第六幕 小さな幸せ
この世界に自分は必要とされていない。産まれてから、ずっとそうだった。
銀色の髪と瞳を持ち、ほかの人とは違った
それが間違いだとわかったのは、物心がついた頃ぐらいだったと記憶している。
自分だけが特別におかしいのだと――思い知らされた。それでもどうにか、ほかの者達と仲良くしようと努力したこともある。けれど、
ただ
そこでシャルティーナは、すべてを諦めてしまった。
だからニアとヨヒムだけが、心の支えであった。もしこの二つの存在がなければ、世界中のすべてを
たとえ命を捨てる選択をしたとしても、世界に必要とされていないのだから、
ニアとヨヒムのためだけに、シャルティーナは今もまだ命を
いつか自然な死が
誰にも
流れに流され、背を押されるように、シャルティーナは一歩を踏み出した。
久遠悠真と名乗った彼との出会いを、頭の中で正確に思い
なんと心地よい空気感が
これまで出会ってきた者達と、何もかもが異なった雰囲気を彼はもっている。
シャルティーナのそんな
彼は恐怖どころか、まるで英雄でも見るような眼差しになっていた。
その〝
存在の意味を知ってしまえば、彼もほかの者達と同じく自分を
彼の言葉が、
ずっと、諦めていた。
一生、
これほどの喜びがあっただろうか。
これほどの幸福があっただろうか。
知らず知らずのうちに、涙がこぼれ落ちていた。
胸に
そして
シャルティーナはそっと、服の
(私に、喜ぶ資格なんかない)
店にいた男達や女店主が、夢みたいな世界から現実へと連れ戻した。激しい苦痛が胸の内側をじわじわと
彼はきっと、ほかの者から禁忌の悪魔に関しての話を聞くに違いない。
それでも、ほんの少しでも夢を見させてくれた彼に、お礼と謝罪がしたい。
胸に一つの決心を
すでに日も暮れており、辺りはすっかり暗くなっていた。
今現在、彼がどこにいるのかわからない。だから
(行き着く先は、たぶん……)
瞬間、シャルティーナは
虫の知らせにも似たそれは、
「い、いたぞぉおおお!」
まだ若い男の声だった。シャルティーナは瞬時に視線を
軽く武装した姿から、商業都市の治安を
シャルティーナは、
日が暮れたとはいえ、大通りであれば人込みに
迷路に近い路地裏を、シャルティーナは駆け抜けていく。
衛兵の姿で
ありえない光景が、シャルティーナの目の前に広がっている。
「全員、
白き
(あの紋章、王国の、騎士団? どうして、こんな場所に……
シャルティーナは、血の気がさっと引いていく。
進路を変えたのではない。進路を変えさせられたのだとわかった。
「
背後から追手が
「これは、これは。こんな場所で禁忌の悪魔と
純白の鎧を着た男が腰に剣を
顔はまだ若い。二十歳前後だとシャルティーナは推測した。
見た目は
胸に
「王国、
確かな
もう一つ情報を付け加えると、任務のためには血も涙も見せない連中らしい。
「禁忌の悪魔様にまで存在を知られているとは、とても
毒気の抜ける
シャルティーナは、再び視線を巡らした。
この
昼食を取った飲食店でしか、自分の姿を
(いったい
信じたくはない。考えたくもない。それでも、脳が勝手に連想を働かせてしまう。
当然、前者のどちらか――あるいは、どちらもといった可能性は高い。ただ、彼は禁忌の悪魔の存在を知らなかった。だから、そこから
真相を知るために
(うんん、違う。わかっていたこと……だって私は、禁忌の悪魔なんだから)
この世界に自分は必要とされていない。それが、すべての答えなのだろう。
聖印騎士団の男が、ゆったりとした声を
「脱出は不可能です。だからどうか諦めてください。あなたが
二枚目な顔に、男は
「自己紹介が遅れました。聖印騎士団の団長、アルド・フルフォードと申します」
本来であれば、ありえない失敗であった。ただ、今回は少し事情が違う。
彼との出会いを
シャルティーナは首を振って思考を打ち消した。
いまさら
考えを改めて、
体内に流れる
「純白の
声に練り上げた秘力を乗せ、光の紋章陣を
そして今度は、体内に
「
シャルティーナが手を前に出した瞬間、真っ白な発光が
シャルティーナは
ふと光の中で、
シャルティーナは地面に小さく丸まり、必死に痛みを
(い、息が……)
次第に秘術の効果が切れてしまい、また
痛みのせいで
端正な顔立ちに浮かんでいる表情は、寒気がするほど
「視力を失ったところで、敵の居場所ぐらいは察知できます。それにしても、初めて禁忌の悪魔の姿をこうして
アルドの口許に
回復する
アルドが
「その程度で逃げられると思ったのなら……ずいぶん甘く見られたものですね」
周辺を囲んでいるほかの騎士達からも、
シャルティーナの視界がじわりと涙で
それでも息を整えて、素早く逃げる姿勢を取った――
(な、は、速すぎ……)
シャルティーナは、体が宙に浮く感覚がした。
地面に叩きつけられ、何度か転がっていく。
「が、あぁ……あ、あぁ、うおぇあぁ……」
胃の中の物が
血が混じっていたのか、鉄を舐めたような味がする。
意識が飛びそうなのを、かろうじて耐える。本気で殺すための蹴りだった。
(ここで、終わり、なのかな……ねぇ、私の人生って、いったい、なんだったの)
いっそ産まれてこなければよかったと、そう思わずにはいられない。
満点の星空が広がっており、色違いの
不思議と、少しだけ痛みが
(もういいかな……ちょっと、疲れた。ごめんね、ニア、ヨヒム)
この世界に自分は必要とされていない。
それでも、幸せがなかったのかと問われればそうでもなかった。おそらくそれは、見る人から見ればとても小さく、
産まれたときから
それでもう、
「世界に
聖印騎士団の団長アルドが、白い光を
(さよなら、世界……こんな私に、小さな幸せをたくさんくれて、ありがとう)
自分を貫くのであろう剣先が、振り下ろされる
それからほどなくして、今度は何かが両断された音が耳に届く。
一瞬、自分が斬り裂かれた音と
「ちょっと待ったぁあ――っ!」
どこかで聞き覚えのある男の声だった。
シャルティーナの意識は、そこで
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