第三幕 神々しい少女
注文書に書かれた文字が読めない悠真に代わり、料理はシャルが選んでくれた。
まだ昼前のはずだが、やや古びた木造の店内は
自分達以外に客の姿はなく、店員の姿すらもない。入店したときや注文したときに顔を見せたのは、三十代
一日が二十四時間だとは限らないし、朝昼晩と食事をしない可能性もある。
これから知らなければならない
一息つきながら、悠真は道中でシャルから
この商業都市は
そんなシャル達も、商業都市に
さまざまな
「その……」
店内でもフードを
「悠真さんは、どちらから来られたんですか?」
シャルの問いに、悠真は困り果てる。黒髪に指を通して頭を
まさか〝別の世界からやって来ました〟と、素直に答えられるはずもない。
自分の置かれた状況を多少なりと
返答に
「何か、失礼な質問だったでしょうか……すみません」
「いや、そうじゃない。ごめんな。あぁ――実はさ、ここがどこで、自分がどうしてここにいるのか、俺にもよくわかってないんだ」
シャルが、どこかきょとんとした雰囲気を
「それは、どういう意味でしょうか」
「たぶん一種の軽い記憶
「まあ、そうだったんですか。だから、悠真さんは文字が読めないんですね」
悠真は
一度吐いた嘘は呑み込めず、悠真は事実を交えて
「自分が育った場所や風景とか……覚えてるところは覚えてるんだけどな。でもさ、それがどこにあって、どう帰ればいいのか……おまけに無一文だしな」
「それは、お困りでしょうね」
「正直、飯を
情報を頭の中で
彼女から醸されるのは
居心地の悪さを覚え、悠真は重い沈黙を破る。
「今度は、こっちが質問してもいいか? どうして、店内でもそれを
シャルは少し肩をすぼめ、顔を
「ああ、悪い。なんか聞いちゃだめだったみたいだな。忘れてくれ」
「あ、いいえ。ただ、人に見せられる容姿ではないので……」
ほんのわずかに
見えたのが瞬間的だったとはいえ、相当な美人の部類に感じられた。
「まあ……別に
本音では、もう一度見直してみたかったが、悠真は
また
「シャルお姉ちゃん、ちょっと
「うんうん。きっと、平気よ」
ヨヒムの発言に、ニアが同意を示した。
シャルは
「え、でも、だって……」
深く肩を落として小さくなったシャルが、しばらくしてから前を向いた。
「わかり、ました……」
決心したのか、シャルがフードを
さらさらとした銀色の長い髪が流れ落ち、窓から差し込む
お
最初に出会った桃色の髪をした女や、気にくわない
年齢の
吸い込まれそうな銀色の瞳を
「やっぱり、あの、怖い……ですよね」
「……え? 怖いって、なんでだ?」
悠真は素直に問い返してから、首を
シャルの両隣にいるヨヒムとニアが、ぼんやりとした顔で見つめてきている。
「ん……?」
「だって……この髪と瞳の色を見て、わかりませんか」
シャルの声はひどく
銀色の髪と瞳にどんな問題が
地球であればアルビノと呼ばれる分類になる可能性はある。しかし商業都市では、すれ違う人それぞれが
それ以前に――どう見ても、人とは思えない者も普通に歩いていたのだ。
「商業都市では、銀色の髪と瞳って恐怖の対象かなんかなのか?」
「商業都市だけではありません。この世界すべてでそうです」
「えっ、そうなんだ? でも、別に怖くない。そんな話、初めて聞いたぐらいだ」
シャルが目を
「よくわからないが、別に怖がる
悠真は、意識的に作った微笑みを見せる。
「そうやって、揺れ動く心がシャルにはある。そして、俺やヨヒムやニアにもある。何も変わらないだろ。俺には、シャルは普通の女の子にしか見えない」
シャルの片方の目から、すっと
突然の
「ああ、悠真お兄ちゃん泣かした!」
「男は女を泣かしちゃだめだって、悠真お兄ちゃんが言っていたのに!」
「あわわ、ご、ごめん。何も知らないのに、何もわからないのに、勝手言って」
「いいえ。そんなこと言ってくれた人、初めてで……だから、
(――そんな、泣くほどなのか?)
シャルの
これまでの間ずっと、フードを
そこには、
「大丈夫。シャルはちゃんとお礼ができる
「はい」
シャルの
(なんだ、この
悠真が気持ちの
ぼんやりとシャルを見守っていると、料理がテーブルに並べられていく。
何かの煮付け――いや、どうやらスープに近い料理だった。別の世界ではあるが、食器は普通にあるし、フォークやスプーンなどもきちんとある。
ふと並べられた料理の数に疑問を覚えた。どう見ても二人分しかない。
「それでは、お
「あれ、ヨヒムとニアは食わないのか?」
「……ああ、えっと、どちらもお腹が減っていませんので」
悠真は、縫いぐるみで遊ぶヨヒム達を眺める。
(確かに、腹が減っているようには見えないな……どっちも遊ぶのに
もしかしたら、事前に何か食べていたのかもしれない。
「そっか。わかった。それじゃあ、ありがたくいただきます」
悠真も
皿に入った物をフォークで刺して、口へと運んだ。味は魚の煮付けに近いのだが、
やや濃いめではあるものの、普通に
「お、これは
お腹が減っていたのもあり、美味しさは割増している。
口許に笑みを浮かべるシャルに、悠真は料理を味わいながら
「そうだ、シャル。少し知りたいんだが、秘力ってやつはシャルにもあるのか?」
どこか
「え、ええ。もちろんありますが……」
「実はさっき、とある
「えっ、と……普通に扱うだけですけど」
悠真は苦笑する。その普通の
「そうそう、こうやってばぁって」
ヨヒムが手のひらを高く
「も、もしかしてさ、みんな普通にできるのか?」
「ニアだって、水を出せるよ。ここだと
悠真は言い知れぬ
(そりゃあ、
テーブルに
(こんな子供までできるんだ。むしろ、できないほうに問題があるんだろうな)
「きっと悠真さんは秘力の扱い
また胸に一筋の痛みが
シャルが腰の辺りから、
「この
「これも、錬成具っていうのか。これはどんな道具なんだ?」
「秘力の流れが感じ取れる錬成具ですね。私が小さい
心を
「これを、どう扱えばいい?」
「手のひらに乗せて、意識を錬成具のほうへと集中して送ってみてください。それで悠真さんの体内に流れる秘力が、自然と錬成具に流れていきます」
悠真は、シャルに言われた通りに実行してみる。重圧的な空気感が場を
五秒、十秒と
「もしかして、
「あ、あれ、おかしいですね」
錬成具を返すと、今度はシャルが自分の手のひらに乗せた。
錬成具全体が
白と青の二色が、
「うぅん……ちゃんと全部反応しますね」
「二色に切り替わってるんだが、これはどの属性を持っていると示してるんだ?」
「白は光の属性で、青が水の属性ですね」
「人は本来、一つしか属性を持っていないよ。でも、シャルお姉ちゃんは特別なの」
ニアの頭を
「じゃあ、単純に……俺には、属性も秘力もまったくないってことか」
「いいえ、属性も秘力も持っていない人は……そんなの聞いたことがありません」
「もう一度、確かめてみていいか?」
再び受け取った錬成具に、悠真は
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