第十五幕 術のあれこれ
銀色の髪をしたシャルの隣で、悠真もやや遅れながら手を合わせた。
「大丈夫。こんなにも
「はい」
シャルと一緒に立ち上がり、気絶しているエレアを前にする。
悠真は腕を組み、眠るように倒れている彼女を
「しかし、こいつ。なんかもう、笑っちまうな……ったく、しゃあねぇな」
悠真はエレアの腕を
エレアの体は、想像以上に女性らしい柔らかさがある。
背中に当たる乳房に、指が食い込む太もも――ほどよく絶妙な肉付きをしており、女なのだと強く意識させられる。ただ、しっかり
(しがみつかれたとき、引き
「どうかしましたか、悠真さん」
硬直していた時間が長かったのか、シャルが不安げな顔をして近づいてくる。
「あ、いや……思ったより重い。ってな」
「失礼ですよ、悠真さん」
口を
そのとき、エレアの体重がいきなり重さを増した。
周辺を照らす光球と似た
日本人の女性と比べ、エレアは身長がやや高い。
「はは、違いないな」
苦笑いで
ふと、だらんとした彼女の手のひらが視界に入る。
(こいつ……)
傷一つないように見え、手のひらは――
屋敷の正門での発言は、
「……よし。行こうか、シャル」
シャルと歩幅を合わせつつ、悠真は歩き始める。
「あっ……」
「ん? どうしたんだ、シャル」
「私も、この屋敷までそうやって
当時の様子が
「まぁ……そう、だな」
シャルの
「いや、でも、シャルは想像以上にすげぇ軽かったぞ」
「……そ、そうですか」
会話が続かず、二人して無言のまま屋敷内の探索を再開した。
悠真は何か話題がないか、必死に言葉を
「あ、そうそう。シャルと
悠真の質問で、シャルは小さく
「秘術と
シャルの話を聞きながら、悠真は
「なるほど……じゃあ、言葉が違うってだけで同じ内容のものだってことか」
「そもそも、
「俺には、そういう感覚がわからないな……まあ、秘力がないからかもしれんが」
シャルは困ったように微笑んだ。
「そういう体内や自然界の秘力ってさ、目に見えるものなのか?」
「あ、いいえ。肌……感覚的に感じるといったほうが、
こちらの異なる世界では、そういった第六感が当然として働いているようだ。
悠真はシャルと、古びた階段を
二階に到達してから、悠真はシャルに質問をぶつける。
「言葉の違いって理解はしたけど、秘術と秘法も同じ言葉の違いなのか?」
「秘術と秘法は、
「なるほど……」
寝室と思しき場所を眺めながら、悠真は
特に何かがあるわけでもなく、そっと戸を閉じて別の場所へ向かう。
「儀式……か」
「人の体内を巡る秘力とは違って、自然界の秘力は扱いが難しいですから……でも、もともと秘術は秘法から
「ああ。ようするに目に見える儀式が秘法で、自分の中で行なう儀式が秘術か」
わずかに
「あの魔法陣はどういった
「魔法陣……?」
シャルは不思議そうに、小首を
「ああ、えっと……秘術を発動する直前に出てくる、丸い形をしたやつだ」
「あっ、
シャルが
「法術を
何やら、ずいぶんと難しそうな理論があるらしい。シャルの解説をしっかりと呑み込めているのか、悠真は
少なくとも、すぐ理解できるような単純な代物ではないとだけわかった。
まだすべてを消化しきれてはいないものの、悠真は不意の疑問をそのまま問う。
「んぅ……? 紋章陣を描いてから術式を打ち込むより、全部終わらせてからやれば
「
「なるほど。そりゃまずいな」
「詠唱の必要性ですが、一から術式を
落ちている古い書物に、ふと悠真の目が
「あと身近な術といえば、
燃え盛る火の毛並みを持った犬を、悠真はぼんやりと思いだす。
(主軸とした……か。だから、アリシアは自分を
「人は補助道具か特殊な方法に頼らない限り、
「へぇ……精霊術、ね」
勉強にはなるが、自分には扱えそうにない残念な情報として心に
「精霊と契約を結んだ者は強大な力を
「ああ、そうそう! あとでわかったんだが、だからあのとき、シャルは俺が精霊の適性がないわけがないって言ったんだよな」
気まずそうに、シャルはぎこちない
「はい。悠真さんは、高位の精霊から寵愛を授かった
「なぜだか、
「そうですか? 悠真さんは、とても
シャルは口許を
「だといいがな……って、しっかし、あの妖魔と
屋敷は二階までしかなく、屋根裏も特になさそうだった。
玄関から始まり、行ける場所は
もはや、ただの
「もしかして、あの
答えの出なさそうな問題に、シャルは困り顔をした。
「一度、ピピンに確認するか。シャル、どっかに商霊がいるはずだから探そう」
悠真の提案に、シャルが微笑みで
屋敷の玄関付近に戻ったところで、気絶していたエレアに反応が表れる。
「お、やっと起きたか。何を気絶しとんだ、お前」
「ん、あれ……?」
状況が呑み込めない様子のエレアは――
「お、おお、おぅ、おお、お前、私に何をしているのっ?」
「な、何って、
「降ろせぇ、離せぇ!」
悠真は言われた通りに手を放すと、エレアがどさっと重い音を立てて落ちる。
「い、つ、つつぅ……何をするのよ!」
「いや、お前が離せって言ったんじゃないか」
「離し方があるでしょう!」
もの凄い
「あのまま気絶したお前を
突然、彼女の金色の瞳は斜め下へと移った。
「だからといって、その……私に
妙な想像をするエレアに
シャルを見ると、気まずそうに悠真とエレアを
「さてと、それじゃあここから出て、ピピンを探そうか」
「無視をするな!」
怒る彼女から視線を
シャルの様子に、悠真はふと目を奪われた。
エレアの足元のほうを、何やらじっと
「どうしたんだ、シャル」
「あ、あの……エレアノールさんの足元に、何かがあるみたいです」
シャルの指先を
目を
「なんだ、これは? なんで文字が浮かんでんだ……?」
「これは、秘術文字ね。この下に
「秘術文字ってなんだ?」
初めて聞く単語を聞き返すと、エレアが
「お前は、本当に
「おお……確かに聞いた限りじゃそうだよな。よくわかった。ありがとう」
悠真がお礼を告げると、エレアの表情がわずかに引きつった。
「なんか、素直にお礼を言われると気持ちが悪いわね」
「教えてくれる人に礼を
目玉がこぼれ落ちそうなほど、エレアが目を丸くする。
「く、くそ? 殺すわ、お前!」
「無反応秘術でか? 怖いな。何も起こらないのを
鬼のような
少し息苦しさを
よく観察してみれば、
エレアの両手からするりと抜け、悠真は近寄っていく。
「ここか」
取っ手と思われる部分に指を入れ、持ち上げてみる。信じられないほど重い。
おそらく、通常はなんらかの道具を使用して開く扉なのだろう。
床にある隠し扉を開けば、人二人分程度の幅しかない階段があった。
とても深く下へと続いており、秘術で生み出された明かりすらも届かない。
「えぇ……こんなところ、進みたくないわね」
「一緒に進むのと、一人で待ってるの。どっちがいいんだ?」
少しばかり
「行くわよ。行けばいいんでしょう」
「来なきゃ、お前の目的が果たせないだろ。シャル、その光球を、俺の前にくるよう操作してもらってもいいか? 俺が先に進むから」
シャルの表情は
「悠真さん、気をつけてくださいね」
身を案じてくれているシャルに、悠真は微笑みで返した。
悠真は緊張を胸に、
階段を下り切った先には、長い一本の通路が続いていた。
周囲は加工された石壁で
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