第7話 剣さばきと羞恥心
フィオナことフィオの反応は早かった。
真っ赤になって悲鳴を上げることも、必死に体を縮めて胸と局部を隠そうとすることもしなかった。
岩に立てかけていた剣を素速く取ると、何も言わずに斬りかかってくる。
「うわっ!」
反射的に上体をのけぞらせて、切っ先をかわす。
――ビュンッ!
顔面に剣圧の生む風。
前髪の数本が刃にかすって切れ、パラパラと落ちる。
(なんて速さだ……!)
手練れの剣士であることは確か。
だが、見切れないほどではない。
この左手が、俺に限りない力を与えてくれている。
(二の太刀が来る――!)
――ビュンッ!
今度は身をかがめて、横なぎの刃をかわす。
立ち上がりざま、振り抜いた姿勢のフィオの肩を軽く押してやる。
柔道のすかし技の要領だ。
フィオはバランスを崩し、
「くっ――!」
転倒せずに踏みこたえたのは、体幹が強いせいだろう。
日頃から、よほど鍛錬を重ねているのだ。
体勢を立て直したフィオは、
「ドラゴニアの手先め――!」
「ドラゴニア?」
絵物語に描かれていた竜の国。
「落ち着け、俺はそうじゃない」
「問答無用っ!」
またしても斬撃。
――ビュンッ!
俺は紙一重でかわすが、
「!」
今度はフィオも、俺の動きを読んでいた。
切っ先の向きを、フルスピードのままいきなり変えたのだ。
まるで、ふいにつむじ風が巻き起こるように。
(こいつ――!)
何て剣さばきだ。
今度はかわしきれない。
ならば――
「!?」
フィオは驚きに目を見張る。
俺が手袋の左手で、刃を直接受け止めたからだ。
この程度の一撃で、指を斬り飛ばされることはない。
俺の力は、そんなにやわなものじゃない。
「おのれっ――!」
フィオは、憤怒に目を剥いて力押しを試みる。
どうやら、少々頭に血が上りやすい性格のようだ。
(やれやれ……)
俺は刃を握り、グイとひねる。
「きゃっ!」
思った通り、腕力はそれほどでもなく、フィオは今度こそバランスを崩す。
それでも剣の束を話そうとしないので、俺の方から間合いを詰めて、手首を取って直接ねじり上げる。
それでも必死に抵抗するせいで――
「!」
二人してもつれ合うような形で、苔の上に倒れ込んでしまったのだった。
「……」
「……」
俺が上になって、のしかかるような格好。
顔と顔は、あとほんのわずかでも近付けると、唇同士が触れ合ってしまう距離だ。
さすがに剣も取り落とし、フィオは今や完全に丸腰、いや、丸腰以上の丸裸になっている。
「……大丈夫か?」
と、訊いたのが、かえっていけなかったのかもしれない。
「う……」
髪の毛と同じ栗色の瞳に涙が浮かぶ。
「うっ……ううっ……ぐすっ……」
敗北の屈辱と怒りと恐怖と、女の子としての羞恥心。
色々なものがないまぜになって、フィオは涙をポロポロとこぼし始めるのだった。
「弱ったな……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます