第十二幕 静かなる問い
ディアス・エヴァンスは、村からほんの少し
のどかな村を一望できる
しかしここは、村のどこよりも
しばらくしてから、ディアスは前を向いたまま問う。
「それで、調査の結果はどうだった?」
後方にある茂みから、かすかに
一つの樹木に視線を投げると、そこから全身黒一色の装いをした者が現れる。
「ご報告いたします、ディアス様」
「申し訳ございません。いまだ吸血鬼の存在は確認できておりません」
「まあ、僕が
「おそらく……としか申しあげられません」
ディアスはまた前を向き、小さく
「
「どうやら、それもございません。村人達に
ディアスは
吸血鬼の等級は
怪物を妖魔と呼ぶ意味合いは確かに強いが、あくまでも妖魔とは総称にすぎない。
吸血鬼は
「今回の
「はい。村に立ち寄ったカルメルという名の冒険者からの報告です」
「その冒険者は?」
「
ディアスは溜め息をついた。いずれにしても、
「まあ、報告から気になる点……いや、たぶんあれが吸血鬼だろうな」
「気になる点……?」
「この村をあまりよく知らない者には気がつきづらい、ほんのかすかな違和感だな。それをわかっているからこそ、ヴァーミル団長は僕を
ディアスは暗部の女に、
「ご苦労様。おそらく吸血鬼と戦闘になるが、加勢はしなくてもいいぞ」
「し、しかし!」
食い下がる暗部の女に、ディアスは冷静に告げる。
「あちらの味方を増やされると困る。だから暗部には村人の
「十二守護精霊の一体から
「ああ、そうだ。これまで生きてきた二十一年間で――彼が一番の驚きだな。間近で彼の力を
「私も映像ではありますが、ディアス様達の闘いを
「いつかもっと
ディアスは村のほうを向いてから続ける。
「彼は……まだ、ただの
「ディアス様……」
「いつの日か
暗部の女はやや沈黙したあと、さり気ない声で質問をぶつけてくる。
「そういえば、エレアノール様とは仲直りしたのですか?」
「ん、人聞きが悪いな。別に
暗部の女が、たっぷりと間を置いてから告げてきた。
「はっきりと申しあげますが……エレアノール様は
「ははっ……これは
暗部の女は首を左右へ振った。
「エレアノール様と接しているお二人を、遠目から
「でも、少し安心しました。
ディアスが指を
「さ、さて……もうそろそろ約束の時間だ。もし僕がやられるような状態になれば、君は騎士団に戻って報告してくれ。決して手出ししてはいけない。いいね?」
「了解しました。どうか、お気をつけて」
瞬時に姿を消した暗部の彼女を見送り、ディアスはまた村に視線を
村はただただ、
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
集合場所となっていた酒場へ戻ってくると、すでにディルが待っていた。
「ディル、悪い! 俺、遅れちまったか?」
「いや、僕もさっき着いたところだ」
ディルの雰囲気から、気を使って言っているわけではなさそうであった。
悠真は心の底から安堵する。
「よかった。ちょっと時間の感覚がなくなって、
「ふっ、この村の空気が気に入ったみたいだな」
「なんつぅか……時間が凄くゆっくり流れてる感覚なんだよな。ここ」
ディルは小さく笑い、ゆっくりと
「僕も初めて来たときは、そんな気分だったな。だから気持ちはよくわかる」
同じ感覚を受けていたディルに、悠真は笑みで
ふと、もし銀髪の彼女が隣にいたらと
(本当ならこういう旅や初めての何かって、シャルとしてたんだよな……)
「どうした、悠真」
「なんでもない。それより、酒場に入ろう。かなり腹が減っちまった」
「ああ、たぶんもの凄いご
「そりゃ楽しみだな」
悠真とディルは酒場の扉を開き、鈴の音色に
ディルが予想した通り、机の上には
確実に食べ切れないと思われる量であった。
大将と女将が、奥から姿を見せる。
「おお、戻ってきたか。ささ、座れ座れ」
席を勧めてくる大将の指示に
真向かいに、大将と女将も腰を下ろした。
「まあ、急だったからこれぐらいしか用意できねぇが、
「本当に
悠真が
「
用意された料理は、どれもこれも本当に美味しい。肉類は香辛料を使われたものが多く、食欲を
「相変わらず、大将と女将さんの料理は美味しいな。それに
「まあ、王都の料理にゃあ負けちまうだろうがな」
「何を言ってんだい! 王都の料理より美味しいに決まっているじゃないか」
「おっと、女将に
笑い飛ばす大将の脇で、女将が
大将達のやり取りを眺めながら、悠真は
しばらくして、悠真は腹に限界を感じ始めた。どう考えても並べられた料理の量が多すぎるのだ。まだ全体の十分の一程度しか量が減っていない。
ディルを横目に見ると、まだまだ食べられそうな雰囲気を
(マジかぁ……って、それもそうか)
昔、何かで
普段から
今現在、悠真の胃袋はすでにその水準を大幅に超えているに違いない。
「どうした、悠真。まさかもう腹がいっぱいなのか?」
ディルの問いに、悠真はかろうじて苦笑で
大将が腕を組み、からからと笑った。
「なんでぇなんでぇ! 若いんだから、もっともっと食え」
「う、あ、は、はい……いただきます」
正直、これ以上の食べ物を口に入れたら逆流してしまう可能性が高い。
そうならなさそうな料理を、悠真は必死に目で探した。
「そういえば、大将と女将さん――」
ディルの
「今朝、酒場に来た花の髪飾りをした彼女……あの人が吸血鬼じゃないのか?」
「えっ……?」
悠真は
ディルに視線を移すと、表情は爽やかなまま大将達を見つめている。
「大将達は、どうして吸血鬼なんかを
大将と女将が、ディルの問いに表情を硬くしている。
とてつもなく重い沈黙が、
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