第十三幕 危険な妖魔
場の空気に
大将達は無言のままディルを見つめ、口を開こうとする気配は一切ない。不可解な発言をしたディルも、あれからずっと口を閉ざし続けている。
何を
悠真は無言の
「ディル。あのロラーナって子と、村の広場で
「ああ、ロラーナはいい子だ。ディル坊、
大将の言葉に、
「どんな理由があって吸血鬼に
ディルの発言から、光の聖女の
悠真は自然と、やや強めに拳を握り締めていたのに気づく。
「仮に吸血鬼だったとして、別に
「ディル坊。私達は――」
「吸血鬼の情報を持っていた冒険者が
ディルに言葉を
大将は
「そもそもだ。その情報自体、本当かどうか
「話す気がないのであれば、それで構わない。本人に直接
ゆっくりと席を立ったディルを、悠真も腰を上げてから両手で制する。
「待て待て待て。何をするつもりだ」
「もちろん、吸血鬼を
ディルは腕を組み、ゆったりとした口調で続ける。
「百年ぐらい前に一つの小さな村が吸血鬼に
吸血鬼とは、
はっきりとした
「いい人だとか、悪い人だとか……
そう言い残し、ディルは一人で酒場を後にした。
場に重い空気が残され、
「あの、大将に女将さん。本当に、ロラーナさんが吸血鬼なんですか?」
大将と女将が顔を見合わせ、それから静かに語った。
「正直、わからねぇ……だけど、ロラーナの
「最初は私らも、彼が吸血鬼とは知らなかった。でもね、彼女を助けるためならばと
女将の声は
大将はやや
「いや、でも! 傷が
「私ら村の者は、本当に誰も
大将は
「ただ、まあ……ディル坊もディル坊で、間違ってないってわかってんだ。あいつも国を
「あの子にあんな顔させて、私らどうしたらいいのかわからなくなっちまったよ」
また沈黙が落ちたが、長くは続かなかった。
「悠坊。無理を
「あんた、あの子の友人なんだろ? 私からも頼むよ」
頭を下げる二人を見てから、悠真は視線を落とした。
吸血鬼に関して、悠真はよく知らない。ディルの騎士としての
ただ一つだけ、わかるものがあった。
悠真は少しずつ
「俺には何が正しくて正しくないのか……よくわかりません。それでもディルともう一度、話してみたいと思います。ロラーナさんが住んでる場所、教えてください」
「ああ、ありがとう」
大将と女将は、そっと顔を見合わせてから表情を明るくした。
何も聞かずに飛び出した。その彼が、なんの情報も得ていないとは考えられない。おそらく別行動を取ったとき、吸血鬼に関する情報を得たに違いない。
悠真は、はやる気持ちを必死に
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
村の奥に大きな屋敷がある――ずいぶん古びてはいるものの、
そんな古びた屋敷の庭園で、ディアスは一人の男と
見た目は
「僕は
「君が……というわけではないが、そんな者がいつか来るとはわかっていた」
ディアスは
「ここは僕にとって、とても思い出深い場所なんだ。今はまだ村人達には手を出していないようだが、それでもお前らは
「
ディアスは胸元に
ゆっくりと大剣を構え、ディアスは目に力を込める。
「問題ない。実力で
「短い時の中にしか生きていない若造が、知ったふうなことを……」
「もう一体はどこにいる? いや、いいさ。それも僕が見つけて討伐する」
男は
「彼女はただの人だ! 私に
吸血鬼の発言は、ディアスの気分を重くさせた。村人達に手を出さなかった理由をそれとなく呑み込んだ。おそらく、彼は〝変えられた側〟の
変えられた者の中には吸血鬼の
もともとは人――そうであったとしても、
ディアスは
吸血鬼は地を踏み締め、
間合いに
吸血鬼は瞬時に身を低くして、大剣をするりとすり抜ける。爪での攻撃は、
素早さも、力も、技術も一級品と言える。そう
「
強化系統の秘術を発動し、ディアスは
瞬間――吸血鬼の声が響いた。
「
ディアスは大剣でいなしながら、吸血鬼を目指していった。しかし赤黒い剣の数が
後方へ大きく跳躍し、ディアスはいったん距離を取った。
「黒鉄騎士団の団員が、その程度なのか?」
吸血鬼のせせら笑いを聞き、ディアスは
どうやらこの吸血鬼は、
そもそも妖魔の等級とは、当然
特に〝人に近い〟個体ほど――ディアスは首を横に振った。
(ただの混血種じゃない、か……でも、僕がここでやらなきゃだめなんだ)
本来、三級下等以上の妖魔が確認された場合、最低でも一つの騎士団以上の戦力が動く。しかしそうなれば、村にどれほどの被害が出るのかわからない。
国を
(僕がここでやられれば、親父が騎士団を動かすだろう……絶対にそうはさせない)
「私の
吸血鬼は手のひらを顔の前にかざした。指にはめてある赤い指輪が、まばゆい光を放つや、一本の赤い剣が生み出される。吸血鬼は
「私は、こんなところで死ぬわけには……諦めるわけにはいかないのだ!」
吸血鬼は
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