第二十九幕 すれ違う想い
重みのある不安を胸に
銀髪を風でなびかせる彼女は、かすれがちな声で
「悠真さんが、別の世界……異世界の住人?」
「こうやって喋れるのも、闇の精霊王が頑張ってくれたみたいなんだが、
「だから……悠真さんは、文字がまったく読めないんですね」
自分が彼女の視界には入っていないと理解しながらも、悠真は
「ああ……それにな、
シャルが顔を上げ、また
「あ、いや、信じられないかもしれないが、これは全部、本当の話だから」
「悠真さんのいた世界は、どんな世界だったんですか?」
「
日本にいた
「子供の頃は学業に専念してて、それぞれの人生を歩むために頑張るって感じだな。この世界でもたぶん同じだとは思うんだが、大人になると自分にあった職に
話している
こうして話して初めて、住んでいた国の説明が難しいものなのだと知った。
「ごめん。俺の説明じゃ、わかりづらいかもな――たぶん普通の世界だったと思う。
顔を上げたシャルを見て、悠真は目を大きく見開く。
静かに涙を流しながら、彼女は
「な、あ、え? ど、どうしたんだ、シャル……」
「私みたいな、
かすれた声で、シャルが
悠真はできる限り心を落ち着かせ、ゆっくりと
「あ、ああ、いないな。あのときにも言っただろ。そんな産まれ
「悠真さんを見ていたら、なんとなくですが、わかります。本当に……とても、いい世界なんでしょうね。悠真さんのような
シャルは唇を
「じゃあ、いつか、そんな世界に……」
シャルはそこで、ぶつりと言葉を止めた。
そんな世界に行きたいとでも言いたかったのか、シャルにまだその部分に関しての説明をしていない。もう二度と、世界と世界を
さらに悠真からすれば、地球には二度と帰ることができない状態にすらある。
「ああ……あのさ、シャル。そういえばな」
「ごめん、なさい。少し、一人にさせて、ください。おやすみなさい」
シャルが口早に告げてから走った。悠真は
「あ、おい、シャル……」
一人にさせてほしいとの言葉が、追おうとした悠真の足を止める。
風のやんだ音のない静かな場所で、悠真は上げた手を下ろして立ち
悠真はシャルが流した涙の理由を模索する。あれほど泣くのは少しただならない。説明が
もっとしっかり考えてから、事実を打ち明けるべきだったと
シャルの泣いた姿が
問題はどう切り出せばいいか――
時間が長引けば長引くほど、話し合う機会を逃してしまうのはよくわかっている。だが、また考えもせずに進むのも、
はやる気持ちを抑え、物事の順序をきちんと固めていく。
悠真は深呼吸してから、シャルの部屋に向かおうと足を踏み出した。その瞬間――視界の端で、霧に
悠真の全身に、不意の
「こちら
重い響きのある野太い男の声がした。
足の先から頭の先まで、白い布で
まるで忍者を
手に携帯電話と
《了解。すぐに
通信機と同じ役割の錬成具らしい。
「お、お前、まさか……」
「こんな場所に
白ずくめの男が、上半身を低く構える。犬が
尋常ではない速度で距離を詰められ、白ずくめの男が片腕で
悠真は不格好ながら
男の手には、
(おかしい。あの長さじゃ切れないだろ。秘術か。つか、殺す気
後退して距離を離しつつ、悠真は黒い指輪に意識を向けた。まばゆい光から、
(しかし、どうしてだ。なんで
突然、
「ぐぁはぁあ――っ!」
悠真は
太ももから先の脚が離れており、血が
「遅いぞ。最低でも、二人一組は
「悪い、待たせた。でも、そのお
少し若い声が、
信じられない光景に、悠真は
ざっと数えても十人以上――大勢の白ずくめの者に取り囲まれている。
激痛と
悠真は全力で思考を働かせ、切り抜ける方法を探した。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
用意された自室に戻ってきたシャルティーナは、どさっと
肌触りのよい
悠真が異世界の住人という話は、素直に受け入れられた。
むしろ不思議に感じていた大部分が、その告白で埋め
彼は
自分のいた世界に戻ってしまえば、
それ以前に、異なる世界から人を
たとえ秘法の件がなかったとしても、当然いつかは
心のどこかでわかっていながらも、自然と気がつかない振りをしていた。もちろん
ずっと先にある遠い未来の話なのかもしれない。それでも異世界の話を聞かされ、終わりの始まりとも言える現実がすぐ目の前に感じられた。
もっと
何度も何度も〝仕方ないこと〟だと、シャルティーナは自分に言い聞かせる。
そうやって気持ちを押し殺すたびに、胸が張り裂けてしまいそうな苦痛が
次第に
たった一日の出来事――昨日までは、考えすらもしなかった。人目を気にして身を
それが自分の人生なのだと、勝手に決めつけていた。
だから
目が喜ぶ色とりどりの草花や、鼻先をくすぐる香りに幸せを感じるのだ。
心地のよい水に
空を
こうした小さな幸せが、シャルティーナにとっては生きる支えでもあった。ニアとヨヒムがいない間、そうやって〝十六年間〟もたった
闇が支配する
しかし何を思ったところで、彼は異なる世界の住人で、この世界の住人ではない。
彼が去ったあとはまた、たった独りだけの世界に自分も戻るしかないのだろう。
(
そう思った矢先、窓側から
風の流れで
「ゆ、悠真さん!」
自然とシャルティーナは、
正確な数まではわからない。白い衣に身を
そしてその白ずくめの者達が、地に
彼が生きているのかどうか、そこまでははっきりと確認できなかった。
手や唇が
はっと
アリシアの自室へと、急ぐ足をさらに速めた。
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