第4話 流星の四乙女
石造りの聖堂に、窓はどこにも存在しない。
にも関わらず、建物の中は、昼下がりの木漏れ陽のような柔らかな光に満たされている。
その光が壮大に浮かび上がらせているのは――
(壁画だ……)
通路を奥へと進むにつれて時系列を追っていける、いわば絵物語になっているらしい。
一枚目に描かれているのは、いかにも邪悪そうな竜の軍勢に蹂躙されている、人間たちの姿だった。
「ドラゴニアのくびき……」
金属の文字盤に彫られたタイトルを、呟くように音読する。
そして、気付いた。
(文字が読める……!)
一体なぜ?
「……」
考えたって分かりやしない。
とにかく、そういうものなのだろう。
でも、文字が読めるのだとしたら――
(言葉だって通じるはず……!)
誰でもいいから、誰かに会いたい。
話をして、せめて自分がどんな世界にいるのか知りたい。
孤独には慣れているはずなのに、急にひとりぼっちが身にしみてくる。
早く人を見つけなければという、切羽つまったような気持ちになる。
そのくせ、絵物語には惹かれる。
一枚ずつ、丁寧に見ておくべきだ。それが、この世界を知るための第一歩になるかもしれない。
(落ち着こう……)
軽く目を閉じて、深呼吸をする。
まぶたを開くと、冷静さが戻っている。
「よし……!」
意識してゆっくりと見ていくことにする。
次なる絵には、暴虐の限りを尽くす竜に対して、敢然と立ち上がった人間たちが描かれている。
タイトルは――
「我らの誇りを……」
竜を打ち負かしているのは、勇気ある少女騎士たちだ。
次なる絵は――
「和平協定……」
国を治める女王は、竜と講和する道を選んだらしい。
一連の絵物語は、やはり、この国の歴史を描いたものなのだ。
次の絵に進む。
「暗黒の到来……」
講和によるかりそめの平和は、ドラゴニアに現れた、一人の魔導師によって破壊された。
彼が悪しき術によって召喚した怪物が、地上に溢れかえる様子が描かれている。
「なんだ、これは……?」
怪物は、どんな竜とも明らかに違っている。
見ているだけで胸が悪くなるような代物。
おぞましい触手が絡み合い、ぬめり光る塊となることで、ひとつの生命を形づくっているようだ。
あえて例えるならば、畸形のイソギンチャクといったところか。
あるいは、外宇宙からの来訪者――
(名状しがたき怪物、か……)
狂気に目を輝かせ、世界を滅ぼさんとする魔導師。
彼の手にした漆黒の書物には、金文字で題名が記されている。
「ネクロ……ノミコン……?」
元いた世界でも聞いた覚えがあるのだが、どうにもうまく思い出せない。
とにかく次の絵だ。
「絶望の時代……」
名状しがたき怪物は、人間だけではなく竜にも襲いかかり、手当たり次第に餌にしている。
なすすべもなく逃げまどい、喰われ、かつ飢え、隠れ怯え、病み、嘆きながら、惨めに死んでいく人間と竜。
最悪なのは、そんな中でもなお、両者が殺し合いを続けていることだ。
(まさしく、絶望だな……)
だが、その絵は闇だけで終わっているだけではない。
次なる絵は、黒一色の空を流れる四つの流れ星から始まっている。
それは――
「流星の四乙女……」
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