隠幕 そして闇の中へ
服装は普段と同じ、黒を
これらの衣服は、すべてアリシアが見立てたものであった。正直、悠真はお
初めて
大きな通路の両脇には、騎士達が男女交互に並び立っている。悠真が通るたびに、騎士達は腰に
流れるように
今でも
過ぎた日々を振り返りながら、悠真は
神官はどちらも相当
女騎士達はまだ若いが雰囲気は
たっぷりと一呼吸の間を置き、悠真は腕を組みながら気楽に声をかける。
「よう、シャル。久し振りだな……つっても、今回は二週間振りぐらいか」
苦笑する悠真に、通路の端にいた男騎士が素早く
「なんという口の
「
ゆるやかに
シャルに手で示された神官と騎士の二人は、悠真以上に落ち着きをなくしていた。どちらも
「なっ、せ、聖女様?」
「
「一か月は、かわいそうじゃねぇか? 別に、そこまでしなくたっていい」
「貴方様が、そうおっしゃるのであれば――彼の
強く
「少しの間、彼と二人だけにしてください。この場に、誰も
「し、しかし、聖女様……」
明確な不快感が、シャルの銀色の瞳に宿る。綺麗な顔に
「了解、しました」
シャルの命令に従い、場にいた全員がぞろぞろと外へと向かって歩き出していく。
一分にも満たない時間で――広い空間には、悠真とシャルの二人だけとなった。
静まり返った雰囲気が、重圧的に居心地の悪さを与えてくる。
(こんな場所に、いつもシャルはいるんだな……)
くすりと笑ったシャルが、銀髪に細い指を通した。虹色に輝くイヤリングが覗く。
「ふふ。悠真、二週間振りね。今度は何をしていたの?」
いつもの調子に戻ったシャルの声と言葉
「俺は相変わらず、ごたごたに巻き込まれちまってるよ。シャルのほうはどうだ?」
「うぅん、私は……ちょっと疲れが溜まっているかも」
言われてみれば、少しやつれた印象がある。悠真は
「大丈夫なのか。はやる気持ちはわかるが、あんまり無理とかすんなよ」
シャルは
少しでも気を
「そうだ。聞いてくれよ、シャル」
この二週間での出来事を、
会えない間に体験した出来事を話すのが、もはやお決まりとなっているのだ。
これまでは別の場所で会っていたのだが、今回は〝
シャルと会えない時間が多いのは
だから悠真は、許される限り彼女の
話していると当時の光景が色濃く
「それで、エレアとアリシアがさ――」
「ほかの女の話はしないで!」
声が空間に
はっと息を呑んだシャルが、気まずそうに顔を
「シャル。お前、本当に大丈夫なのか……?」
「ごめんなさい……ちょっと、
「ねえ、悠真は今でも私の味方でいてくれるの?」
「あ、ああ。もちろんだ。んなの、あたりまえだろ。ずっとだって言っただろ」
口許に力のない笑みを浮かべ、シャルは手を差し出した。
「ねえ、悠真。ここから私を連れ出して……そして、どこかに私を連れ去って」
「待て待て待て。本当にどうした、シャル。何があったんだ?」
シャルは今にも泣きそうな顔をして、完全に力が抜けたように手が下へ落ちる。
力のない声で、シャルは
「どうして、連れ出してくれないの。悠真は、私の味方のはずなのに……どうして、あの日みたいに、私の手を引いて連れ出してくれないの?」
「だから、待てって言ってるだろ。ちょっと、ちゃんと話をしよう」
シャルが両手で頭を
「うるさい、うるさい!
声を裏返らせて
「どうして、エレアとアリシアは自由なの! 私だって、自由でいたい! 私も……こんなことなら、
光の聖女としての
「光の聖女になんか、なりたくなかった!」
「シャ、シャル……お、落ち着けって。な、とりあえず、落ち着こう」
「そうしたら、悠真は、ずっと私の英雄のままでいてくれたのに!」
シャルは目許を
「悠真なんか
悠真は、言い知れようのない深い傷を心に負う。
シャルに何があったのか、その理由は何一つとしてわからない。わかるのは彼女に
問いたい気持ちはあるが、今のシャルはまともに喋れる状態とは思えない。悠真も悠真で、あまりにもショックが大きすぎて
「聖女様!」
出入口の大扉が力強く
「この者を
悠真は
「な、何を言ってんだ、シャル!」
「早く捕らえなさい! 早くして!」
シャルが悲鳴
「おい、シャル! なんの
シャルが、もの凄い
「
聞きたくない言葉だった。
シャルは後ろを振り返り、かつかつと音を立てて歩いていく。
彼女の後ろ姿が、なんとも言えない
「聖女様に
男騎士が剣を振り被っている。かろうじて
最初から当てる気などないとわかる、そんな剣筋であった――
それが開戦の
何が何やらまるでわからない。どうして、こんな状況になったのかも――なぜか、シャルが
(くっそ……!)
理由はどうあれ、この場は引くしかない。悠真は大きく後退し、胸に手を当てる。
(来い、ガガルダ!)
心の内側で
騎士の一人が放ってきた
次いで、悠真は左腕で強く払う。
一秒ほどで完全に転化を終え、悠真は
上空へ
肩越しに、悠真は後ろのほうへ目を向ける。火、水、風、光と各属性の攻撃系統の秘術が、
しばらく必死に激痛を
準備不足の転化のせいで生命力もかなり失い、傷は深いと感じられる。薄れていく意識の中で、シャルの
そしてこれまでの記憶が、
(なんで……どうしてだよ、シャル……)
落下の感覚を全身で受けつつ、悠真の意識と視界は――
瞬間的に、闇の中へと閉ざされた。
―― 銀色の髪と瞳を持つ少女 終 ――
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