第五幕 聖印騎士団の始動
楽な布服に身を
百年に一度、世界のどこかに現れる〝
塔に選ばれた者のみが
内容は
一代目の覇者は、
二代目の覇者は、
三代目の覇者は、
これらはただのお
今より約千年前の書物に、初代とされる者の記録が残されている。
それから三百年後に二代目が誕生し、さらに三百年後には最後の覇者となった者の情報が、わずかながらも
三代目から約四百年の間、塔が三回出現したが覇者は一人も誕生していない。
全員が帰らぬ人となっていた。命を失えば、塔から
最後に塔が現れてから、もうすぐ百年の月日が
これまで〝
文献通りであれば、塔は選んだ者の付近に
商業都市エアハルトの付近に、塔が出現する
最初は、国を
そこまで上り詰め、アルドに欲が
もっと
今回の件は、国王
どこまでの願いが
それは実際に〝
自然と笑みが口許に張りついていたのを、アルドは自覚する。
首を振って
「はい、どうぞ」
「アルド団長、失礼いたします」
くぐもった女の声を聞き、戸の奥にいる者が
部屋に入ってきたのは、副団長のリアンだ。重い足音から、
目を向けずに、アルドは告げる。
「リアン……宿の中ぐらい、もう少し軽装でいたらどうだ?」
「いえ、
規律正しい
手に乗せた書物をそっと閉じて、アルドは体ごとリアンを振り返る。紫の髪が汗で少しばかり
「しかし結局、その万事には私が準備を終えるまで待つはめになるのだがね」
「団長を待つのと、私を待たせるのとでは訳が違います。そして今、その万事です」
「わかった。要件を聞こうか」
「都市衛兵から通達がありました。商業都市の飲食街で、
アルドがまだ少年と呼ばれていた
十数年前、暗き森の奥深くで、禁忌の悪魔はその名にふさわしい誕生を
それからも話だけは何度か耳にしたが、最後に聞いたのは六年ぐらい前――禁忌の悪魔の
禁忌の悪魔に
確実に生死を確認できない状況となり、しばらく
ここ数年は、禁忌の悪魔に関する話は何一つとして耳に届いていない。
(生きていたのか? それとも、また別の……まったく、この
禁忌の悪魔を討伐したともなれば、名をあげる要素にはなる――しかしそれ以上に〝
禁忌の悪魔など〝霧の摩天楼〟に比べれば、アルドにとっては
「少しあやふやですが……黒髪の青年が連れ
アルドは静かに
商業都市がまだ
しかも他の王国での出来事だったとはいえ、生死の確認ができなかった禁忌の悪魔
「アルド団長、少し顔色がすぐれないご様子ですね」
リアンは胸に手を置き、深く頭を下げた。
「お許しいただけるのであれば、
アルドは手のひらを見せ、リアンを制する。
「いいや……それには
「アルド団長……それでは、団員達に戦闘の準備を始めさせます」
「ああ。頼んだ、リアン」
「はっ!」
(しかし、なぜこの場所に禁忌の悪魔が
アルドは言い知れぬ不安を
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
商業都市は少しずつ、
シャルが店を飛び出してから、悠真はずっと彼女の姿を探している。だがしかし、どこにも彼女の姿は見当たらない。そもそも都市があまりにも広すぎるのだ。
探してはいるものの、会ってどうするのかまでは考えていない。
出会ったばかりの自分が、彼女に何かをしてやれるわけでもなかった。それでも、もう一度会わなければ、胸に妙なしこりを残したままになる。
息を切らし、立ち止まった悠真の
汗を腕で
(シャル、いったいどこにいるんだ)
心のどこかで、このままもう二度と会えない気がした。彼女の言葉通りであれば、買い出しで商業都市を
時間も時間のため、普通に考えればすでに都市を離れていても不思議ではない。
それとは別に、もう一つ離れている可能性が高まる理由がある。あれほどの
そこまで考えていながら、悠真は諦め切れない。
体力がやや回復したあと、また悠真は駆ける。
不意に、十字路の
「わぁっ!」
「えっ!」
急停止を
弾力のある柔らかな人肌の感触がした。同時に、かすかな痛みも
「つつっ……あの、すみません! 大丈――」
言いながら現状を理解し、悠真は
相手の
「あぁん、いやぁ……」
「だぁあぁあ!」
瞬時に飛び
「すみません、本当にすみません。
「つっつぅ……あれ、あなたは?」
聞き覚えのある女の声であった。
地面に落とした
「あ、あれ、あんた、あんときの……」
少しおっとりとした顔を苦痛に
「い、つつ……あなた、
奇妙な
そっと立った女が、黒い衣服についた
「いきなり飛び出して来るものですから、びっくりしました」
悠真も立ち上がり、頭を下げながら改めて
「本当に、申し訳ありませんでした」
「まあ、今朝とは違って、顔色もずいぶんよろしくなったみたいですね」
顔を
今朝は知らない間に来ていた異世界で目覚め、まだ間もなかった。それに比べれば
悠真が切り出すよりも前に、桃色の髪をした女が柔らかな声を
「それはそうと、何か急いでいらしたみたいですけれど、大丈夫なのですか?」
「ああ、いやあ、急いでいるというか、なんというか……」
悠真は言葉に詰まる。理由はよくわからないが、
「ただ、気分転換に少し走ってたぐらい、かな、はは」
「ふぅん……」
少し間を置きすぎたせいか、その生返事には
「まあ、そういうことにしておきましょうか」
あまり
女が
「そうですわ……これから少し、お時間を
「えっ?」
「どこか近場のお店でも探して、飲みながらお話し相手になってください」
女からの
今朝を思いだしてみても、自分に関する
「いや、俺、
「安心してくださいませ。誘ったのは私ですから
やんわり断ろうとしたのが
(でも、まあ……
胸中で結論を出した悠真は、そっと肩を落とした。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな」
女がゆったりと
「自己紹介が遅れました。アリシア・マルティス。アリシアとお呼びください」
アリシアの自己紹介を聞き、悠真はふと思う。地球でも、他国がそうであった。
日本とは異なり、おそらく名前が先で、苗字が後に違いない。シャル達は名前しか名乗らなかったから、今の今まで気にすらしていなかった。
まだ
「俺は久遠悠真。たぶん苗字と名前が逆だろうけど、悠真って呼んでくれ」
「……ふんふん、悠真君ですね。それでは、悠真君。行きましょうか」
悠真はアリシアの横に並び、彼女の歩幅に合わせて歩いた。
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