第6話 おっとりした青年との会話
突然前方から降りかかった声に、体が強張った。縁側に腰掛けている、月明かりに照らされた黒い姿。徐々に目が慣れてくると、誰だかすぐにわかった。
「――櫛崎様……」
「ああ、きみ、今日来たりょう子って子だね」
「? ……は、はい」
昼間、挨拶しなかったっけ? それにしてはおかしな会話のような。
暗いし、寝間着に着替えて少し雰囲気が変わってはいるが、顔は間違いなく櫛崎晄と名乗った人なのだが……、那智と未知のように双子なのだろうか?
(だって、全然昼間と表情が違う……)
口元に微笑が浮かび、りょう子を見る目も柔らかい。でもここに住んでいるのは夕食を共にした人たちだけだったはずだ。
「可愛らしい顔をしているね。目が大きくてふわふわの長い髪。今流行の文化人形みたいだ。ハーフかい?」
「い、いえ……。わかりません」
「ふぅん? まぁ座りなよ」縁側に腰掛けた晄は隣をポンと叩いた。だが隣には座りにくいので、少し離れた所に腰掛けた。
「眠れないの?」
「はい。櫛崎様も?」
「僕は違うよ。起きているんだ」
「……そうですか」
のんびりとした口調は昼間の彼の印象と全くそぐわない。直接話はしなかったが、こんなおっとりした人だったっけ? さっきはこちらが気おじするほどぶっきら棒だったのに。
「でもさすがに眠くなってきた。もったいないけど寝るとするか」
欠伸を連発して、晄は立ち上がった。「じゃあね、りょう子ちゃん。これからよろしく。ああ、眠れないときは牛乳を飲むといいらしよ。おやすみ」
と言い残して、渡り廊下を挟んでりょう子たちとは反対側の離れに去って行った。りょう子はぽかんとそれを見送った。
(よくわからない人だ……)
なんだか腑に落ちないが、部屋に戻ることにする。牛乳はないが、とりあえず布団にもぐりこむと、不思議なことにストンと眠りに落ちた。
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