第5話 月下の誓い
絵の中には、深紅の騎士服に身を包んだ四人の乙女がいた。
剣を手に、名状しがたき怪物に力を合わせて立ち向かっている。
激闘の末、彼女たちはついに怪物を滅ぼしたのだ。
(救国の英雄ってわけだな……)
辿り着いた最後の壁画は――
「月下の誓い……」
流星の四乙女たちは、それぞれに掲げた剣の先を合わせ、姉妹の誓いを立てている。
その姿は、夜空に輝く二つの月に照らされている。
誓いの言葉も、碑文として残されている。
我ら四人
生まれし時は違えども、死ぬ時は同じ
星の乙女の誇りにかけて
闇を滅ぼし、愛を護らん
彼女たちの手によって、ネクロノミコンを持つ狂気の魔道士も、書物ごと空間に開いた穴に封印されたのだった。
(めでたしめでたし、ってわけか……)
ふと見ると、絵の中には、四乙女とは別の人物もいることに気付く。
若い男が、少し離れた所で誓いを見守っているのだ。
白銀の鎧に身を包んだ――
(騎士、なのか?)
あるいは、四乙女の従者のような人物なのかもしれない。
それにしても、この男、どこかで見たことがあるような――
「……!!!」
気付いて、驚愕に打たれる。
見覚えがあるはずだ。この男、他でもない俺自身に似ているのだから。
世をすねた挙げ句、あきらめと自嘲に染まった暗いまなざし。
信じられないことに、左手に俺と同じ黒い手袋までしている。
(こんなことが――)
はたして、あるものだろうか?
異世界に飛ばされ、神殿に導かれ、そこに描かれた壁画に自分自身を見つけるなんて――
「――あるわけないよな」
そうだ、きっと夢に違いないのだ。
軽く目を閉じて深呼吸。
まぶたを開く。
「……」
辺りに何ひとつ変化はない。
元いた世界に戻っているわけではないし、絵の中にいる鎧の男も、やっぱり俺自身と瓜二つだ。
「何でこんな……」
答えを教えてくれそうなものはどこにもない。
聖堂の最深部には、ごく小さな広間があるばかり。
円卓と呼ぶにはあまりに貧弱な丸テーブルと、木製の粗末な椅子が四脚。
ちょうど、山小屋の一室のようだ。
何か特別な場所なのだろうか?
まあ、そんなことはどうだっていい。
ここを拠点にすれば、雨風をしのぐことはできる。
何日暮らしていけるのかは分からないが、当面の水や食料を探さなければ――
そこまで考えたところで、
「あ……!」
自分の浅はかさに気付く。
森の中で後をつけてきた小さきものたちに、ソフトキャンディをあげるんじゃなかった。あれだって、貴重な食料になったかもしれないのに……
「くそっ……!」
後悔しても遅い。
せめてもの腹いせに、右手で自分の額をぺちんと叩く。
その時、広間の奥から、水の流れる音が微かに聞こえてくるのに気付いた。
壁の側に、誰かがブーツを脱ぎ捨てているのも。
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