第11話 勧誘
「あの……シルヴァは俺ですけど」
そう言いながら、シルヴァは兎耳の少女を見る。すると、その少女はシルヴァの元へと歩いてきた。
「へぇ……君がシルヴァっていうんだ……」
自分を見定めるように目を細くして此方を見る少女に、シルヴァはあまりいい気分ではなかった。
「……それで、一体何の用だ?」
「君、名前書き忘れたでしょ」
「あぁ……そうだが。それがどうかしたか?」
「どうかって……あれ満点だったって事だよね?」
「そういうことになるな」
「……という事は、あれを解いたんだね」
「あれって?」
「最終問題」
「……?普通に解いたが」
その少女は、頭に手を当てた。そのまま軽く笑い、シルヴァの肩に手を載せる。
「最終問題はダンジョン生成理論。あんな学者レベルの問題をよくあの短時間で解けたね」
「……何となく感覚で分かるからな。長年ダンジョンに潜っていたし」
「ん?なんか言った?」
「いや」
「ふーん。……それで、提案があるんだけど」
「どうした?」
「ウチのクランに来ない?クラン長には私から話を通すからさ」
ギルド内がざわついた。受かったばっかりの鉄級冒険者を、いきなり四大クランの一角が勧誘したのだ。
「どう?」
シルヴァは少し顎に手を当てる。そして、なにか思い立ったかのように頭を上げた。
「すまない。今は先にやることがあるんだ。ここで決断することはできない」
この答えに、更に周囲がざわつく。
「おい、この機会逃すんかよ!」
「もうこんな機会ねーぞ!」
「そこはありがとうございますだろぉ!?」
やじが飛ぶが、シルヴァはそれを無視した。兎耳の少女は軽く笑っただけだった。
「ふぅん。じゃ結果がでたら教えてもらうよ」
「あの、ここにも逸材がいますが……」
「それじゃあまたね、シルヴァ君」
必死のアルの自己アピールを完全に無視し、その兎耳少女はクランの元へと小走りで走っていった。兎耳が揺れる。
「……おはよう」
その時、シルヴァに声をかける人がいた。
「約束は正午じゃないのか?シャルロッテ」
声の主は、先日シルヴァにお金を貸したシャルロッテだった。
「はい。これ約束の7マーズ」
シルヴァが七枚の硬貨を渡す。だが、シャルロッテは下を向いたまま動かない。
「……ん?どうした?シャルロッテ」
「……ごめんなさい」
突然謝ったシャルロッテ。シルヴァは、なんで謝られたのか全く分からなかった。
「その、あなたに貰ったブローチは……私が失くしちゃったの。……ごめんね」
頭を下げるシャルロッテ。だが、シルヴァの取った行動は、赦しでも怒りでもなかった。シルヴァは、シャルロッテの頭の上に手を置いた。
「……そうか。盗まれたのか」
「……なんで……」
「内緒。あと、それだけ悲愴な顔をすれば誰だって分かるから」
勿論詭弁だ。シルヴァの真実の慧眼は、シャルロッテの嘘。そして、心の中に隠している本当の事まで見抜いていた。
「よし……シャルロッテ。案内して欲しい」
「え?どこによ」
「あのブローチを盗んだ奴のところだよ。人のもん盗るとどうなるのかきっちり教えてやる」
嗤うシルヴァに、シャルロッテは少しゾッとした。だがそれよりも、自分の頭に残っている手の温かさに、シャルロッテは少し顔をほころばせた。
「分かったわ。着いてきて」
そして、シャルロッテとシルヴァはギルドを後にした。
◆◇◆
「へへ、このブローチ見ろよ!」
「おお〜」
とある路地裏で、ガラの悪い男達が話していた。その中の一人が、アイテムポーチの中からブローチを取り出す。
「凄いな!幾らだったんだ?」
「お、おう、まぁ186マーズしたんだが奮発しちまってな。この前の素材が高く売れたからな」
「しっかしすっげーな。てかこれ紅煌玉じゃね?」
「やっば!掘り出し物だな!」
「その店主もちゃんと鑑定したのか?おい、これどこで買ったんだよ?まだ掘り出し物あるかもしれねぇ」
「あ、いや、行商人だったからな。今はもういねえんじゃねぇ?」
「なんだよー!なら金は後で払うから俺らにもなんか買っとけよー!」
「はっはは、すまねぇな!」
「あ、いた!アイツです!」
「ん〜?」
そこに、シルヴァとシャルロッテが歩いてきた。
「そのブローチは私のです!返してください!」
「……はぁ?」
シルヴァは、その男達に見覚えがあった。ダンジョン内で、シャルロッテが獲物を横取りされたと息巻いてた人達だった。
「おいおい〜。いくらこのブローチが綺麗だからって自分のモノにすんじゃあねぇぞ?」
「それじゃこのブローチがお前のだっていう証拠でもあるんか?」
「そ、それは……」
「とにかく、このブローチは俺のだ。まぁ、俺もそこまで鬼じゃねぇ。欲しいんなら売ってもいいぜ?1000マーズでどうだ?」
「なっ……!」
「はははは!お前商売の才能ありすぎだろ〜!」
「ひ、人のもの盗んでおいて高値で売りつけるのですか!」
「だからよぉ。こいつは俺のだ。今なら特別に1000マーズで譲ってやるぜぇ?ちなみにこの大特価セールは今日だけだ。明日からは欲しいってんなら2000マーズで売ってやる」
「この卑怯者……」
「おーおー、俺は欲しいっていってるガキに売ってやろうとしてるだけだぞ?別に要らないってんならいいけどよ」
「私は……そのブローチを盗まれて……」
はぁ、とため息をついたシルヴァ。そのまま、男の元へと歩いていき、その腕を掴む。
「なっ、誰だよお前!」
「悪いけど、返してもらえるかな?そのブローチは俺のなんだけど」
「はぁー?お前も欲しいんか。それならより高値を付けたほうに売ってやっていいぜ?」
「はぁ……俺は欲しいっていってるんじゃないんだよ」
シルヴァが手に力をこめる。
「い、痛え!」
「さっさと返せって言ってんだよ」
「クソっ、離しやがれ!」
男は強引に振りほどこうとするが、シルヴァは力を緩めない。
「お、おい!お前ら手伝え!こいつボコるぞ!」
「お、おう!」
「よっしゃ!久しぶりに暴れるぜ!」
男二人がシルヴァに襲いかかる。だが、シルヴァは特に驚いた様子もなかった。
「くらいやがれ!」
男がダガーを振る。だが、シルヴァはそのダガーを掴み、腕を引いた。
「うわっ!」
無理矢理引っ張られた男は前のめりになる。そして、そのままシルヴァが顔を蹴り上げた。
「ぐはっ!」
「おら!」
もう一人がシルヴァに殴り掛かる。だが、それを難なく避け、その男の顔を掴む。
「ぐっ!……くそ」
「ふん!」
シルヴァは、顔からその男を地面に叩きつけた。歯が飛び散り、顎も折れたようだ。
「さて……人に刃向けたんだ。殺される覚悟ぐらいできてるよな?」
最後に、シルヴァに掴まれていた男の方を向く。握っていた部分が赤く腫れ上がっていた。
「ま……待て!あんちゃん強えじゃないか。これは返すからよ……」
そのまま、男がブローチを手に近づいてくる。しかし、
「ここまで近づけりゃ問題ねぇ!お望みのブローチをくれてやるよ!」
ブローチを握って、シルヴァに殴りかかった。だが、シルヴァはそれを冷静に見切り、みぞおちを殴った。
「ぐふっ……」
男が崩れ落ちる。それを見下ろすシルヴァは、その男の手からブローチを毟り取った。
「確かに返してもらった。殺される覚悟もないのに俺に刃向けたんだ。このくらいで終わることに感謝してろ」
「終わったよ。シャルロッテ」
「うん……ありがと。お礼にご飯奢らせてよ」
「それは楽しみだ」
そのまま、二人は繁華街へと向かった。丁度正午になる時だった。
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