信じる気持ち

 次の日のお昼、高木に呼び出された俺と新一は新聞部の部室を訪れた。

 部室には既に高木と落合さんの二人がいた。

 もう一人の新聞部の部員は、どうやら来ていないみたいだ。


「高木。話って何だよ」


 開口一番、新一は大声で言い放った。

 それでも目の前にいる高木の表情は変わらなかった。

 厳しい表情のまま床を見つめている。

 そして少しだけ間をあけて、高木は話し出した。


「今朝、俺の下駄箱に手紙が入ってた」

「手紙って。まさか……」

「ああ。今日の深夜、放送があると書いてあった」


 高木が握り拳を作っている。

 当然だ。未来予報を仕組んだ犯人が動きだしたのだから。

 もしかしたら、高木が言っていた最悪な事態が起こるかもしれない。


「このままだと、明日の新聞に葵のことを載せることになる。でも、俺はそんなことしたくない。お前らを信じて最後まであがくつもりだ。生徒会の方で掴んでいることはないのか?」


 高木は新一の肩に手を置いた。視線を逸らさない高木に対して、新一は自ら視線を逸らすと俺の方に向けてきた。


「なあ、大輔。昨日、放送部の人と会ったんだろ? 何か掴んだんじゃないのか?」


 新一が助けを求める目で俺を見てきた。

 この一週間、新一達生徒会は本当に忙しかったと思う。

 直前に迫った修学旅行の宿泊場所や交通機関に対しての最終調整等。教師陣と話し合いをしたり、予算の見直しをしたり。未来予報に構っている暇がないくらい激務だったはずだ。だからこそ、生徒会メンバーではない俺が考える必要があった。新一の左腕である俺が。


「掴んだよ。犯人の目星はついた」

「おお。それで、誰なんだよ。もしかして幽霊なのか?」


 茶化してくる新一に対して、俺は小声で呟いた。


「ごめん……今は言えない」

「何で言えないんだ」


 俺の言葉を聞いた高木が反発してきた。


「犯人がわかったらなら止めるのが普通だろ? それに今日までに解決しないと、どうなるかわかってるだろ」


 明日の氷山通信で東條さんが亡くなる発表する。自分で言って伸ばしてもらったことだ。高木の言いたいことは理解している。


「お前、俺に言ったよな。未来予報を記事にするのはやめろって。あの時の言葉は嘘だったのか? 本気で止めようと思ってるのか?」

「違う……違うんだよ!」


 嘘じゃない。未来予報は記事にしてはいけない。その思いは今でも変わらない。誰かが傷つく記事なんて、生み出していいはずがない。


「何が違うんだ?」


 高木が俺の目を見つめてきた。真っ直ぐで熱い視線だ。高木の記事を茶番と言ったときに反発された。その時と全く同じ目をしている。だからこそ、俺もその気持ちに応えなくてはいけない。


「まだ、わからないことがあるんだよ」

「わからないって……」

「未来予報の情報源はどこなのか。それと、どうしてこんな手段を使ったのか」


 結局、全てを理解することができなかった。

 昨夜。家に帰った俺は、あれから使えるだけ脳みそを使って、今までの未来予報や放送室で見た機材について調べあげた。そして誰もいない放送室から、音を流す方法の予測がついた。それと、先輩からもらったプリントから犯人が誰か絞ることができた。

 でも、肝心なところがわからなかった。未来予報の情報をどうやって持ってきているのか、どうしてそれを放送で伝える必要があったのか。それがわからないと、東條さんの死を止めることができない。それに、未来予報は今後も起こり続けるかもしれない。


「俺の考えはあくまで推論。確実な答えじゃない。だから今の考えを皆に伝えて、変な誤解を持ってほしくないんだ。犯人とは今日の放課後に俺一人で話す。そして、全てはっきりさせる」


 皆に向かって俺は頭を下げた。


「だから、頼む。必ず答えを持ってくるから。今は俺を信じてほしい」

「大輔……」


 これは俺のわがままも入っている。犯人と二人っきりで話すという行為。普通に考えれば味方が沢山いた方がいいと思う。

 でも、二人きりで話さないと意味がない気がした。心の奥底で俺はいつも気になってたんだ。どうして犯人はいつも一人でいるのか。俺と似たような悩みを持っているんじゃないかと。


「……わかった。俺は大輔を信じる」

「新一……ありがとう」


 新一は笑顔だった。

 いつも俺の近くにいて、いろんな話を聞いてくれる。

 何より、俺のことを信頼してくれているとわかる。

 高校で出会えて本当に良かった。


「それで、俺達はどうするべきだ?」

「高木……」

「別に、秋山に同情したわけじゃない。だけど、葵を救うための最善な策だとお前が言うなら、少しは信じてもいいんじゃないかと思った」


 高木の言う通りだ。未来予報の謎を突き止めるのはあくまで手段に過ぎない。

 今一番に考えないといけないことは、東條さんを救うこと。

 そして、未来を変えること。


「高木達はここにいてほしい」

「わかった」

「それで、明日の新聞を作っといてほしい。もちろん、未来予報の枠は作らなくていいから」


 明日の新聞には未来予報について載せる記事はない。

 今日で真相を解明するのだから

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る