通学路の秘密③
学校帰り、俺は新一と河川敷に寄った。
氷山高校は最寄り駅まで徒歩二十分かかる場所にあるため、生徒のほとんどはバスで登下校している。そのため何か大切なことを話すなら、こうして歩いて下校するのが一番いい。特に今いる河川敷は視界も開けており、人もあまり立ち寄らないため聞かれたくない話をするにはもってこいの場所だ。
「あーこの場所はいいな。風が心地良い」
新一は傾斜に腰を下ろすと、大きく伸びた。そんな新一の隣に俺も腰を下ろす。
「葵ちゃん。上手くやってくれたみたいで良かった」
「そうだな」
東條さんと藤川は今日も二人で部活に行った。お昼のことがあったから心配だったけど、どうにか仲直りをしたみたいで一安心。
「葵ちゃんが頼ってきてくれたんだ。俺達だって何かしてあげないといけない」
「生徒会長なら当然だな」
「でもさ、これと言ってどうすべきか全く思い浮かばないんだよな」
頭をかきむしる新一は、鞄からノートを取り出した。
「それって、この間取りに行ったノート?」
「おう。実は、生徒会でも新聞部について色々と話し合ってて」
言いながら新一は俺にノートを手渡す。そこには細かく未来予報について記載があった。
毎週木曜日に発行される氷山通信のコラムとして月に一、二回の頻度で掲載される。今までの未来予報は二週間以内に必ず起こっている。未来予報で対象となる人物の名前が必ず記載されている。ここまでの内容は、全校生徒も熟知していることだった。
「生徒会で何か掴んでいることはないのか?」
「ん? 次のページ見た?」
「えっ? まだ見てない」
そう答えつつページをめくる。次のページには、たった一文しか書いていなかった。
「これって……」
「生徒会で極秘に入手した情報なんだ」
そう告げた新一はノートを俺から取ると、その一文を読み上げた。
「未来予報の対象人物は、新聞部から詳細を聞くことができる」
「詳細って?」
「わからない。だけど新聞部が情報の出どころなんだから、未来予報で載っていないことがあっても不思議じゃないだろ」
「そうだけど……もしかして藤川が犯人を知ってるって言ったのは、この情報を知ってたからじゃないのか?」
「いや、違う。この情報だって最近手に入れたんだぜ。それに藤川ってそこまで未来予報に興味が無かったはずだ」
そう言われると、確かにそうだと思った。藤川といるときに未来予報の話になることは、ほとんどなかった。
「まあ、今は藤川が落ち着くのを待つしかないだろ」
腰を上げた新一は、お尻についた草をはらう。俺も同様に腰を上げた。
「そういえば新一って、藤川のことどう思ってるの?」
「い、いきなりなんだよ」
「いや、やけに藤川について詳しいなって思ったから」
元々は新一が藤川の気持ちをわかってあげられないのが、二人がよく喧嘩する理由だとずっと思っていた。だけど新一の話を聞いていると、藤川のことを理解しているような気がする。
「藤川とは特に何もない。まあ、一年の頃からの付き合いだからな。言い合いになった後の対処法とか、色々と何となくわかるんだよ」
「ふーん」
できるだけ素っ気なさを装いながら、俺は呟いた。
新一は俺の反応を楽しむように笑みをみせると、一歩先を進んでいく。その後ろを追いかけるように、俺も一歩踏み出した。
心地よい風が絶え間なく吹き続ける河川敷は、頭の中をクリアにしてくれる気がした。
「そういえば、俺も大輔に聞きたいことあったんだ」
新一の声が風に乗って聞こえてきた。新一の隣まで駆け寄り、聞き返した。
「聞きたいことって?」
「まだ、通学路の秘密について考えてるのか?」
「……ああ」
新一の言葉に虚を突かれた。まさか、久しぶりにその話題に触れるとは思ってみなかったから。
氷山高校に入学して以来、通学路の秘密について新一にだけ話した。話した当初は、新一も面白がって色々と相談に乗ってくれた。だけど新一が生徒会長に就任して以来、通学路の秘密について話す機会は一回もなかった。
「俺、思ったんだけどさ。誰にも知られることがない秘密って言葉の通り、誰にも知ることができないってことなんだよ」
「よくわからないんだけど」
「だから、あまり深く考えるのは意味がないっていうかさ。大輔のじいさんが言いたかったのは、もっと別のことなんじゃないのかな」
「別のことって何だよ?」
「そりゃ……秘密じゃなくて、もっとこう、肌で感じろ! みたいな」
「はいはい」
新一の言いたいことが理解できなかった。結局は特に何も考えていない、いつもの新一。俺はため息を吐いた。
「とりあえず、ありがとな。秘密のヒントとして考えさせてもらうよ」
その回答を聞いた新一は笑みを見せてくれた。
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