第十七幕 禁断の魔導生命体
青い光に照らされている空間に、ぴりぴりと張り詰めた空気が広がっていく。
上空から降ってきた怪物を、悠真はまっすぐ
「あふん、えふん、おふん、あふん」
喜んだ顔、怒った顔、
黒い指輪に、悠真はそっと意識を送った。まばゆい雪白の輝きを放ち、やがて光は
「ちょ、ちょっと。これって
「禁断の魔導生命体って?」
「
シャルが会話に割り込んで解説してきた。その表情は
どうやら目の前にいる怪物は、いわばロボットみたいなものだと思われる。
そう呑み込み、悠真は心の内側で静かに
そっと目を閉じたシャルが、ゆっくりと手を前に差し出した。
「純白の魂――」
シャルの
「――
シャルが
「強化系統の秘術です。悠真さんもエレアノールさんも、気をつけてください」
「気をつけろと言っても……あれは、やばそうだなぁ」
悠真は右拳を
(こんなやばい展開、いったい何回目なんだろうな)
悠真は呼吸と気持ちを整え、
恐怖も緊張も心の中で
悠真は思考を巡らしながら、魔導生命体との距離を詰めていく。
目の前にいる怪物がどういう攻撃手段を持ち、どれほどの強度や素早さがあるのか何もわからない。だから現状は、相手の情報収集に
様子見のつもりで、右の拳を
「ん、なっ――?」
物理的に殴られたような感覚は、悠真に深い
魔導生命体は、微動だにしていないはずだった。
悠真は瞬時に別の何かを疑ったが、まったく見当もつかない。
「えふん」
三つの顔面が
「えふん、えふん、えふん、えふぅん」
体に
「ぐぁっ――」
後ろのほうへ倒されたが、かろうじて受け身を取って立ち上がる。
被弾した
シャルの強化系統の秘術がなければ、おそらくこの程度では済んでいなかった。
「まったく、だらしないわね」
死霊系統の
細身の剣を斜め下に構えたまま、一直線に魔導生命体との間合いを縮めていく。
「あふん」
これまでと違い、今度は顔面が逆回転する。
頂上が怒った顔から、
なぜ顔面をころころと移らせるのか――悠真は、はっと気づく。
「攻撃するな!」
声を張った制止も
斜めに斬られた魔導生命体から、藍色をした血と思われるものが飛んだ。同様に、後方へ吹き飛ばされるエレアの体からも、赤黒い血が
悠真は大きく目を見開き、腹の底から叫ぶ。
「エレアぁあああ――っ!」
駆け寄ったエレアの体を、悠真は
シャルが
「おふん」
目を向けると、喜んだ顔が頂上へと移動していた。悠真は
「おふん、おふん、おふん、おふぅん」
三つの顔面付近に一つの青い紋章陣が浮かび上がる。きらきらとした小さな
反対にエレアの状態は、予断を許さないほどの危険な状態に
斜めに腹部を切り裂かれており、
「あふん、えふん、おふん」
女に近い気味の悪い声があがった。また上部が
(こいつ、間違いない!)
喜んだ顔は
「だからか……だから、名の売れた剣士が瞬殺されたのか!」
だからこそ、少ないダメージで済んだのだ。名の売れた剣士は
破壊とまではいかなくとも、相手に深手を負わせる覚悟の
「悠真さん!」
シャルが足早に近寄ってくる。
「シャル、
エレアの
「こ、これは――」
悲鳴
「
目を奪うほど
「――
水色の紋章陣から、ゆらゆらと青みのある光の粒が舞い落ちていく。その光景は、ピピンから
「こんな深手……悠真さん、時間がかかってしまいます」
「わかった」
シャルの言わんとすることを瞬時に
「俺が絶対に時間を稼ぐ。だから、エレアを頼んだ!」
シャルに告げ終え、悠真は魔導生命体へと走り向かう。
何があったとしても、シャル達のいる場所へ行かせるわけにはいかない。
魔導生命体との距離を縮めながら、悠真はこれまでに
「あふん」
頂上が哀しむ顔のままなのを確認してから、悠真は拳を止めた。
代わりに指先で
「もう間違いねぇ! やっぱり、思った通りかよ!」
悠真は魔導生命体の右側へと回り込んでいく。
「えふん」
怒った顔が頂上に移動した。秘術での攻撃が、悠真の
「えふん、えふん――」
「やるなら、今か!」
(これなら、いけるだろ!)
「あふん!」
拳が当たる
瞬時に哀しむ顔が頂上に来たと頭ではわかったが、
悠真は奥歯を
じわじわとした恐怖に、胸の内側が染められていく。
攻撃すれば跳ね返され、傷を負えば
その
(こんな……こんな怪物、どう戦えばいい!)
視界をも
シャル達の制止を素直に受けておくべきだったと痛感する。これは人の手に負える――別世界からやってきた、普通の人の手に負える相手ではない。
「えふん、おふん、あふん、えふん、おふん、あふん」
三角形を
亀のように手足を引っ込め、ぐらぐらと揺れ――
「ん、なぁっ、にぃいいい!」
直撃したであろう石柱が、
かすかに地面が揺れ動き、
石柱は、この広々とした空間を支える重要な役割を
手足を伸ばした魔導生命体が、子供みたいに飛び跳ね、再び表情を回転させる。
今度は転がってくる
「アァアアアアア――!」
耳を傷める精霊の
声量が
魔導生命体が青白い
(力を
これを悠真は
悠真は
三つの顔にあるすべての口が大きく開き、魔導生命体も精霊と同じく咆哮する。
強風に近いそれは、悠真の体を
背に打撃――石柱か何かに激突したのだろうと、悠真は瞬間的に判断した。
体が言うことを聞かなくなっている。視界も
それでも悠真は、必死に顔を上げようと
魔導生命体が顔を回転させている光景を最後に、悠真の意識は闇に閉ざされた。
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