第十八幕 護りたい願いと力
それほどまでに、エレアノールの容態は
必死に
本日の月は深みのある青色をしていた。それが
シャルティーナの治癒系統の秘術は水属性だった。
ただ魔導生命体の属性もまた、水属性で間違いない。
(急がないと……)
そう思った矢先、再び後方から精霊の
精霊の
シャルティーナは背にその衝撃を
咆哮が
秘力を注ぐのをやめるや
「はぁ、はぁ、はぁ……」
秘力を
治癒術を発動している間は、
秘術は
単発型と違い、持続型は秘力を紋章陣へと継続的に注がなければ
流れ落ちる汗を腕で
今回のような強力な秘術を発動している間は、周りが何も見えなくなっていた。
魔導生命体は
シャルティーナは視線を巡らせ、目を大きく見開き、そして息が詰まった。
(悠、真さん……)
数ある一本の石柱の下で、悠真は魔導生命体側を向いて倒れている。
シャルティーナは無意識に、悠真を目指して走り出していた。近づくにつれ、彼が何一つ動きを見せていないのを目で
心臓が、激しい
息が切れ、息苦しいはずなのに、そんなのがどうでもいいとすら思えた。
(いや、いやぁ! 悠真さん!)
シャルティーナの視界が、次第に涙で
どうしてこれほど感情が乱れるのか、シャルティーナにはよくわからない。それを考えられるだけの
そんな
彼の
「悠真さん、悠真さん!」
何度も呼びかけたが、悠真から反応は返ってこない。涙で彼の顔を
温かい熱と脈が、手のひらを通じて伝わってくる。
どうやら意識を失っているだけで、死んでいるわけではなさそうだった。
ほっと胸を
「あふん、えふん、おふん、えふん」
「えふん、えふん、えふん、えふぅん」
魔導生命体の周囲が、まるで
体内に
すでに、底がつくほどに秘力を
魔導生命体に対抗できる
悠真を運んで逃げるだけの腕力も、シャルティーナにはない。
(悠真さん、ごめんなさい)
腕に
言葉で、行動で――彼が、シャルティーナの中にある世界を変えた。
彼が小さな幸せを、たくさん与えてくれた。
世界中から
しかしシャルティーナに戦う力はない。護れるだけの力もまたなかった。
それが、心の底から
(あなたを護れなくて、ごめんなさい。こんな私だけど、許してくれますか?)
(
彼に
周囲が
魔導生命体が、攻撃系統の秘術を発動する
ふとシャルティーナは、激しく震えている自分の手が視界に入った。
そこから、恐怖に
いつかこんな日がくると――これまでの人生、ずっと覚悟してきたつもりだった。騎士に殺されかけたときでさえも、素直に受け入れようとしていたのだ。
それなのに、今は〝死〟が怖い。
もっと生きていたいと願う気持ちが、流れる涙のように
「シャル――っ!」
悲鳴に近い女の声が飛んだ瞬間――
悠真の
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
暗い闇の中を、悠真は
この闇しかない光景には、どこか見覚えがある気がする。
記憶を
次にエレアと出会い、ニアとヨヒムに出会い、そして――
(シャル!)
銀色の髪と瞳を持って産まれた。たったそれだけの理由で、世界中の人々から
(そうだ。俺、気を失って……何を
悠真は自分の
(ふざけんな! 次は自分の部屋の中で目覚めましたとか、ありえねぇからな!)
目覚める気配は一向にない。そんなときであった。
《
頭の中に直接、気味の悪い重低音の声が響く。
《
悠真は目を
「な、お、あんたが俺を、あの世界に
《このような形で告げる結果となり、どうか許してほしい》
深く謝罪の意が込められた声音に、悠真は
「何を――」
《
「力を……? どうして、そこまでして俺を召喚した!」
《不完全で歪な召喚を、強制的に
その発言から、悠真は目では文字が読めない理由を理解した。
「そんなのは、もうどうだっていい。ちゃんと説明してくれ!」
《我が
「盟、友……?」
《盟友は、ずっと
一つの予想が
《二度と戻れぬと知った盟友は、
(親父……?)
《それには、こちらの世界へ呼び寄せるしかなかった。世界と世界を
ガガルダの声からは、
《
「こっちに来られるなら、帰ることだってできるだろ。なんで親父はしなかった!」
《汝には、本当にすまないことをした。世界と世界を繋ぐ道は一度しか進めぬのだ。二度もとなれば魂が
悠真は
先の
《不完全な召喚の結果、
(ふざ、けるな……)
母親と過ごした日々が
《姿を消した自分を、おそらく家族は怨んでいる。と、そう言っていた。
「ふざけんなよ。俺や母さんが、どれだけ苦しんだと思っていやがんだ! どれだけ不幸だったと思ってやがんだ! ふざけるな。ふざけんなよ!」
自然と涙が
「そんな簡単に……そんなあっさりと、許せるわけがねぇだろうが!」
《
本当に勝手極まるガガルダの発言に、悠真は言葉を失う。
心のどこかでは、きちんとわかっている。気持ちをどれだけ爆発させたところで、いまさら意味がない。そうだとしても、頭の中をぐるぐると考えが巡ってしまう。
胸の中になんとも言えない
父親は、王とまで名乗る精霊が、そこまで
簡単には許せない。それだけ
《最後に一つ、汝に伝えよう。消えかけた我の魂を、汝の魂に
「なっ……そ、魂を注ぎ込む?」
信じられない発言に、悠真は
《歴史的にも
「いや、それより注ぎ込むってどういう意味か答えろよ!」
《この世界に存在する
勝手に話が進み、
《我との同化を
アルドに両断された腕が再生したのは、精霊が体内にいるからだと理解する。
《忘れないでほしい。盟友、そして我も、汝の幸せを
今すぐに答えは出ない。悠真は何も見えない
「勝手ばっかり言いやがって、こっちに選択する
少し沈黙に
《
悠真は
ただただ録音に近いものを、ひたすら聞かされていただけだとわかった。
「言うのが遅ぇよ! 俺、ずっと
聞こえないとわかっていて叫んだはずだが、なぜか含み笑いが聞こえてくる。
《くく……ただの
「て、てめぇ……おい、今すぐここに姿を現しやがれ。この場で殴ってやっから」
別の意味で怒りが込み上がり、悠真は固い拳を作った。
「言いたい言葉が多すぎておいつかねぇな。だけど、今だけは……全部許してやる。この訳のわからない世界で、俺はやらなきゃならないことがまだたくさんあるんだ」
《ああ……やはり汝らは、魂までもが繋がりのある親子だ。そうやっていつも
「おう、あたりまえだ」
《目覚め、我が名を呼べ。汝に、
悠真は決心を固め、闇の精霊王ガガルダに向かって言葉を送る。
「行くぞ、闇の精霊王ガガルダ!」
悠真の声と共に、闇の世界は一瞬で晴れ渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます