第二十六幕 自分のことは後回し
アリシアの
「
お
万物から誕生する精霊は、同様に誕生した精霊達と生活を共にする。やがて多くの精霊の中で力をつけた精霊が
こうして一つの精霊界は
ある一定数の精霊主が誕生すれば、今度はその精霊主達の中でもっとも力を持った精霊が大精霊になり、果ては精霊王へと
仮に精霊が死んだ場合、
「だから
悠真は首を
「わからない? つまり、精霊達は存在そのものをあなたに
ようやく悠真は理解に
人で例えるなら人生で
精霊王からの置き
アリシアに言われ、改めて考え直し、とても複雑な心境になる。
(俺に、そこまでしてくれる価値が、本当にあったのかよ……?)
すべてがそのまま、悠真に
なんとも言えない心情に
「長い歴史をすべて振り返ってみても、
アリシアは両手で机を
「凄いわ、悠真君。こんなの捨てて置けないわ。私も、あなた達について行くから」
「お、おぉ……」
不意に、悠真の左側の太ももが。二回ほど軽く叩かれたのに気づいた。
左側に座っているシャルが、小首を
「話を聞いていますか? アリシア様が、ついて来るとおっしゃっていますが」
「いや、だめだろ。言っただろ、これ以上
しかしアリシアは、さらにその身を乗り出した。
「別に構わないわよ。そんなものどうでもいいと思える価値が、悠真君にはあるの。これは長い巫術士
狙ってやっているのではないか――そう
アリシアが、すっと椅子に座り直す。
「悪い話ではないはずよ。私の知識は、必ずあなた達の役に立つわ。旅の資金だって
アリシアはおもむろに、自身の腹部にある衣服の
あまりに
ほどなくして、彼女の行動理由になった思われるものが視界に入った。傷一つない
「私は、火の大精霊ラシーアから
「あの小さな犬みたいなのって、大精霊だったのか」
「ふふっ。それでどうかしら。いい条件と思うのだけれど――」
アリシアが着ている衣服を整えながら、ぼそっと
「それに悠真君にとっては、私の〝おっぱい〟がいつでも見られるわね」
そのアリシアのつけ加えに、悠真は
「別に、それは関係ないだろ! 別におっぱいとか、好きなわけじゃねぇから!」
「あら、そう?」
いたたまれない気持ちになり、悠真は頭を軽く
銀髪の彼女は、じっとりとした眼差しで
「うっ、あぁ……ど、どうする、シャル。俺はさ、この世界のすべてがわからないと言っても
少し考え込む姿勢を見せたあと、シャルは静かに
「お二人が問題ないとおっしゃるのなら、私に
どこか事務的な返しをしたシャルに、悠真は腰に手を置いてから首を横に振る。
「権利とかじゃない。シャルがどうしたいのか、シャルの気持ちを知りたいんだ」
シャルは目を見開き、顔を
「これまで、私は……一人でした。でも、悠真さんに
「こんな気持ち初めてで、合っているかわからないですが、凄く楽しいです」
悠真も、シャルに微笑んで
「そっか。そういうことだ、アリシア。しばらくの間、よろしく頼む」
「話がまとまってよかったわ。エレアノールさん、あなたはどうするのかしら」
アリシアの問いに、エレアは浮かない顔をした。
「私はまだ学生ですから、同行はできません」
「あ、いいえ。そうではなく、今回のことを
悠真は目に力を込める。アリシアはエレアが裏切る可能性について考えていた。
「待て待て待て。エレアが、そんなことするわけねぇだろ」
「彼女は、あなた達を狙っている騎士団が仕える王国側の者なの。たとえ彼女に話すつもりがなかったとしても、彼女を〝殺して〟でも――あるいは精神系統の秘術で、情報を引き出そうとする者がいる可能性だってあるわ」
悠真はうっかりしていた。ここは地球でもなければ日本でもない。
「確かに……精神系統の秘術まで
エレアの解答に、アリシアはゆったりと
「それならば、あなたにやってほしい仕事があるの。今回の件から、王国側が
「おい、それはエレアに国を裏切れってことじゃないのか。さすがにだめだろ」
「狙ってくるのは、彼女の国だけではないわ。それこそ……世界中を相手にするの。これぐらいしないと、シャルティーナさんはもちろん、私達もすぐに殺されるわ」
悠真は
「だからって――」
「それに……
アリシアはずるい女だと、悠真は素直に思った。
「アリシア様は人が悪いです。友人として、とまで言ってもらわなくても……当然、私は協力させていただきます。シャルが殺される姿など、見たくありませんので」
エレアは力のない声をあげた。
落ち込んだ雰囲気を放つエレアに、アリシアは
「そう、よかったわ。でもね、エレアノールさん。友人と思いたい気持ちは本音よ。けれど、それ以上に私は手段を
目を
「
アリシアもアリシアで、何か暗い過去を
内容を問う勇気は
行き当たりばったりではなく、真剣に熟考しているからこその発言なのだろう。
「アリシア、ごめん……」
「あら、何に対して謝罪しているの?」
アリシアは悠真を見上げ、不思議そうに視線を重ね合わせてくる。
「その、本当に頼りにしている。だからこれからも、よろしく頼む」
「何かよくわからないけれど……ええ。こちらからも、よろしくお願いするわね」
アリシアは人差し指を立てて、
「それでは、よろしくついでに、悠真君の転化を生で見させてもらえるかしら?」
「それはだめだ」
悠真が腕を組みながら即答すると、アリシアは目を丸くした。
「な、どうしてそんな
「俺は、ここにいるみんなとは違って、秘力がまったくないからだ」
「そういえば、そんな話をしていたわね。錬成具で調べたって言っていたわね?」
アリシアの問いに、シャルは困り顔をして首を縦に振った。
「悠真さんには、本当にどうしてかわからないですが、秘力がないみたいです」
「錬成具に不具合がある……というわけではなくかしら?」
悠真が
「闇の精霊王から伝えられた話だが、俺には秘力そのものがないんだ」
「では、悠真君は、どういった方法で転化を
悠真は少し
「生命力そのものを
一同――三人の女達が、
不安を宿した眼差しのシャルが、素早く立ち上がって悠真に詰め寄ってくる。
「悠真さん、だからあんな倒れ
「お、お前! さすがに、それは絶対にだめよ!」
気づけば、エレアが
悠真が
腰を下ろしたままのアリシアが、難しい顔をしながら静かな声で告げてくる。
「生命力を
異性三人から、こうも
「……だからガガルダは、常に危険が付きまとうし、簡単に命を失うはめになるとも言ってた。それと使う場所は
「むしろ、それで済んでよかったほうだわ。一歩でも間違えていれば、いつ死んでもおかしくないの。本当に凄い力なのに、少し
アリシアは唇を
「でも、生命力を高める方法とかがあるかもしれないし?」
「どう、かしらねぇ……秘力を高める方法ならいざ知らず、生命力の高め方だなんて聞いた覚えがないわ。エレアノールさんとシャルティーナさんはどうかしら?」
エレアとシャルは、
深く肩を落としてから、悠真は溜め息混じりに
「まあ、そこは……のちのち考えればいいか」
「現段階では二度と扱わないほうがいいわ。凄く見たいけれど、気になるけれど」
アリシアは、好奇心を必死に抑え込んでいる様子だった。
(今は、シャルが安心できるようにしてやるのが先決だな)
心配そうな眼差しで
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