夢幻なる時の流れ
序幕 新たな一日の始まり
息を大きく吸い込み、
全身から汗が
ぐっしょりとした黒いシャツが肌に張りついており、少しばかり気持ち悪い。
「……くそっ。またあの夢か」
まだ
悠真は木製の床に向かって、深い溜め息を落とした。
とても柔らかく、どこか女体を思わせる
「あぁ……あ、んっ! だ、めっ……」
女の
理解不能な事態に、悠真の体が完全に停止してしまう。
時が止まったとすら
エレアは非常に整った顔立ちをしており、普段は
彼女の左目の下にある
黒と赤を
(なんで……こいつ、土足なんだ?)
視線を顔に戻したとき、エレアが重そうな
かすかに
ほどよい大きさの
「は……?」
「ん……?」
目許を
ほどなくして、その
「き、きゃあぁあああああ――っ!」
耳を
ベッドの
抱き締めるように掛け布団で体を
光景のみを見れば、女としての色っぽさがかなり浮き彫りとなっていた。十八歳と
悠真の心音が速まる中、エレアは
金色の瞳を涙で
「お、おお、お、おぉ、お前! 私の体に何しているのっ?」
単純に、自室で眠っていただけのはずであった。ここが本当に自分の部屋なのか、悠真は
八畳一間の空間には、
(え? 俺の部屋、だよな?)
そうとしか思えないが、エレアといった非日常的な存在が半信半疑にさせる。
「お前は、いつもそうやって、私の意識がない間に、体に
悠真はまた汗で
「いや、ここは俺の部屋、だよな?」
かろうじて声を絞り出すと、妙な沈黙が場に落ちた。
状況は完全に理解不能だったが、悠真は
エレアは
「お、お前が何しとんだぁああ! つか、てめぇ、なんで土足なんだよ!」
エレアが
「そうね。確かに、
「そこじゃねぇよ! いや、それもだが、この部屋自体が土足
「はあ? 部屋まで土足厳禁って、どういう
エレアの言った通りこちらの世界では、変に思われるのだろう。しかし地球の日本生まれ日本育ちの悠真からすれば、これは
ここはネクリスタと呼ばれる、地球と異なる世界だ。とある
地球での事故が原因で、父親は今から数百年前のネクリスタを
この禁じられた古代の秘法と呼ばれる、世界と世界を
特に
不思議な力に
そのために、いろいろ
悠真は片手を腰に置き、わずかに前のめりの姿勢でエレアを指差す。
「すぐ脱げ! 今すぐ、それを脱げ!」
「なっ、お前、本当に頭がおかしいのっ? 私を、裸にさせるつもり……?」
「いや、服までじゃねぇよ! ブーツだ、ブーツ!」
「あ、あぁ……
本能に近い状態で、自然と彼女の
正直、容姿のみで見れば、エレアの女としての
二つ年下の容姿が美しい彼女の行動を、
初めて出逢った
悠真は
「それ脱いだら、そっちへ置いてこい」
悠真が住んでいる商業都市には、日本に近い構造をした部屋がない。少なくとも、探した限りでは見当たらず、どこもベッドや風呂場以外は土足があたりまえだった。
だから簡易ではあるものの、
ロングブーツを脱ぎ終えたエレアが、
次に悠真は、背の低い机の辺りを指差す。
「置いたら、ちょっとここに座れ」
エレアはロングブーツを置き、そして背の低い机にどさっと腰を下ろした。
悠真はぎょっとして、わずかに肩が跳ねる。
「ちょ、おま、
「どうして椅子の前に座らせるのよ?」
「椅子じゃねぇよ! それは机だ、机!」
椅子と
「ちょっと、私を床に座らせる気?」
「だから、そうやって座っても平気なように、俺の部屋は土足
「……変なの」
エレアが不満げに腰を下ろした。背の低い机を
「で、どうやって入ったんだ、お前。ちゃんと鍵は閉めていたはずなんだがな」
「ここの家主に伝えたら、普通に貸してくれたわよ。ほら」
エレアが鍵を揺らして見せつけてきた。悠真は奥歯を
(あんの
「それにしても、なんというか……すいぶん、
まじまじと周囲を見回しているエレアを、悠真は
「これでいいんだ……じゃなくて、お前マジで何しに人の部屋に
「ちょっと折り入って、悠真に頼みがあって来たの」
悠真は身を
「なんで頼み事をしに来たお前が、俺のベッドで寝てんだよ」
「何度も起こしたのに、悠真が全然起きないからでしょう。そうしている間に、私も眠たくなって……つい」
「つか、何時に来たんだ」
「六時ぐらいかな」
悠真は時計を見て、現在の時刻を確認する――七時十五分
「俺が起きた一時間前ぐらいじゃねぇか。ほぼ即寝かよ」
「事情があって、眠気を押してでも来たからよ」
エレアに
「まあ、なんにしても断る」
一瞬だけ
「まだ何も言っていないじゃない」
「どうせ
エレアは
ほんの少しして、今度は思いついたように真剣な眼差しへと転じる。
「……お前に断る権利なんかあるわけないよね? だって、この私の胸をいやらしく揉みしだいたんだから。これが
「はっきり言っておくが、俺にまったく責任はないぞ。逆に、
エレアは机の表面を両手で
「本当、小さい男ね! つまらない話を、ぐだぐだぐだぐだと」
「小さくねぇよ! なんなら
エレアは腕を組み、
重い溜め息をついた悠真は、自然と深く肩が落ちる。
「まあ、話しぐらいはちゃんと聞いてやるよ。頼み事ってなんだ」
「断られるのに話すわけがないでしょう」
「
エレアの
「ちょっと、私の両親に会ってくれない?」
「え、はあ?」
「悠真をちゃんとした形で紹介をするから、私の家族に会ってくれない?」
補足が加えられたエレアの発言は、悠真に
「やっぱり、きちんと紹介しておくべきだと思うの。ちょうど家族が……商業都市に集まっているから、今日の昼にでも一緒について来てよ」
「ああ、うん、そうだな……」
悠真は、自然と
「やっぱり、事前に断っておいて正解だったな」
にっこりとした笑みを作り、悠真は小首を
「じゃあ、そういうことだから帰ってくれ」
じっとりとした半眼で
そして唇を
「家に連れ込まれて胸を
「その〝事故〟以外は、あからさまに事実
エレアが冷たい目をして、短く鼻で
「王国の騎士団であり、王の切り札でもある父がそれを聞き、それで済むかな?」
「
「シャルとアリシアにも、あることないこと言いふらしてやるから」
「あ、お、おまっ、
にっこりと微笑み、エレアは
「じゃあ、ちゃんと一緒に来てね」
悠真は
そんな、
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