幕間一 光の聖女
銀色の瞳に見つめられ、悠真はまるで
石造りの内装をしたカフェには、周囲の目を気にしなくてもいい個室が一つある。ここは銀色の髪と瞳を持つ少女と、面会をするためだけに造られた場所だった。
現在――彼女は非常に危険な立場にある。そのため、仕方のない処置であった。
「ずいぶんと、お楽しそうでしたね」
「あ、いや……」
「優勝、おめでとうございます」
「まさか、悠真さんが法術学園祭に出場されているとは、夢にも思いませんでした。私が〝光の聖女としての
まったく微笑みは
「人々の前で話すのは、慣れませんね。思い返せば……
空気感が張り
「まるで
「いや、それはないだろ……」
「そうなのですか? 黒鉄騎士団の団長ヴァーミル様が、悠真さんは未来の
一瞬、悠真は意識を
エレアの父親と面識がある――それも驚くべき情報の一つではあるが、それよりも謎の
悠真は下を向いた。ぽたぽたと汗がしたたり落ちていく。
「私との約束は、もう果たせなくなりそう――」
「ば、
くすりといたずらな笑い声が耳に入った。
「ふふっ。ちょっとした
口調や雰囲気はいつものものに戻っているが、まだ安心はできない。
悠真は
「なんか、すまん。俺にも、どうしてこうなったのか、マジでわからんのだ」
「
「なんだ、シャル。何もかも知った上だったのか」
悠真は
シャルが笑顔のまま、首を横に振った。
「悠真が〝そんな言葉のやり取り〟を〝平然〟とするなんて知らなかったよ?」
悠真は苦笑で
どうにか流れを変えられないか、悠真は必死に別の話題を模索する。
「あ、そ、それよりさ、そっちのほうはどうなんだ? ほら
「んぅ……近々、何か大きな動きがあるみたい」
「大きな動き……?」
シャルは真面目な顔をして
「今回、ヴァーミル様とお会いした本当の目的はね――
「邪教団の大多数は、解体されたっつぅのに……
「うんん……いいの。悠真の選択は、何も間違ってなんかいない。それにね、禁忌の悪魔が光の聖女だったって認識が広まったお
続きを待っていると、シャルが
「いつか、悠真と旅をする。そんな普通の人としての願いを、持てるようになった。禁忌の悪魔の
どこか心が
ただ、何かを忘れている。そんな
嫌な感覚の
「そっか。願いを早く叶えるためにも、俺も力になれたらいいんだけどな」
「だめよ。悠真の力は危険すぎるから。もう二度と……それなのに悠真ったら、また転化したでしょう。あれだけだめだってアリシアにも言われていたのに」
「いや、うぅん。なんか、すまん……でもさ、仕方がないだろ。エレアがどうしても優勝したいって必死になっていたし、あれしか方法がなかったんだ」
「あまり、心配させないでね」
不安そうな顔のシャルを見て、悠真は少し前の過去を振り返った。
シャルが光の聖女としての覚悟を持った日の記憶――悠真は拳を握り締める。
「……まあ、俺の力は集団戦に不向きなのは間違いないからな。なんか
「大丈夫。邪教団は私の問題なの。だから、悠真に
シャルの覚悟を宿した眼差しに、悠真は笑みで返した。
「そっか」
「きっと、これが一番近道になるはずだから……待っていてくれる?」
「俺はのんびりと待っているから、絶対に無理はするなよ。でも、もし……それでもこんな俺の力が必要となったら、いつでも呼べ。俺は、ずっとお前の味方だから」
「ありがとう、悠真。あなたが
銀色の瞳を
少しの間お
「そうだ。
「想像以上に、
シャルの苦い顔を見ながら、悠真は
「あいつは、ちょっと
「でも、私も負けないように頑張らないとね」
「ああ。でも、さっきも言ったが
ゆったりとシャルが
戸の奥から、くぐもった女の声が飛んでくる。
「失礼します。よろしいでしょうか、シャルティーナ様」
「はい、どうぞ」
シャルの
入室してきたのは、光の聖女を
教団員特有の正装でもあるのか、純白を
横長の耳に引っかかっていた長い金髪が、さらさらと流れ落ちていく。
「シャルティーナ様……そろそろ、ラスティア教団支部へと戻る時間です。おそらく
どこか
二日振りに再会してから、まだ間もない。
本当は、もっと話をしていたいのだろう。悠真も同じ気持ちではあるが、こうして会える場と
悠真は女騎士を
「また、次に会えるのを楽しみにしてる」
「悠真……うん。そうね」
「シャルのこと、頼んだぞ」
ハーミットが、すっと片目を細めた。
「ふん、害虫に言われずとも、たとえ千度命を失おうとも
悠真は半眼で見つめると、ハーミットも半眼で
しばしの沈黙を
「ちょ、ちょっと、ハーミィ!」
「失礼しました。どうも羽音がうるさく、つい
シャルに頭を下げるハーミットを眺めながら、悠真は溜め息をつく。
「まあ、俺が
「それ以上に、羽虫がシャルティーナ様を
再び、お互い
シャルが席を立ち、
ハーミットを押し出すシャルが、肩越しに顔を振り返らせてはにかんだ。
「それじゃあ、悠真。また連絡するからね」
「ああ、またな。シャル」
シャルとハーミットの後ろ姿を見送り、悠真は天を
静まり返った個室で一人、胸にぐるぐると
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます