第十二幕 七人目の正体
長椅子に座っているシャルの前に立ち、悠真は両手を腰に置いた。
「落ち着いたか?」
シャルが言葉なく
「さて、シャル。これまでの話は少し置いといて、これからの話をしたい」
銀色の瞳に
「あの騎士の連中も相当やばかったが、それと同じぐらいやばい状況に今はある」
ピピンから
次第にシャルの顔が
「ここが、あの有名な呪われた屋敷なんですか。
子供の感性によるものなのか、
「そういえば、あれから二人の姿を見ていないが、
「……はい。どちらもとても安全な場所にいますから、問題ありません」
妙な間に悠真は首を
とりあえず、悠真は
「まあ、それで、ここには
「悠真さんは、もう確認したんですか?」
悠真は短く
「そういえば……うん、してないな」
「一緒に見に行きませんか? 私でも解除可能な
「ああ、わかった。行こう」
立ち上がったシャルと、悠真は近くにある正門を目指した。
相変わらず半開きで、何もないようにしか見えない。
「これ、本当に
「
シャルが近くにあった小石を拾い、
瞬間、ノイズに近い音が響き、小石が
「うわぁ……なんだこりゃあ」
「こ、これは――」
シャルの声は驚きに満ちていた。
「悠真さん、ごめんなさい。これは、私の手に負える代物ではありません」
「非常に強力な結界。それこそ、精霊が
「じゃあ、やっぱり結界を張った本人をどうにかしないとだめか」
「はい。これほどの結界が、どうして張られているのかは謎ですが……」
軽く溜め息をつき、悠真は軽めに何度か
「調べてみるしかないか……危険だから、シャルはここら辺で待っててくれ」
「な、何を――」
「きゃあぁああ――っ!」
シャルの言葉を
屋敷の内部から聞こえた気がしたのだが、正確にはわからない。
悠真は屋敷を
「シャル、何か来る。そこにある木の裏に
シャルを
玄関口の扉が
「え、人? ちょ、ちょっと……!」
黒い人影に
「ぐっ――」
「ゆ、悠真さん!」
後方に押し倒され、地面に背を強打した。腹部にずっしりとした重量を感じる。
痛みを
「お、お前……あのときの御貴族様じゃないか」
御貴族様は震えながら顔を上げた。
記憶を呼び起こしていたのか、少しの間が置かれた。
「お前、下民の……ポチか?」
「下民じゃねぇしポチでもねぇから。つか、重いからどいてくれないか?」
彼女は
「今は、ちょっと無理な相談ね」
「はぁ? 何を言ってんだ」
悠真の腹部に御貴族様が顔を
綺麗な異性に
ただ、商業都市での一件で、悠真の中にある御貴族様の印象は
どう扱うか
「腰が、抜けた……」
微妙に力が入れにくい姿勢ではあったが、悠真は力を振り絞った。
「っしゃ。
「な、何をするの。信じられないわ」
地面に
腕を組んだ御貴族様を、悠真は半眼で
「普通に動けるじゃねぇか。何が、腰が抜けただ」
「お前の非人道的な
「知らねぇよ。つか、貴族ってのは、人に
悠真の問いに、御貴族様は苦い顔を横に
「わ、私を受け止めた事実、
「ないわけあるか。今の発言のいったいどこに、謝罪の言葉が含まれてたんだ」
「貴族に
理解不能ではあるが、本気で貴族の彼女は正しいと思う雰囲気を
「それで喜ぶ
「はぁ? 本当、下民は教養がなっていないわね」
「そんな教養なんざいらねぇな? そこら
頭の
小さく
悠真は
「いや、あのな。笑いごとじゃねぇから……」
「ひっ、き、
どさっと
まるで、慌てて逃げる
悠真は
御貴族様のスカートの中身が、完全に見えているのだ。見えそうで
ふとシャルの表情に、深い影が差しているのに気づく。
「ったく、失礼な奴だな。禁忌の悪魔って名前じゃない。この子はシャルだ」
「お、おぉ、おぅ、おぉ、おぅ」
激しく
「お前、頭がおかしいの? そいつは、あの有名な禁忌の悪魔よ」
「おかしいのは、お前の頭だ。シャルだつってんだろ」
貴族の彼女は素早く立ち上がり、握った拳を胸の辺りに置いた。
「はぁ?
「だから、お前の頭だよ。あ、た、ま。わかるか?」
悠真は自分の頭を何度もつつき、言葉を強調して示した。
御貴族様の目が大きく見開かれる。その金色の瞳に、確かな
「もう、お前……この私を
御貴族様は、胸元からネックレスを取り出した。
何かの紋章を
少し細い両刃の剣が、彼女の右手に握り締められている。
(あれは……ピピンがくれた
「ちょうどいいわ。禁忌の悪魔もお前も、この場で討ち取ってあげる」
ただならない殺気に、悠真は
両腕まで呑み込んだ雪白の光が
「シャルを狙うなら、たとえ女だったとしても俺は
悠真は握り込んだ右手を
実際のところ、悠真はたとえどんな理由があろうとも女性だけは絶対に殴れない。格闘術を学んでいた
そのせいで、格闘術を
トラウマが治る
きつくしごかれた
「甘く見ないで……剣を持っている相手に、拳で勝てるとでも思っているの?」
御貴族様の構えを見て、悠真はまずいと感じた。都市で戦った騎士クラスとまではいかないものの、それでも
一直線に、御貴族様が向かってくる。
中途で剣を構え直すや
悠真は冷や汗をかいた。命を
「どうしたの! 私は手加減などしないわ!」
「悠真さん!」
悲鳴
想像以上に
(籠手で受けて、剣を奪うしかないか)
不意に、御貴族様の後ろで何かが揺らめく。
御貴族様がやや離れた位置に移動し、
「
「いや、今……何か、お前の後ろのほうで影が……」
「きゃぁあぁああ――!」
異常なまでの悲鳴に、驚いた悠真の体が極わずかに
完全に無防備な状態に
「ちょ、おま、なんだ!
「無理無理無理無理無理。絶対に無理」
「邪魔だ――つって、んだろうがぁ!」
しがみつく御貴族様を、悠真は
彼女の握力は、想像した五倍ほど力強かった。
「あわ、わわ、わわわ、わあ、わ、わあ」
御貴族様は
今は
(気のせいだった、のか?)
悠真は周辺の気配を探りつつ、あわあわと声を
「つか、ピピンが言ってた挑戦中の一人って……お前だったのか。おい、御貴族様。屋敷の怪物
悠真は装着していた
御貴族様から
「今の私の姿を見て、それを本気で言っているのなら、お前の
「お前、マジで何しに来たんだ」
「うるさいわね。私には私の事情があるのよ」
御貴族様の容姿は、すれ違う人を振り返らせるぐらい
おまけに、最後の七人目が御貴族様だとは知らなかったが、心のどこかで七人目が浄化してくれるのを
悠真は、
「そうかい。じゃあ、シャル行こうか。御貴族様は、ご自身の理由で
「ちょ、ちょっと待ちなさい。お願い、無理。待ってよ」
プライドが
悠真は
「怪物
「いやぁあ、置いて行かないで! 本当に無理だから。無理、無理」
シャルのほうへ足を進めた
「シャルにも人として接してやれ。攻撃しようとするな。それが条件だ」
「それとこれとは話が別だから。何を言っているの?」
御貴族様が真顔で
御貴族様を引き
「あっそ。それじゃあ、
「お、お願い待って、ってばぁ。わ、わかった。わかったからぁ」
悠真は立ち止まり、目を細めてから彼女を見下ろした。
「し、仕方がないわね。
「じゃあ、そういうことで」
解答が気に入らず、再び悠真は歩く。
「もう、わかった! シャルね、シャル。攻撃もしないから! 約束するから!」
足首を
「く、くっ、くっそぉお――!」
夜空に浮かぶ青い月に向かい、彼女は女があげてはならない
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