第二幕 紅髪の少女の狙い
沈黙に満ちた場の中で、悠真はミランジェスをじっと
「親子の仲のよい話はそれぐらいにして、彼の話をしましょう」
方向性を修正するミランジェスの言葉に、二人は意表を突かれた顔となった。
再び――親子二人の視線が自分のほうへと
「そうだな。失礼をしてしまった。すまない、悠真君」
悠真は首を横に振り、無言のままに
ヴァーミルの視線が少し斜め上にずれた。何か
「あぁっと……そう、エレアノールとの関係だったか」
エレアから短い
少し
「エレアノールはああ言ったが、君から見てエレアノールはどうだ?」
「えっと……どう、とは?」
悠真は訳がわからず、エレアを見た。
「つまりは、エレアノールを嫁にもらってくれるのかどうかの話よ」
マリアベルの言葉に、またエレアが勢いよく立ち上がった。
「お、お姉様! 何を言っていらっしゃるのですか!」
「もう少しばかり補足を加えれば、エレアノールを嫁に迎えた
「お、お兄様まで!」
エレアの様子から、彼女もこうなると
「エレアノール」
ゆっくりと
エレアは苦い表情を見せ、静かに座り直した。
「器量は悪いし、
「秘術を
(おぉお……本当に
エレアの顔は暗く
エレアは自分を
そのときに家族の話題も出てきたのだが、こうして彼らと会話してみて印象は少し変わった。姉のほうはよくわからないものの、兄のほうはストイックな気配がある。
(まあ、でも……家族の事情なんざ、
一つ言えるのは、エレアにとって
「僕からすれば……エレアノールさんは別に不出来や落ちこぼれだとは思いません。出会ってからまだ間もないですが、博識で
いたたまれない気持ちになっていそうなエレアを、悠真はフォローしていく。
「僕は、貴族といった存在がまったくない場所で生まれ育ちました。ですから、もし失礼があったら謝りますが……彼女には、しっかりとした
心内で
これでエレアの辛気臭ささが晴れると――彼女は、顔を真っ赤に染めていた。
「まあ……」
マリアベルが、にやにやした笑みを浮かべている。
ヴァーミルは短い
「ふむ……そうか。そこまで娘を
「これは
今度は悠真が激しく立ち上がる。
「いや、待て待て待て! あっ……いやぁ……言葉
異常な話の進み具合に、自然と
「エレアノールやアルドから、悠真君に関して話は聞いていたが……こうして、顔を合わせてみてよくわかった。想像していた以上の好青年だな」
「いい男を見つけたわね。私達より先に、あんたが婚儀を執り行なうのかもね」
ヴァーミルは物思いに
悠真はそんな二人を交互に眺める。
友人としてならば問題はない。しかし恋人や結婚ともなれば、話は変わってくる。現状として色恋
それに、悠真にはもしそうなれたらと思えるような意中の相手がいる。ただ、その相手もまた、今となっては恋愛をしている
「何か
「まあ、今すぐといった話でもない。これから
ヴァーミルの『追々』とは、話を
こちらが何を言ったところで、答えはきっと〝先の未来は〟になると考えられる。否定を述べても、追々と言われたのがいい例であった。
悠真は困り果て、エレアを見た――ほんわりとした表情で、顔を赤らめている。
(
胸中で毒づき、悠真は視線を下げる。
「まあまあ、落ち着いて座りたまえ」
「はい。すみませんでした」
悠真は肩を落としながら、腰を下ろした。
「エレアノールとの
「悠真君はマルティス帝国のアリシア
「あ、はい」
「
かなり高く評価されている。正直、悠真がアルドに勝てたのは奇跡に近い。
仮にまた戦って勝てる
(俺に、そんな力なんか……それに)
そもそも騎士団がどういった組織で、どんな活動をするのかもよくわからない。
「時間は、
これには、悠真も苦笑せざるを
これでもし、ほかの団や他国につこうものなら、揉め事が
(やっぱり、
悠真が胸中で
「実際、
「えっ……?」
ディアスの発言に、悠真は肌が
(すべて? 団員全員が、あのアルドと同じクラスってことか?)
「ゆえに、生半可な者では身が持たない。入団する気なら覚悟しておいてほしい」
どう考えても向かない話だった。ただ、理由をありのまま告げられもしない。
マルティス帝国の
秘力をまったく持たない悠真は、命の源である生命力を糧としなければ精霊の力が扱えない。これは決して他言してはならないし、
弱点が
もし敵対した者が知れば、
もちろん、この話は悠真だけに限らない。
だから可能な限り、自分の情報は
「エレアノール。今回の学園祭では、彼を
ヴァーミルの言葉に、はっと
「あ、はい。そうです、お父様」
「うむ、許可しよう。今年の
二人のやり取りを、悠真は
話の流れが、大きく変わった雰囲気がある。
「あ、あの……なんの話ですか?」
「あ、そうそう。そういえば、言っておりませんでしたね」
エレアの口調は、明らかにわざとらしかった。
「レヴァース法術学園で、三年に一度の催しが本日の十五時に開催されます。そこで学生達が、自分の御付きを事前に一人選び、催しに参加するのです」
「はぁえ? あ? お、おう……」
「内容は開催ごとに変わるのだけれど……まあ、力試しみたいなものね。ちなみに、私は六年前の優勝者なのよ」
にこにこと微笑むマリアベルに次ぎ、ディアスが静かに笑う。
「あの頃の記憶は、今も胸に残っているな。ちなみに、三年前の優勝者は僕だ」
「なるほど。その力試しは、具体的にどういったものなんですか?」
心の中で否定を続け、もはや無意識に近い状態で悠真は声を
商業都市がいつにも増して人が多かった原因と、
「私のときは、対人乱戦形式だったわ。一組一点が与えられ、持ち点を
にこやかに笑うマリアベルの表情の裏に、悠真は
「僕の年代では、本物の
「なるほど、得点形式の催しですか……楽しそうですね」
他人事のように
エレアは、にっこりと笑って小首を
「悠真君を、私の
(なんだ、その間違えてボタン押しちゃいましたみたいな言い方は!)
悠真の意識が
(失いたい。このまま今すぐに、意識を一年ほど失いたい……)
ヴァーミルが
「エレアノール、悠真君。学園祭、楽しみにしているぞ」
もう逃げ道など、どこにも存在しない。
エレアが眠気を押してまで、朝早くから部屋に侵入したのも、家族に紹介といった
悠真は
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