湖の畔に建つ小さな古城
第二十五幕 これからの方針
別荘的な意味合いで建てられたのか、周辺はとても物静かで建物もない。代わりに草木に囲まれており、
屋敷と聞かされていたのだが、古城と形容しても差し支えないだろう。石や煉瓦が
そんな雰囲気を
景観を気にした室内装飾品も多いものの、どちらかと言えば生活感のほうが色濃く
使用人の姿もないことから、アリシアは綺麗好きなのだとうかがい知れた。
悠真は
激しい緊張に
シャルとエレアの二人に
そして机を挟んだ先には、アリシアが
女が三人に、男が一人――今の今に
まるで石像のごとく、悠真は体中がかちかちに固まる。
(なんだ、これは……どうして、こうなった)
これまでの人生、まったく女っ
ただ、悠真が異性と接点を持っていたのは、中学校を卒業するまでの話で、接する機会があったからといって、
(事務の
事務を担当していた
それが今は歳もさほど変わらない、加えて目を疑うような美人達に囲まれている。
悠真からすれば妙な気まずさがあり、居心地の悪い場だとしか感じられなかった。こういった展開は、これまで一度たりとも経験し
手汗握る静かな空間の中、
「さて、落ち着いたところで――」
悠真は反射的に、胸の内側で否定する。
(まったく落ち着かねぇよ)
「これからの話でもしましょうか」
紅茶の入ったカップを手元に置き、アリシアが視線を交わらせてきた。
「エレアノールさんが言った通り、世界中のどこを探したとしても……
アリシアの
浮かない表情をするシャルが、少しばかり
「ただしこれは人類が生活している
「はい。アリシア様がおっしゃった通り、私は
何も知らない悠真にとって、二人のやり取りはよくわからないものだった。
「精霊の住む
「世界中のあちらこちらに点在する、精霊達の領域というものがあって――精霊達が過ごしている精霊界と
悠真は首を
「簡単に言えば、精域は家の敷地内で、精霊界が家の中みたいな感じか?」
「けれど、精霊は人が精域に
「そりゃそうだろうな。他人が自分の敷地内で生活していたら普通は怖えし」
アリシアに返したのち、悠真は椅子に深く背をもたれる。
「なるほど。それじゃあシャルは、ヨヒムとニアの
「いいえ。私が暮らしていた精域は、別の精霊が
「あぇ? ニアとヨヒムのいる精域なら、何も問題なかったんじゃないのか?」
悠真が疑問を述べると、シャルは力のない苦笑を
「私の力が
シャルと食事をしているときの記憶を、悠真はぼんやりと掘り起こしていく。
「ああ、わかった。あの適性やら強度やらの話に
「はい。今の私では、ニアとヨヒムの住んでいる精域にすら入れません」
シャルの言葉が終わるや、アリシアは両手の手のひらを重ね合わせた。
「悠真君の理解も
「はい。そうです」
「悠真君は闇の精霊王と契約していて、水の精霊とも契約……したのよね?」
契約とは少し違う気がした。そもそも、悠真に精霊の適性などないと思われる。
精霊の適性を調べていた時点で、闇の精霊王はもう体内に宿っていたはずだった。それでも反応しなかったのだから、適性はないと考えるしかない。
実際の
「ああ、まあ……たぶんな」
「それならば、同様の適性を持った水の精霊界――高位の
「はぁ――なるほどな」
「もちろん、踏み込めるに見合った力をつける必要はあるわ。けれど、現状は二人の最大限である精域に身を
アリシアの提案を聞き、悠真は感心する。自分では絶対に出せない案であった。
悠真は、視線をシャルに向ける。
ちょうど彼女の顔も悠真を振り向き、小首を
「悠真さんがそれでいいのなら、私は構いません」
「そっか。それじゃあ手始めとして、その方向性にしておくか」
アリシアが手を
「さて、今後の
アリシアの顔に、何やら
「悠真君が言った通り、禁忌の悪魔と接点を持つのは、これ以上ない最大級の危険がつきまとうわ。それこそ、世界を敵に回してしまうほどにね」
両手を太ももに
「しかも世界中を敵に回している二人に、私は最良で最適な案まで
悠真の頭の中で、
アリシアの柔和な姿勢に、
「そうまでした理由は、悠真君。私は、あなたの存在が不可解で仕方がないの」
冷や汗が
「闇の精霊王ガガルダ。精霊界や歴史から姿を消した存在と
「ああ、まあ、そう、か? そうかなぁ?」
「さらには、水の精霊主フェリアエスの言葉――〝魂〟を持っていけ? 長い巫術士
悠真の右隣に座っているエレアのほうへ、アリシアの
「闇の精霊王の名を呼んだときの、見たままを伝えてもらってもいいかしら」
「後ろから眺めていただけですから、曖昧な部分も多いと思いますが……胸の周辺に手を置き、闇の精霊王の名を口にした瞬間です。彼の全身が、黒い煙みたいなものに
ふんふんと
「巫術士にはね、
アリシアが喋りながら人差し指、中指、薬指と伸ばした。
少し黙っていたエレアが、首を小さく横に振る。
「最初は、憑依型が思い浮かびましたが、私は術者の姿や形まで大きく変化しないと学びました。次に、召喚型を考えましたが、術者と精霊が瞬時に入れ替わるのも……装具型は明らかに違いますので、いずれも当てはまらないと思われます」
エレアが表情を曇らせ、顔を
「私には、精霊の適正がありません。だから勉強不足かもしれませんが、これ以上は想像が難しいです。
「いいえ、巫術士である私でも耳を疑う話ね。憑依型は容姿が多少変化する程度で、当然そのものではないわ。召喚型で巫術士が
アリシアが
「だから説明してくれるかしら? もちろん、ここだけの話にしておくから」
拒否権はない――彼女の雰囲気から、ひしひしと伝わってきた。事前に危ない橋を渡っているのを説明したのも、すべては情報を
商業都市で再会したときにも思ったが、彼女は本当に頭がいいのだと再認識する。おそらく、
深く肩を落とし、悠真は
闇の精霊王は、
悠真は考えを巡らせ、
「正直なところ、俺も全部を
「大切……それは〝魂を渡す〟ほどに、なのかしら」
小首を
「らしいな。それでもし、自分の力が必要になったときは、胸に手を当てて名を呼べ――で、実際に実行してみたら、翼の扱いも秘術の扱いも俺にはよくわからないが、感覚的っていうのかな。まあ、なんとなくいろいろと扱えるようになってたんだ」
アリシアの表情が
自制でもしたのか、一度目を閉じたアリシアの顔がまた
「悠真君は……精霊がどう誕生するか、知っているかしら?」
悠真が無言のまま首を横に振ると、アリシアがゆっくりと
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