第4話 戦士たちは眠れない
「ねえ、本当に行くの?」
「今さらかよ! もう着いちまったんだ。町に帰るにしても朝になんないと無理だよ」
夜も更け、灯りの消えた闘技場の前に二人の子供が座り込む。話の発端は「数々の死者が眠る闘技場には、夜に死者が舞い降りる」という噂。その真相が子供同士で議論が白熱し、最終的に自身の目で確かめるという結論になったのだ。
互いの親にそれぞれの家で宿泊するという定番の嘘を吐き、外界の危険を知るが子供の安全は気に留めない、そんな悪い大人の護衛を得て、町から少し離れた闘技場へと辿り着く。次に迎えが来るのは朝で、どの道退路は断たれていた。
「待ってよ!」
闘技場の外壁を登り始める友人を慌ててもう一人が追う。建物は古いこともあってか、所々傷んだ箇所が目立つ。中にいるのが百戦錬磨の猛者という事もあるのだろう。外敵の侵入を拒むような仕掛けもなく、警備の薄さを追い風に二人は易々と侵入できた。
「なにも見えない……」
「静かに。噂じゃ幾人もの戦士が絶命した場内、そこに……」
言いかけて子供は口を閉ざした。暗闇の中から微かに見えた光。薄っすらと緑色に光るそれに向かって、二人は吸い寄せられるように近づいていく。光が強くなるにつれて、誰かの声や何かの衝突音が聞こえてくる。
そこは戦場だった。
巨大な三つ首竜に向かって弓矢を放つ兵士、巨大な斧で兜ごと兵士を叩き割る牛男、羽の生えた悪魔とそれを追うように宙に浮かび火球をぶつける魔法使い……本や吟遊詩人の語りでしか聞いた事のないような人間と魔族の戦いが繰り広げられていた。
「危ない!」
兵士の放った矢が自分の胸をすり抜ける。それを避ける事もできずただ見ていた二人は絶句した。
「かつての大戦で死んだ亡霊だ。自分たちが死んだ事にも気付かず、毎晩戦い続けている」
声に振り向くと、闘技場の関係者であろう魔術師の男が立っていた。
「ご、ごめんなさい!」
「噂話を確かめようって度胸は良い。でも子供だけで来て良い場所じゃない。今日は遅いから泊っていきなさい」
二人は空き部屋に案内された。夜遅く起きていた疲労もあるが、それ以上にあの鮮烈な光景が脳裏に焼き付き、何も考えられないまますぐに眠りに落ちる。
その日、二人は夢を見た。人間と魔族が地上の覇権を争い、怒号と殺気に塗れた戦場を駆け抜ける。
今からは想像もつかないような狂気の時代、しかし力ある者が富と名誉を手に入れる覇者の時代。恐怖と興奮が織り交ざった不思議な高揚に、二人は確かな熱を感じた。
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