晴真町2

 由水可はせつりを家の中に入れると、家の中を見せて回った。

「一階に玄関、廊下、トイレ、お風呂に五畳半の部屋二つで、二つの部屋のうち、玄関から見て奥の部屋は台所となっている。二階は右側から数えて五畳、四畳、五畳の部屋が三つ。うーん、広い。こんなに広ければ本の置き場所に困らずにすむね。いいなあ」

「よくありません。一人が平気な私でもさすがに広すぎて怖いです」

「すごい、贅沢な悩みだね。うちの家なんかただでさえ狭いのに、今度兄貴が結婚してお嫁さんと一緒に住むことになるから、その前に出ていけとか父親に言われちゃってさ、もう大変だよ」

「それは大変ですね。というかわたしがここに来る前のはお兄さんたちはまだ結婚する気配がないと言ってたような気がするのですが」

「あのころは確かにそんな話は出ていなかったけど急にふたりが結婚することになって」

「結婚するなら早い方がいいって、父と母が兄貴とお姉さんを説得したのも良かったみたい」

「お姉さんはうちの両親と同居するのに少し抵抗があって迷っていたようで。でも、お姉さんの仕事は保育士でお給料低いし、長時間労働だから無理して二人で頑張るよりも同居してうちの両親が元気なうちは面倒を見てもらった方が良いんじゃないかということになって」

「それ自体はすごい良いことだと思うし私も賛成なんだけど、お姉さんが来るから私は出ていけっていうのは横暴でしょ」

「確かに」

「まあ、兄貴とお姉さんをでうちの二階はこの家と同じく三部屋あって、今は父親と、私と、兄貴の三人で使っているんだけど二人が結婚したら、二階は全部兄貴とお姉さんに使わせてあげたいの部屋で仲良くしたいと思っても、隣の部屋に私がいると気まずいだろうし、私も気まずいし」

「それに結婚して二人に子どもがすぐできることだってあり得るし、そのときのために子ども部屋を確保して置いた方が良いというのはわかるし」

「なにより、たとえ家族であっても、兄貴とお姉さんが仲良くしている声を聞くのは、絶対避けたいし」

「それは、絶対駄目です!」

「それから、嫁姑問題を引き起こさないためにも、兄貴と父さんたちが二階と一階で住み分ける方が良いのは確かだし」

「私が家を出てった方が良いけど」

「漫画でお金を貰うことも満足にできていないし、今やってるスーパのパートで生活するのも正直厳しいしこれからどうしようかと」

 せつりは話の途中で心ここにあらずという顔になった。それから突然はっと何かに気がついたような顔になった。

「どうしました」

 由水可が尋ねる。

「由水可。大変申し訳ないけど」

「なんですか」

「ここに住ませてくれない」

「えっ、だって仕事はどうするんですか」

「辞めてこちらで仕事を探す。まあ、急には辞められないから、一ヶ月くらいあとの話だけど」

「簡単に言いますが、こんな田舎に仕事なんてありませんよ」

「どうしてもなければ長距離通勤してどっかで仕事するから大丈夫」

「そんなの上手くいくわけありません」

「確かに失敗する確率の方が高いと思うけど、とりあえずもう決めたから。お願いね」

 せつりは笑顔で言い放つ。


  




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