果実酒の村
幕間二 光と闇と炎
大自然に囲まれた
しっかりとした手入れが行き届いている庭園の
やや離れた位置でハーミットが剣を抜いており、悠真は地に
「くそっ……!」
歯を
風で金髪をなびかせる女が、
「なぜ攻撃してこない。なぜ秘術を
悠真は答えない――いや、
無力化のみを狙った攻撃が、すべて相手に見切られてしまった。そのたびに反撃を繰り出され、現状は立つのが難しい状態にまで追い込まれている。
相手が女でなければと思うものの、性別を差し引いても彼女は異常に強い。
息を整えてから、悠真は口を開く。
「どうして……シャルが、お前らに
「
「一緒だろうが! 俺は……シャルが自由になれるように、命を
目の前に立っているハーミットの表情が、
ハーミットは力強い踏み込みを見せる。
「くっ……」
「ならば
ハーミットは
「礼は、言おう。
「ふざ、けるな!」
「ビアガネルス教団が、すでに今回の件で
「それにだ。ビアガネルス教団だけではない。これまで禁忌の悪魔を
土に刺した剣を抜き、ハーミットは
「だからこそ、現在の光の聖女様は――我々、ラスティア教団が保護するのだ」
「勝手なことばっか、言ってんじゃねぇぞ!」
気力を振り絞って立ち、悠真はハーミットを強く
「俺からすれば、邪教もえせ国家もお前らも全部同じなんだよ!」
悠真は胸に力強く左手を
「悠真君! その力は二度と扱ってはだめだと言ったでしょう!」
やや遠くで見守っていたアリシアが、
桃色の短い髪をした彼女に、悠真は視線を
「俺だって、シャルを護ってやれるって証明してやるんだ!」
悠真はハーミットの
「闇の精霊王ガガルダ! 俺に力を貸せ!」
黒い
「うぅ、う、うぉおおお――っ!」
ただでさえ、ハーミットから受けた傷で痛みがある。転化する直前に起こる体中が
悠真は
ハーミットの表情が、
「なっ? 闇の、精霊王?」
握り締めた剣の
「
ハーミットの
「
彼女の剣筋を予測して
悠真は右腕で振り払い、灼熱の炎をかき消した。
そして左の手のひらに、小さな黒き紋章陣を発現させて握り
暗黒に支配された中で、悠真だけがすべてを見通せる空間となる。
視界を奪われたはずのハーミットが、やや
取り出された何かが地面へ
そんな光景を見つつ、悠真も手を休めない。力強く両手を
周囲を
視界は完全に、闇で閉ざされているはずだった。それなのにハーミットの視線が、自分をしっかりと
四方八方に剣を振り回し、ハーミットは闇を切り裂きながら
「
周辺に赤き紋章陣が
ほんの少しでも
また視界が、
息つく
炎をまとった剣を、ハーミットは大きく振り被った。
悠真は漆黒の紋章陣を浮かべ、虚空を黒く染める闇の盾を作り上げる。
闇の盾と炎の剣が
十秒ほどの短い攻防の
呼吸が激しく乱れて、
頭が
「正直、驚かされた。ただ、その力はずいぶんと
闇の精霊王の力をもってしても、
その事実が、悠真に絶望――
「一対一でも、このありさまだ。邪教や国は一人ではない。数え切れないほどいる。そんな代償が大きな力は、集団戦には向いていない。いい
「何、終わった雰囲気、出してやがんだぁああ!」
悠真は痛みを無視し、気力を絞り出して立ち上がった。
そしてもう何もできないと、瞬時に
「まだ、終わってなんか、いねぇから……」
もはや無意識の
そのとき――両手を大きく広げたシャルが、ハーミットの前に立ちはだかった。
「もう、やめてください。わかりました。わかりましたから!」
「な、シャル……」
肩越しに顔だけ振り返ったシャルを見て、悠真は
「悠真も、お願い。もう、転化しないで」
「
無理をしていた
「悠真!」
心配を色濃く表情に宿したシャルが、ハーミットのほうへ向く。
「ラスティア教団でもどこでも、私……行きます。だから、もうやめてください」
「何、言ってんだ、シャル」
手にした剣を
「どうか、お許しください。戦闘
ハーミットが表情と態度に、
黙っていたシャルが、少ししてから力強さがこもった声を出した。
「ラスティア教団の保護を、お受けいたします。それから光の聖女としての
シャルの発言中、女
三十代
「聖女様の
「一つ……可能な限りで構いません。私に自由な時間を与えると約束してください。二つ、私にとって
マイナは黙考の姿勢を見せ、しばらくして
「わかりました。聖女様の御意志に
「最後に……もしも邪教団や、禁忌の悪魔を
マイナとハーミットが
シャルはもの
「私は禁忌の悪魔として
シャルの
禁忌の悪魔がどんな存在か、この世界に生きる者は誰もが知っている。理解をしていればいるほど、シャルの願いはあまりに普通で――とてもせつないものであった。
マイナは
「聖女様に
「
「ええ、わかっています」
マイナに
表情は微笑んでいるのに、どこか
「シャル。お前、どうして……」
「ごめんね、悠真。しばらくの間、待っていてくれる?」
かすれがちな声をしたシャルに、悠真は重ねて
「そうじゃない……どうして、受け入れたんだ」
「それは……」
「申し訳ないけれど、私の入れ知恵よ」
やや
アリシアは
「ただ、私がシャルに与えた言葉は二つだけ。最後の言葉は、彼女自身の意志よ」
「なんで、そんな……」
悠真はアリシアをじっと見つめる。しかし口を開いたのは、エレアだった。
「お前はわからないだろうけど、ラスティア教団は変な宗教団体じゃないわよ。
「だとしても……」
首を横に振ってから反論しようとしたが、アリシアが
「失礼
シャルが一番つらい
心のどこかではわかっていた。これはただの
そんなラスティア教団に、シャルが奪われてしまうような気がしたのだ。
本当に
涙で
「ごめん、シャル。お前の意志を、ちゃんと聞くべきだった」
シャルは首を横に振った。
「違う、そうじゃないの。ねえ、悠真。お願い、もうこんな
「シャル……ああ。心配かけて、ごめんな」
「うん」
やり取りを黙って見守っていたマイナが、静かに言った。
「利用ですか……ええ。それでも構いません。ただ、聖女様にお
マイナの目に涙が溜まり、すっとこぼれ落ちていく。
マイナは
「これまでの長きに渡る時の中で――誰もが悪神の
涙を流しながら、マイナは深く頭を下げた。
言葉を失うほどのひたむきさが、マイナから伝わってくる。
「いいえ。いいんです。私自身、自分が光の聖女であると何も知りませんでした……ですから、頭を下げないでください。これから、よろしくお願いします」
「ラスティア教団は誠心誠意、聖女様にお仕えさせていただきます」
「身の回りのお世話から護衛まで、このハーミットが担当させていただきます」
「はい。よろしくお願いします」
二人に
「悠真。しばらくの間、待っていてね。必ず、あの約束を――」
限界がきたのか、悠真の意識はそこで
途絶えると同時に、また――新しい朝を
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