第18話-番外編-真夏の昼の淫夢
真夏の昼の淫夢……
「コノイス痴漢デースッッ‼︎!!」
午後一時頃。更に気温が上がり始める真夏の凶器的な暑さの中。高く裏返った叫び声が響く。
イスに拘束された彼は笑いながらバタバタと暴れていた。
部屋のとんでもない暑さとうるさい蝉の鳴き声に殺られそうな部員達は、暑さと“遊び”に負けた遊部のリーダー、仁を心苦しそうに見つめた。
事の発端は、15分ほど前だった。電気代を節約しろと学園側にクーラーを禁止された遊部。そんな部屋の気温は35度など簡単に超えていた。暑いうえに暇だったそんな時、菅野がトイレに籠った際のこと。暑さでヤケクソ気味になった仁が、菅野の研究材料である「タケリタケH」と記されたキノコを持ち出してきたのだ。持ち出されたキノコの形を言葉にするのなら、雄々しく猛り 天にそびえるピサの斜塔……。
「やだ、すごいバナナ……」「なんて強そうなキノコ…www」「タケリタケ“H”ってなんだよw」「ハイパーじゃね?」「何がハイパーなんだよwww」「ナニだよw」「ナニかw」「やめてwww」etc.
これだけでかなり盛り上がれるのは変人のすごいところ。
そして持ち出してきた張本人は「菅野は汚トイレタイムだがァ!!俺は汚食事タイムだァァ!!」と、何を思ったのか叫びながら男のアレの形をしたキノコを頬張ったのだ。一般のタケリタケは生育途中の傘が開ききってないキノコに病原菌が寄生し、傘が開ききらぬまま成長し男のアレが雄々しく猛っているように見えるキノコのこと……。
もちろん仁はホモじゃない、はず。部員達も笑って見ていた。仁が必死の形相で頬張るアレの形をしたキノコ。それは笑って楽しむには十分だった。
「うぐっ……」
キノコを咥えたまま膝をつく仁。他の部員達は突然の自体に何事かと身構えた。
「ふ、うふふ……」
「?」
仁は小さく笑う。
そして顔を上げて
「 や ら な い か 」
被害者1人目。
スローモーションに感じたその瞬間、その場にいた全員が叫んだ。小さな「ぅ」の音から始まり、大きめの「わ」の音。それに続いてカタカナの「ア」に濁点がついたものを伸ばしただけのシンプルなもの。しかし、それはまさしく、悲鳴と呼べるものだった。
菅野が戻ってきたところで、暴れる仁を全員で無理やりイスに拘束したのが、今に至る大体の経緯である。
「仁、もう少しで治療薬作ってやるからな……」
菅野は研究材料を食べてしまった仁に哀れみの目と慈悲の言葉を向け、試験管の中の薬品を混ぜながら言葉を紡いだ。
タケリタケHってのは、普通のタケリタケじゃないんだ…… 昔、戦争中に全員セッ◯スで争えば世界はもっと平和になるんじゃないかと考えた馬鹿がいてな。その馬鹿が催淫効果をもたらすウイルスを作ったんだ。効果は、戦場で使うためのものだからな…主に男性、それから見たものやその時考えてたモノに対しての発情を催させるものなんだが…まぁ…想像はできるだろう。数多の男達が戦場で戦闘そっちのけでセッ……あんなことやこんなこと、血みどろというよりアレにまみれた別の意味での戦いが繰り広げられる…
想像を絶する地獄絵図に、すぐさま研究は打ち切られた。
研究の果てに生まれたおぞましい生物兵器は、研究の打ち切りと共に消えるはずだった。
消されるはずだった存在なんだが、実はガサツな管理の為に外部の研究者の元へ流出。…遊び半分でキノコと掛け合わされてしまったんだ。催淫効果と微細な幻覚作用、そしてテンションを高める錯乱作用を持つ変態キノコ。それがタケリタケ“H”だ。
「ハイパーじゃないのか……」
菅野の説明を聞いて秋夜が残念そうに呟く。それどころじゃねぇよ?!と黒成の完璧なツッコミに、この世は平和だなーと呑気に呟く緋音。
六花はイスに拘束された仁を監視していた。
しかしここでノーマークの悪魔の妹。動けない仁の股間にタケリタケHを立てて遊び始めたのだ。
「ななな、何やってんのマイシスっ?!」
これには姉の緋音もビビる。
見開いた目と、これでもかと口を三日月型に広げて笑う涙音。不気味なくらいグニャリと歪んだ三日月型の口は、笑いを堪えきれずに震えた声を押し出していた。
「こ、これさぁ……ふ、ふふ…これ使えば!!これ使えばさぁ!!
上 質 な モ ー ホ ー が 見 れ る ッ (確 信)…!!」
被害者2人目。
「My sistーーッッ?!?!」
涙音の目は見開いたままだが、どこか違う世界を見ているようだった。緋音が驚きすぎて綺麗な英語発音をするも、驚きのあまり途中で途切れてしまう。逆に英語っぽい。
「うふふ、ぁアはははははははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
「と、とにかく妹ちゃんを拘束だ!!」
咄嗟の判断。菅野の叫び声で全員が涙音を抑え込み、仁と同じようにイスに拘束した。
「アぁハハハははははははァァァ!!
ホモォッ! ホ モ゛ォ゛ッッ!!
ホモォォオ゛ォ゛ォオ゛オ゛ォォ゛ォ゛ォッ!!!!」
半狂乱で鎖をガッシャンガッシャン鳴らしながら引き千切ろうと暴れる涙音。その目はもはや現実など見ておらず、目の前で繰り広げられる腐りきったアウトな世界を見ていた。
「とんでもねぇなこのキノコ…」
黒成は怯えていた。その隣では、涙音の笑いにつられた緋音が先程から「あひぃ、マイシスターその笑い方やめてぇ感染するゥ」などと笑い転げている始末。
とりあえず、拘束した2人を正気に戻すため菅野は薬を作り続けていた。
が、その作業はまたもや中断されることとなった。
「なぁ、菅野……」
六花は震えながら窓際を指差す。
その先にはタケリタケH。
「菅野、あれってさ……」
菅野は恐る恐る振り返る。
タケリタケHの先端から白いガスのようなものが噴射されている。まるで《自主規制》。
「胞子……」
「六花それを吸い込むな!!!!」
菅野は叫んでいた。
だが叫んだ頃には遅すぎた。
六花は振り返って笑う。
「†悔い改めて†」
被害者3人目。
今宵、何度目かの絶叫が遊部に響く。何故だろう。今すごく平和な日々を満喫できてる気がする。
目をギラつかせて獣のような姿勢をとる六花。
「野獣先輩……」
「ぶふっwwwwww」
上の空の涙音が漏らしたタイミングの良い言葉に全員が吹き出す。この部活はいつも緊張感というものが足りない。
「月夜に疼き出すー♂ ツ〜ノとか生〜えてく〜るー♂♪ ニョ〜キ〜♂ニョ〜キ〜♂ニョー♂」(物凄い勢いでけーねが物凄いうた 参照)
真面目な顔で歌い出し、秋夜に飛び掛かる六花。
「ツノ生えるとかニョキニョキとか良い声で歌いながら襲ってくんなw」
秋夜は真理の跳躍を華麗に回避して六花に右手を向けた。彼の手に内蔵された非常用の麻酔銃。それを真理の眉間に向け、放つ。
「くらえっ!!」
「アッーーーー!!!!」
悲鳴をあげながらケツを抑えて倒れこむ六花。
そして、思わず右手を見返す秋夜。
あれ?僕、眉間狙ったよね?と。
「お前、いつの間にケツ狙ってた」
「違います!?」
しかし、犯人はすぐ目の前にいた。
いや、現れた。
「デレッ→テッテー↑♪ デレッ→テー↓♪
…俺、参上!」
被害者4人目。
「 た か ァ? ! 」
仮面ライ◯ー電王の音楽と名台詞を言いながら綺麗なカンチョーのポーズで現れた鷹は、いつもの冷たい無表情。
「最初に言っておく!!この身体のゾウさんは!息子だ!!」
無表情で何言ってんだ。遊部の冷徹無言紳士からの爆弾発言。全員が噴き出しながら、そう思った。
「やばいもう何これ手がつけられない!!」
「菅野!仕方ねぇ火呂呼ぼう!限界超えてるアイツだば 何とかできるがもしれねぇ!!」
そう叫んだ黒成は文明の利器、ナノマシンを通じて遊部の最強さん、雄樹に呼びかけた。
続く
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