(1)


 総務の人……だと思う。

 その人に案内されて来たのは、社員寮。


 介護施設の見学かと思って来てみれば、今日からこの寮で生活して下さいだって。

 ええー!

 そんなこと募集要項には、一言も書いてなかったじゃーん!

 着替えもないし、お金だって持ち合わせが少しだけ。

 今朝出てきたアパートもそのまんまだし、大学の卒業論文もまだ残ってる。


 しか~し!

 二十社目にして、やっと受かったこの会社。

 みすみす逃してなるものか。

 まあ、アパートも論文もなんとかなるでしょ。

 総務の人に、何も持ってきてないことを訴えたら、これで身支度を整えて下さいって、支度金みたいなものも貰えたし。

 エへへ。言ってみるもんね。


 道すがら聞いた話では、社員は全員、寮に入るんだって。

 あっ!

「社員ではありません! 後宮こうきゅうで働く者のことは、女官にょかんと言います。常識ですよ!」って怒られたんだった。

 女官ね、女官。

 男の人の場合は、何て言うのかしら?

 男官?


 寮にはグレードがあるんだって。

 新入社員、あ……、新入女官の場合は、一世代前に建てられた古いアパートメントに二人一組の部屋があてがわれる。

 風呂、トイレ、台所は全て共用で、部屋も大して広くないらしい。

 なんだか学生寮みたい。

 っていうか、この建物、傾いてない……?

 傾いてるよね?

 気のせいかしら?


 宛がわれた部屋に入ると、私と相部屋になるもう一人の子が既に部屋にいた。


「あ、あの……。わ、私、イー 菊露ジュルと言います。よ、よろしくお願いします」

「うん。私は、御堂河内みどこうち 美城みき。こちらこそ、よろしくね!」


 伊 菊露ちゃんは、クリクリした大きな瞳と、ほんのりと赤い頬っぺたが印象的な女の子。

 黒髪の乙女という言葉が似合いそう。

 ちっちゃくて、お人形さんみたい。めっちゃ可愛い!

 まだ十二歳だって!

 若っ!


「ねえ、菊露ちゃん。今日は、明日からの業務に備えて必要な準備を整えて下さいって、総務の人に言われたんだけど、菊露ちゃんは着替えとか持ってる?」

「は、はい。りょ、両親がこれも持ってけ、あれも持ってけと……、いろいろ持たされて……。ご、ごめんなさ~い」


 ええぇ!?

 な、なんで泣くの?

 菊露ちゃん、泣かないで。

 せっかく、同部屋になったんだから仲良くやろう!

 励まし、なだめて、やっと泣き止んでくれた。

 原因は大量の荷物。

 菊露ちゃんのご両親が持たせたという荷物が、部屋の半分以上を埋めていた。

 自分の私物で部屋の大半を取っちゃって、私に悪いと思ったんだって。


 私は全然大丈夫だよ!

 寝るスペースさえあれば問題なし!

 なんせ、私の住んでる築三十年のぼろアパートの部屋なんて足の踏み場もなくて、こないだなんてゴキブ……、いや、これは話すのはやめよう……。うん……。


「私、なんにも持ってないの。もし、菊露ちゃんさえよかったら、一緒に買い物行かない? 着替えとかコスメとか買いたいし」

「は、はい。わ、私は大丈夫です」

「ほんと! ありがとう~! じゃあ、早速……」

「あ、あの……」


 菊露ちゃんが、なにかを言いたそうにモジモジしている。

 ナニナニ? なんでも言って!


「コ、コスメって、何ですか?」


 うぐっ!

 そう。そうよね……。

 十二歳には、まだ必要のないモノね。

 若いっていいな……。


「化粧品のことよ」

「あっ! あ、で、でも、新人女官は、お化粧禁止ですよ」


 え? ええっ!? ええぇ!?

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