第二十八幕 真実の告白
薄暗い
シャルティーナは一人腰を下ろし、ぼんやりと部屋内の景色を眺めていた。
気分が
ニアとヨヒムと接していた悠真と
昨日までの自分は、もうどこにもいない。
シャルティーナは一つ一つを
商業都市で彼と
自分は、
結果、騎士団と衛兵達に自分の存在が
あのときに、自分の人生は終わるものだと心から覚悟を決めた。しかしあれからもまだ、シャルティーナの人生は続いている。
危険を
屋敷の庭園で意識を取り戻したあと、その事実を知ったシャルティーナは、小さな幸せをくれた彼に
いっそ
冷静になって振り返ってみれば、
あの瞬間も、そして今も、ずっと胸が張り
もっと別の、シャルには表現しきれない何かであった。
それからほどなくして、今度は
本来、人が近づけば、
それはもはや
昨日までの自分が現在の自分を見たら、
最初は敵を見る眼差しだった彼女も、悠真と接していくたびにある変化を見せる。まるで友人と接しているような、柔らかな眼差しへと変わっていったのだ。
そして最後に、マルティス帝国の
何もかもすべて、彼を中心に事は巡り巡っている。
彼が
呪われた屋敷から外へ出た矢先、シャルティーナの胸は別の意味で苦しんだ。
これ以上、禁忌の悪魔に関わっている理由も意味もない。
あとは
そこでシャルティーナは、やっと自分の気持ちを理解する。
(もっと、一緒にいたい。もっと、
未知の世界を知り、心からそう望んだ。
しかしこれは単なる
だから必死になって、自分の心を押し殺していた。
『シャルが普通の人として暮らせる場所を探してあげたいと思ってる――』
この言葉が、シャルティーナを少し我が儘にさせる。世界中を敵に回してもなお、それでも彼は
正直、シャルティーナは自分の気持ちの
これまでの人生、一度も感じた経験のない異質で言葉に言い表せない感情だった。少なくとも、読み
ただ、彼が傍にいれば、いつかその正体を掴める気がした。
高鳴る胸を抑え込むため、シャルティーナは腕で自身を
ふと恐怖が身を
もしも記憶がよみがえった場合、どういった変化をもたらすのか――禁忌の悪魔に接していたのも、もともとは記憶がないからにほかならない。
知らぬ間に手が震えていると、シャルティーナは気づいた。
息苦しくなり、視界が暗さを増し、少しずつ
世界の
「お、シャルじゃないか」
彼のさり気ない声が聞こえ、シャルティーナの心臓は再び
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
悠真は机を
「まだ起きていたのか。どうした、寝つけないのか?」
薄暗くて少し見えづらいが、シャルが顔を赤らめている。
「ははっ、別に
依然として顔を
屋敷までの道中、肌寒い中を歩いてきた。
そのせいなのか、悠真は
「お、おい、まさか風邪とか何かの病気とかじゃないだろうな」
素早く立ち上がり、悠真はシャルとの距離を縮めた。
「あ、あ、ああ、あの、あの……」
気づかれまいとしているのか、
悠真はすっと隣に腰を下ろし、シャルの
「なあ、体調は問題ないか?」
「……少し、ちょっと、熱くなっただけです」
言われてみれば、部屋は少しばかり
シャルの
本当に問題がないと判断し、悠真はほっと胸を
「そっか。何か病気かと思って焦った」
「ご、ごめんなさい……」
「いや、病気じゃなくて本当によかった」
しんと静まり返ったが、長くは続かなかった。
「あ、あの、悠真さん」
シャルが言葉を止めた。彼女から
「……悠真さんは、ところどころ記憶を失っているんですよね?」
「ん、あ、お、おう」
「もし記憶が全部よみがえったら、どうなると思いますか?」
「どうって……うぅん」
悠真には、答えづらいものであった。実際のところ、記憶など失っていない。
記憶を失った試しもまたなかった。
本当に記憶を失った者がよみがえった場合、どうなるのか思考を巡らせる。
「悠真さんが、
記憶がよみがえった場合、接し方が変わってしまうのかもしれない。そんな
これまでシャルは自分の
反対に悠真は、正体を明かさずに
悠真は自分が
「あのさ、シャル――」
ふと悠真は思いだし、自分の体を
シャルの
「あ、いや、また盗聴的なやつがねぇかと思って」
部屋に仕掛けられている可能性も捨てきれない。悠真は静かに
「ああ、あのさ。
シャルはわずかに驚いた顔で固まり、それからぎこちなく
玄関から外に出るなり、
霧をまとう庭園のすぐ近くにある、
湖の
「ここなら、いいか」
シャルを振り返り、悠真は両手を腰に置いた。
「ここだけの話にしてくれ。シャルにだけは、ちゃんと伝えておきたいんだ」
「あ、はい……」
半開きの拳を胸の前に
か弱そうな少女の不安げな
「あのさ……本当は俺、記憶を失ってなんかいないんだ」
「えっ――?」
心持ち声を裏返らせたシャルが、
「ところどころ記憶を失っているって話は、ありゃ全部
「ど、どうしてそんな嘘を……?」
「全部が全部、嘘ってわけじゃない。俺はこの世界を、本当によく知らないんだ」
シャルは混乱したように、右に左にと何度も首を
「俺は、日本と呼ばれる国にいた。そこは秘術もなければ、錬成具も何もないんだ。闇の精霊王が、世界と世界を
目許を
「俺はな、シャル……このネクリスタって呼ばれる星で生まれ育った人間じゃない。地球と呼ばれる惑星にいた、別の世界――異世界の人間だ」
この告白が、どんな効果をもたらすのか想像もつかない。
彼女は、ただただ固まっていた。
肌寒い夜空の下、悠真は自分の選択が正しいのかどうか、何もわからなくなる。
柔らかな風が流れ、
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