第三幕 締まらない男
悠真は一定の
いい加減
木造の出店や民家がごった返しており、行き交う人々の姿は多い。そのわりには、石や
この地区は、しっかりとした手入れが行き届いているのがうかがえる。
悠真にとっては、初めて来る場所であった。都市の中央方面へ向かっているのか、
エレアの家族と別れの
そのうち言い訳をするだろうと思っていたが、悠真は見通しの甘さを痛感する。
あれから十数分経つが、一向に口を開く
つかつかと進んでいく彼女の後ろ姿に、悠真はまた視線を戻した。
黒いスカートの
視線を上のほうへ流し、悠真は短く声を飛ばす。
「おい」
エレアは止まる
「おい」
止まる素振りはないが、かすかに反応がある。エレアが両手を後ろで
「おい」
まだ止まる素振りはない。実は別人ではないのかと、
「おい」
ようやくぴたりと足を止め、エレアは後ろを振り返った。ツインテールにしている
腕を組んで
「何よ」
「何よ――じゃねぇだろぉお! 説明しろ!
悠真はエレアを
エレアは何度も左右へ首を振り、
「ちょ、大声を出さないで……もう、
「どうしてこうなったのか、ちゃんと説明しやがれ!」
両手首を腰に置いたエレアが、気まずそうに片目を
「私だって……本当はアリシアに頼みたかったわよ。確実に優勝できそうだからね。でも、今はマルティス帝国に
「俺じゃなくてもいいだろ。親父さんのつてで強い騎士を
「
確かに、どちらも御付きの力に頼ったとは考えられない。おそらく自分自身の力が
「学園内で見つければどうだ。参加者同士が組めないって制約でもあんのか?」
ぐっと
「うるさい、馬鹿! それができたら苦労しないわよ」
「どうしてだよ。つかさ、俺に頼むにしたって事前に説明するとか、普通はそうした手順を踏むもんだろうが。それがなんだ、今日これからって!」
「ちゃんとした手順なんか踏んでいたら、絶対に断っていたじゃない」
「ああ、断るな。
「ほらね。だから、こんな形でしか無理でしょう。それに悠真に会わせなさいって、家族全員がずっと言ってくるし……ちょうどいいと思ったのよ」
エレアがわずかに
エレアの家族とのやり取りをふと思いだし、悠真は肩を深く落とす。
「それにしても、なんだったんだ。あの
「わっ……私にだってわからないわよ。あんな話をするなんて、あの場で聞くまではまったく知らなかったし……
「別に疑ってねぇよ。だろうな、とは俺も思ったからな」
悠真とエレアは、同時に重い溜め息を吐いた。
しばらくして、悠真は気を取り直して告げる。
「まあ、
「……いないの」
「え……?」
エレアは自分の片腕を
「当然、家の者達には頼めないし、学園側の者にだって――だから私が
少し前まで、エレアは秘術をまったく扱えない
悠真からすれば、彼女の性格は明るく、積極的といった印象を持っている。しかし話を聞いた限りでは、あまり人付き合いが
きっと普通の家庭に生まれていれば、そうはならなかったに違いない。
「名のある冒険者か賞金稼ぎを
(ったく、しおらしい顔しやがって……しゃあねぇな)
悠真は頭を
「お前って、ぼっちなんだな」
「何よ、ぼっちって。訳のわからないあだ名つけないで」
「
エレアは体を
「う、うるさいわね! えぇ、そうね。ぼっちよ! 何か問題でもあるわけ」
「俺もシャルやアリシア、お前とぐらいしか繋がりのないぼっちだからな」
「じゃあ、お前も私と
「まあ、そうだな」
声を
「じゃあさ……ぼっち同士、俺も仕方なく参加してやる。ただ戦力になるかどうかはわからんから、そこはあんまり期待とかすんなよ」
「いいの?」
「どの道、それしかないんだけどな。エレアの親父さんに『楽しみにしている』とか言われちまったからな。いまさら参加しませんとか、どう考えても無理だろ」
エレアが唇を少し
悠真は腕を組み、横目で
「なんだよ、その顔は……まだ不満でもあんのか」
「ありがとう……」
悠真の発言中に、エレアは消え入るようなか細い声を
何を言ったのか悠真は聞き取れず、首を
「あ、なんだって?」
「なんでもない!」
口の右端を広げながら、エレアはぎゅっと目を閉じて見せてきた。
どこか子供っぽさを思わせる態度に、悠真は訳がわからない心境だった。
「なんだよ、そりゃ」
「うるさい。学園に急ぐわよ」
エレアは再び前を向き、足早に歩いていく。
「あ、お、おい」
悠真は足早に後を追い、歩幅を
「そういえば、聞いてなかったが……その
「お姉様とお兄様に、笑われないで済む」
エレアの即答に、自然と
「ほかには?」
「悠真はレヴァース法術学園がどういう場所か、どこまで知っているの?」
「ああ、えっと法術の専門学校……としか知らないな」
「法術の知識や扱いを学ぶ、
悠真は口を
「賞金稼ぎ、あるいは騎士や衛兵であれば
「んぅ、確かに……俺は学園の生徒じゃないけど、黒鉄騎士団に
「お前は特例中の特例だわ。お父様からあんな言葉をかけられる人そういないから。大多数は学園内で育った、
あまりにも買い
自分を
悠真はふと、人通りがどんどん減っているのに気づく。
どうやら裏通りのほうへと進んでいるようだ。
「三年に一度の法術学園祭は、参加が強制ってわけじゃないのよ。参加はあくまでも
「アリシアからの教えだけど、そういうの本来は
「自分の手の内を周りに明かすのに
悠真は腕を組み、
「ただ……秘術の大半はありふれた
エレアの説明を聞き、悠真は納得する。
「ああ、だからお互い補佐し合えるように、催しでは二人一組が通例なのか」
「ええ、そういう話ね」
「まあ、考えてみれば呪われた屋敷で発動したエレアの秘術も、言っちゃえば
「あれは、雷属性を持った者が扱える有名な秘術の一つだからね……最初は、ただの真似事かもしれないけど、そこから自分だけの形を見つけて作り上げていくのよ」
エレアが
薄暗い通路にいるせいか――彼女の顔に、影が差しているように見える。
「ねえ、悠真……これは私の勝手な
金色の瞳をわずかに涙で
「その……」
「秘力のない俺がどこまでできるかわからないが、可能な範囲でいいならな」
一瞬泣きだしそうな顔をしてから、エレアはかぶりを振った。
「ま、まあ、
「
エレアが苦笑しつつ、視線を泳がせた。
「あれは、その……
「ああ、そうか。俺もシャルも、名前を
悠真はおかしくなり、大笑いする。
「な、なんで笑うのよ」
「攻撃力に関しては
「ぜ、全然おもしろくないから!」
「なんにしても、優勝できるかどうかはわからないが、できる限りやろうぜ」
「……うん」
「じゃあ、行くか」
悠真はエレアに笑いかけ、先を進んだ。
「悠真!」
首だけ振り返ると、エレアが右側を指差していた。
「学園は、こっちよ?」
「そっちかよ!」
「本当、お前は締まらないわね」
エレアの言葉に同意せざるを
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