第二十三幕 もう一人の追跡者
悠真は、魂が口から抜けそうな気分に
世界中から
あまりの
悠真がそう再認識したとき、シャルの暗い声があがる。
「悠真さん、私のせいで……」
銀色に輝く瞳は涙で
「まあ、別に問題ない。俺は俺の正しいと思う道を選んだ。だからさ、全部を知った上で、何度でだって言ってやるよ。シャルは、
「それでも、私は、やっぱり……」
「ちょっと、どうするの! これじゃあ……呪われた屋敷を浄化したっていう、私の記事も載せられなくなったじゃないの」
一歩
「それは
「それは、そう、だけど……」
エレアが不満げに口ごもった。気持ちは察するものの、今は諦めるほかない。
「このままだとエレアまで世界を敵に回すはめになる。逃げる方法を考えねぇと」
悠真が思案を始めた直後、貴金属を切るような
すぐさま音のする方角へと視線を
黒い指輪から
「あら、
どこかで聞き覚えのある、柔らかい女の声だった。
足を踏み入れて来たのは、やや
悠真は遠目に、アリシアの
「ア、アリシアじゃないか? どうしてこんなところにいるんだ」
「どうしてではないわよ。いったい、どれほど私が苦労したと思っているのかしら」
アリシアが足早に向かってくる。少し
ふと、悠真に別の疑問が
(ん……ピピンは、どうやってここに入ってきたんだ?)
疑問を問うため、ピピンのいた場所を向く。だが、どこにも姿が見当たらない。
悠真は首を
ずっと閉じ込められていたため、早く別の場所へ行きたかったのかもしれないが、仮にそうだったとしても、一言もなく去られるのは少々
なんとも言えない気持ちを
「あ、あの、私は別に、信徒とか、そんなのではありませんから……!」
「安心してください。
にこやかな顔で
そういった
アリシアは両手首を腰に
悠真の鼻先に、アリシアが伸ばした人差し指をそっと当ててきた。
「そんなところ、見ている場合?」
完全に視線の先を
不意に、横腹に重い
「あぃっ、だぁっ……お、お前、何、すん、だ」
「何をデレッとしているのよ。
エレアは拳を震わせ、鬼のような形相をしている。悠真は
苦笑いで
「こんなことしている場合じゃないわ」
エレアは
「アリシア・マルティス
悠真は
「えっ……皇女? アリシアが?」
「何やっているの。お前らも早く
片手を上下に振って合図するエレアをよそ目に、悠真は
「問題ありませんわ。皇女と言っても、私は
「お
その辺の事情や称号について、悠真は何も知らない。おそらくどこかの帝王の血を引く者といった、
「つか、お前。お姫様だったのかよ。どうりで雰囲気が
「お、お前、本当に
固有名詞がぽんぽんと出て、さらに
「霧の摩天楼っていうのは……じゃなくて、なんでそんな人がここにいるんだ」
アリシアが小首を
「おもしろそうだったから、来ちゃった」
「なんだ、その、彼氏の家に突然
悠真は半眼で
アリシアが、ややおっとりとした目を丸める。
「あら、まあ……私を
事実は確かにそうなのだが、明らかに
「いや、違う、あれは
「はわわわっ、あわわわっ……えっ?
引きつった
悠真は
「ほらみろ、アリシアのせいで変に
「誤解? すべて事実なのに……」
「言い
アリシアはくすりと笑い、柔らかな表情をして
「もう少し感謝してくれてもいいのよ――あの包囲から救ってあげたのだから」
悠真は眉を寄せ、思考を巡らせる。少しして、はっと理解に達した。
「あの商業都市で起きた火柱って、アリシアの
「正確には、私が契約した精霊ね。
悠真からすれば、どちらでもたいした違いはない。
違いに関して思案していると、アリシアが
「そしてもうすぐ、ここに騎士達が踏み込んでくるわよ」
一気に緊張が高まる。再度、あの騎士と戦わなければならないかもしれない。
握り締めた拳に、悠真は視線を落とした。アリシアの
「私が助けてあげるわ。そのために調べ物もしてきたの。まさか
彼女の
「今度は、何を
「まあ、人聞きの悪い言葉ね。助けたいから助けた。それでいいのでしょう?」
忍び笑いをするアリシアに、悠真は
「あまり、いい趣味とは言えねぇな」
シャルとエレアの二人は、ぼんやりとした顔で黙っている。
「でも、そのお
「だからと言って、盗み聞きを
アリシアが自分の顔を、悠真の顔面付近に素早く近づけてきた。
腹部に妙な違和感を覚え、悠真は後退して距離を取る。
見せびらかすように、アリシアが小型の何かをつまんでいた。
「これが声を届けていた
「いつの間に……あのときか」
カフェで急接近されたときの光景が、悠真の
あのときポケットに、盗聴を目的とした錬成具を入れられたのだと理解する。
「そろそろ、本当の目的を話せ。もしシャルを狙ってんなら――」
悠真は右拳を
「俺は、お前を敵として
そして
「感謝されこそすれ、敵だなんて
「お、おい!」
アリシアは細くしなやかな指で
「
悠真は内情を
アリシアのあまりの無防備さに、悠真は
「エレアと戦ってたときに見た影は、お前だったのか」
「ええ。
くすりと笑ってから、アリシアは続けた。
「それから、目的はきちんと伝えたでしょう? 悠真君達を助けてあげるわ。ただ、本当にそれだけ。そもそも、盗聴する錬成具を仕込んだのは、悠真君が禁忌の悪魔と
「じゃあ、どうしてそんな俺に構うんだ」
悠真は
アリシアは
「悠真君に声をかける前……最初は、本当に驚いたわ。何気なく見た場所に、あなた黒い
悠真は
突然、アリシアが目を細め、後ろを振り返る。
「時間がないみたいね。ついて来てちょうだい」
精霊が
シャルとエレアに目で合図し、悠真は後を追う。
「ここは、古代のルニム遺跡を
壁を見回しつつ、アリシアが静かな声で言った。
何かあるのかと思い、悠真も視線を巡らせながら
「古代の、ルニム遺跡……」
「紀元前、一万年以上も前に失われた民族――ルニム族が残したとされる遺跡です。
悠真は呟きのつもりだったが、疑問と受け取った様子のシャルが説明してきた。
解説を受け、悠真は地球でのマヤ文明に似たものだと考える。
「ここは、ただの
アリシアが腰に帯びている小さな
確認してみると、どうやら屋敷内の詳細な平面図らしい。
「あったわ、これね」
アリシアが置いた指先の辺りに、フェリアエスを閉じ込めていた
「なあ、この文字って秘術文字ってやつじゃないのか?」
「
ようやく、謎に感じていた疑問を解消できた。
あの殻に浮かんでいた文字を、シャルとエレアは探し出せなかったわけではない。本当に最初から何も見えていなかったのだ。
アリシアが壁に指を
「その平面図を見ながら進めば、きっとここから外に出られるわ」
「えっ……? アリシアが先導してくれたらいいんじゃないのか?」
「私は、
「いや、それはだめだろ。アリシア一人でなんて、危険すぎる」
「あら、さきほどは敵と
「
わずかに肩を震わせたあと、アリシアは柔和な顔を
「そう。でも、大丈夫。策があるの。味方と言うのなら信用してくれないかしら」
アリシアは自身の頭を指差した。
「平面図はすべて頭に入っているから、すぐに追いつくわ。だから、安心して」
「わかった。だけど、
アリシアはゆったりと
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