第18話 力と勧誘 1/3

「ボランティア部?」


 聞き慣れない言葉を詩音は復唱し龍二は頷いた。


「あぁ、普段は生徒や教員から持ち込まれた依頼を請け負ってる。言ってみればどんな依頼も請け負う六坂のトラブルシューターさ」

「けどそれは表の顔だ。俺たちにはもうひとつ裏の顔がある」

「その通り。俺が仲間になることを条件にしたのもそれがあるからだ」


 大我が椅子をゆらゆらと動かして呟き、龍二がさらに続ける。

 それを聞いた詩音はなにか合点がいったとばかりな顔をした。


「なるほどな。ヤバいことでもやってるからその手伝いをしろっていう訳か。なら私は――」

「違ぇよ。話をちゃんと最後まで聞け」


 表情を険しくする詩音の言葉を遮って、龍二は口を開く。


「俺たちのバックにいるのは警察だ。今日の朝っぱらから俺が連行されたのも依頼の話だ」

「なんだ、そういうことかよ。てっきりコイツのせいで連れていかれたのかと思ったのに」


 しれっとそんなことを言い出す大我に全員の無言の視線が集中する。


 龍二と詩音の決闘は元はと言えば大我の勘違いが原因で、つまるところ今日の出来事の元凶はほとんど彼にあるのだが本人はそんなものは知らん顔だ。

 まぁ、その勘違いのおかげで詩音をここに招くことができたのである意味では結果オーライなのだが。


 詩音がいかにも胡散臭いものでも見るような視線で龍二に問いかけてくる。


「で、警察がバックにつくような裏の顔ってなんなの?」

「なんだと思う? 当ててみろよ」


 勿体ぶった調子で龍二はニヤニヤと笑いかける。

 しかし詩音が答える気はないと黙り込んでしまったので白けた顔でため息をついた。


「能力者絡みの事件解決だよ。この六坂市は人間の特殊な能力を開花させることができる街なんだ」


 そういうと、今度は理久が龍二の言葉を引き継いだ。


「能力者は僕たちが生まれるずっと前からいた。しかし、その能力は何百年も前から使えなくなっていた。だがこの数年、その状況が一気に覆っている」


 学者のような理久の言葉に詩音は眉をピクリと動かす。


 能力者には、それぞれに固有の能力を持つ。

 だが、それらの能力は漫画やアニメのような手から火球を生み出したり、別の場所にワープしたりするなどの大それたものでなく、自分から言ったりしない限りは気づかれないようなものばかりだ。


 それでも使いようによっては犯罪などに使用できるほどの力は持っているというのが厄介な点である。

 龍二はやれやれとばかりに肩を上下に動かす。


「それによって能力者絡みの事件が増えてるが警察は通常の対処はできない。能力を使われると事件性の立証が難しくなるからな」


 能力者の能力はこの土地でしか発動しない。


 この土地特有の条件があって、警察内でも対処が後手に回っているのだ。

 最近になって『能力者対策室』という小さな部署が秘密裏にできたことからも警察の対応の遅さがわかる。


「そういうことで、警察はあちこちにネットワーク張り巡らして能力者犯罪に対処しようとしてるのさ。そして俺たちはそのネットワークの一部ってこと」


 そう言って龍二は説明を締めくくる。


 結論から言わせれば、ボランティア部は生徒や教員から依頼を請け負い助力または解決するというボランティア部としての正式な活動と、警察から能力者関係の依頼を受けてその調査や情報収集のために動くという二つの目的を持って動いているのだ。


「あんたたちが警察から依頼を受けて探偵団の真似事をしてるのはわかった。でもそれが私とどういう関係があるの」


 辛辣な言葉を吐く詩音に対し、龍二はなにかを確認するようにちらりと理久の方に視線をやる。


「じゃあ単刀直入に聞いてやる。能力者に関してはお前も心当たりがあるだろ」

「……なんのこと?」


 詩音は首を傾げたが、答えるまでの僅かな間を龍二は見逃さなかった。


「今更とぼけるなよ。俺の前で使っただろ能力」

「それも人の視界から消える能力をな」

「……ッ!」


 補足するように口を開いた理久に詩音の視線が向く。

 それだけで龍二は自分の予測が的外れではないことを確認した。


「理久は能力者で視た相手が能力者であるか見抜く能力を持っている。ついでに言えば、どんな能力かもある程度わかる。さぁ、説明してくれ。お前の能力はどんなものだ?」


 沈黙を貫く詩音をジッと龍二はそう問いかける。


 同時に考えた。

 彼女は心の内でなにを思っているのだろうか。

 自らの秘密を明かしてしまおうと考えているのか、それともまた別のことか。


 そうやって彼女の動作に注視したが龍二はなにも読み取ることができず、詩音は肩の力を抜くように息を吐く。

 そしてその姿が霞のようにかき消えた。


「私の能力は、相手の死角を視認する能力だ」


 声が聞こえた時、目の前に詩音がおり顔面には彼女の拳が突きつけられていた。

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