第三十幕 水面に降り立つ少女
斬り裂かれた
体中の血が逆流するような、激しく
「うぅ……話に聞いた通りだ。これが
気持ち上ずった声で、白ずくめの男の一人が言った。
(ちげぇよ)
悠真に
無理矢理に体を起こして、悠真は湖の
「ふん、
口からでまかせを吐きつつ、悠真は現状を
「俺は、禁忌の悪魔の信徒だぞ? 俺に攻撃した奴はもちろん、俺と目が合った奴も呪われるからな。この
絵本に登場する
しかしだからといって、素直に
(くそっ! もう、やるしか……ないか)
精霊に転化するしかない。数秒程度なら倒れ込むまではいかないはずだった。
その倒れ込まない程度のわずかな時間の中で、この場にいる全員を無力化する――どう考えても、不可能だとしか思えない。まだ相手の力も未知数なのだ。
(それでも、やるしかない!)
胸に手を当てた悠真の目に、信じられない光景が舞い込んでくる。
「では、私はもうその呪法を受けた。それで、間違いないか?」
二枚目な顔を
「アルド……」
絞り出した声に恐怖が混じっていたのを、悠真は自覚する。
「
「霧の、摩天楼……?」
アルドが何を言っているのか、悠真にはさっぱりとわからない。
アルドの
「もう逃がさないぞ、禁忌の悪魔の信徒め! ここで決着をつけよう!」
「くそっ……もうやるしか、ないよな」
転化する覚悟を決めるや
炎の
「
腹に響く声を
商業都市にいた
悠真は目に力を込め、ただまっすぐにアルドを
アルドもまた
炎の鞭と炎の獣が
「そこまでにしてもらえますか?」
手のひらを叩くような音が二度鳴り、アリシアの
顔の側面にある桃色の髪を
「
「な、なぁっ! マ、マルティス帝国の、
胸に手を当てたアルドが、
「マルティス帝国の皇女アリシア様、お初にお目にかかります。
「火急とは、
またアルドが、胸に手を当てて一礼した。
「はい、おっしゃる通りでございます」
「申し訳ありませんが、
悠真は、アリシアの言葉の意味を理解しかねた。そんな話は一切していない。
「なるほど。マルティス帝国の手柄にしたいというわけですか」
「話が早くて助かります。ですが……少々
政治的な何かに利用する――悠真は、そう
(最初から、そのつもりだったのか?)
唇を
目の前で歩みを止めたアリシアの表情は、寒気がするほど冷たい。それはまるで、敵を見る眼差しであった。初めて見せる表情に、悠真は少しばかり恐怖を覚える。
裏切られた気分の悠真をよそに、アリシアが
「勝手に出歩くからよ。
アリシアが
悠真は自分の
現状――なぶり殺しにされるしか道はない。普通に加勢したのでは、禁忌の悪魔の信徒と断定されるため、政治的に利用といった形を取らざるを
「ですので、ここは引いてもらえませんか。それとも……
「ア、アルド団長……」
リアンの目許は
「マルティス皇女様、少し言わせていただいてもよろしいでしょうか?」
「はい。なんでしょう」
「なぜ
アルドの言葉には、妙に力が込められていた。
「
(こ、こいつ……!)
聖印騎士団団長の肩書は
アリシアが腰の真後ろに両手を置き、人差し指同士が当たらないようにくるくると回している。それが
「たとえ帝国の
アルドは明確な敵対
小さな溜め息を
「ああ……まあ、想定した通りの結果になってしまったわね。これは全部、悠真君のせいだから! こんなの私でなくても、
「悠真さん!」
屋敷の玄関がある方角から、シャルの大声が聞こえた。
不安がたっぷりと宿った顔をしながら、シャルが向かってきている。その隣には、気まずそうな顔をしているエレアの姿もあった。
「あぁあ、もう! 何もかも全部
激しく取り乱しているアリシア以上に、騎士達が
「おいおい……これは、夢か? 私は、夢でも見ているのか? あのお
リアンは白い鉄で
ほかの騎士達も、まごついているのが見て取れる。
「やっぱり、私もお前達についていくわ。私は、私の信じる道を進みたいから」
エレアは首飾りからやや細身の剣に変化させ、
これにはアルドも、さすがに驚きを
エレアが、腹から絞り出したような
「私は……エレアノール・エヴァンス。
騎士達の間から、どよめきが起こった。突然――アルドが一人、高らかに笑う。
「そうか、禁忌の悪魔!
アルドの激しい
「ち、違う。私は――」
「貴様は、もはや禁忌の悪魔ですらない。この
シャルの言葉を
「
「なんっ……で、そうなんだよ!」
シャルの前に出てから、悠真は拳を構える。アリシアが、悠真の左隣に並んだ。
「
「何もかも全部、お前のせいだから。この責任、ちゃんと取ってもらうからね!」
右隣に並ぶエレアが言い、剣を構えた。悠真の
どこまでアリシア達に説明したのかがわからず、悠真は
「
シャルの震えた声を聞き、悠真は気持ちを改める。
「安心しろ、シャル。お前は何があっても、絶対に俺が
悠真は前を
アルドが剣を高らかに
「
悠真は腹を
一歩先すらも見えないほど、視界が曇ってしまった。
「なっ……」
音を立てるほどの強風が吹き荒れ、
異常な事態に、悠真は
「なん、だ……これは」
悠真は声を絞り出して
漂っていた霧が薄くなった代わりに、まるで最初からあったかのごとく、円柱形の高い塔が
ところどころに
「う、
悠真は、
「ア、アルド団長。
リアンの発言中に、悠真は塔の上から何かが落ちてくるのが見えた。
少女の姿に見え、悠真は無意識に手を
「な、危ねぇ!」
足先から湖に着水する寸前で――透き通るような白い肌をした少女が、ゆっくりと水面に舞い降りた。
空色の髪を後ろへと大きく払い、白い衣に身を
やや離れた位置で立ち止まり、無表情のままに言葉を
「
ミアストは、すっと指を差した。
その方向から、悠真は自分が指されたのだと思う。
「
「え、うわ、やっぱ俺かよ!」
あまりに
「ふ、ふざけるな! なぜ、その男なのだ!」
声を大きく
ミアストは何一つ反応する気配もなく、アルドを完全に
「銀髪の少女――シャルティーナ。マルティス帝国の少女、アリシア・マルティス。レヴァース王国の少女、エレアノール・エヴァンス。以上が、塔に選ばれし者達」
「う、
「どうやら、私達全員が霧の摩天楼に選ばれたみたいね」
表情を
「私も……?」
シャルのか細い声には、不可解そうな響きがこもっていた。
「ま、待ってくれ。頼む、私にも挑戦する資格をくれ! 頼む、お願いだ!」
冷静なアルドの必死さに、悠真はやや
覇者となった者には、神々の品が与えられると言っていた。そこにアルドが欲する何かがあるのか――少しばかり、答えの出ない
「
終始無表情で、ミアストが
周囲を薄く
「うわ、なんだ、これ……あ、くすぐったい! うぁあはっはっは、やめろよ」
少しずつ、悠真の体が持ち上げられていく。
「ちょ、待て待て待て! おっわぁあああ!」
選ばれた全員が、吸い込まれるようにして塔の中へ素早く連れ込まれた。
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