第12話- 破壊神の記憶 -
舞台は変わってここは華乃の部屋。
「マズイな、緋音は大丈夫そうだが鷹は脊髄をやられてる……」
壁に取り付けられている巨大モニターにはカプセルの中に入った鷹の体を、中身をこれでもかとしっかり映し出されている。
「どのくらいのヤバさだ?」
仁はモニターを見ながら静かに問う。
「そうだな、よくて杖、悪くて車椅子生活……くらいか」
まぁ華乃の医学薬学は世界一ィィィィィ!とか言って治せるけどね、と付け足す華乃。
「それに秋夜の事もあるし……」
忘れているかもしれないが、秋夜は黒成の謎の能力によって体のほとんどが断裂されている。まぁ乃の医学薬学は世界一ィィィィィ!とか言って治せるけどね。
「華乃、科学者的に黒成のチカラはどう思う」
「科学者として言わせてもらえば、あんな力見たことない、としか言えないな。確かにエネルギー系の能力はたくさんあるし、エネルギー系の能力者もたくさんいるけど……あれほどのエネルギーは見た事がない」
華乃は珍しく真面目な顔で答えた。
「にしても、秋夜?はなんで黒成を連れて行ったんだろうな……」
真剣な顔で考える仁に、六花は「タイプだったんだよ。」とイィ声で茶化す。
「まぁ、今のところ考えられるのは……」
「能力者の兵器化……か」
仁の言葉に頷く華乃は、カプセルに入った緋音を見つめる。緋音もその昔、記憶障害か当人の記憶は無いが能力者の兵器化を目的とした過酷な人体実験を受けていたらしい。昔を思い出そうとすると酷い頭痛に襲われて能力が変に暴走して止められなくなったこともある。相当な事が彼女の身にあったんだと彼女の左肩に刻まれたバイオマークがそれを物語っていた。まぁ、ー彼女の物語は後々語るとして……ー
「また能力者テロかよ……」
いい加減テロリストにも飽きてきたよ……と六花はやれやれと首を振った。
「しっかし、アイツらどこの誰で、どこに住んでて、どこが本拠地かが分からないんじゃ話は進まないな」
「それなら大丈夫だ、奴らの居場所はもう分かってるのさ」
華乃は誇らしげに言うと、赤い印のついた地図をモニターに映し出した。
「ふむふむ、なるほど?ビールとソーセージの美味しい場所が本拠地か」
仁はそう言って腕を組んだ。
「その通り。奴らはビールとソーセージの美味しい国にいる」
「ナニソレ スゴイ オ酒 進ミソウ」
六花の言葉を無視して華乃は、モニターの映像を更に詳細化させる。
「つい先ほど奴らの航空機が着陸した場所は、ドイツの某研究所だ」
どうする?と華乃は遊部のリーダー仁に問いかけた。
「行って黒成を奪還したいけど、今回は人数が人数……。前線で戦える緋音も鷹も負傷して動けないしな」
鷹は瀕死の重傷だし即効性の麻痺毒で麻痺ってるのか傷が上手く塞がらないし、緋音は鷹に比べれば軽傷だが体を動かさせるのは危険だ。
いつ休むの? 今でしょ!!
「今戦えるのは俺と六花だけ、か」
「華乃とモノホン?の秋夜は論外だしな」
六花の発言に、失礼だなーと華乃は呟く。
「しかし奴らの戦力も未知数……2人だけで行って勝てるものかな……」
それに秋夜?の能力も未だ未知数だし……と付け足す六花。
「残念だが、やはりここは少し様子を伺ってからの方が…「戦力が足りないのなら、私を連れて行ってください!!」
華乃の言葉を遮って会話の中に入り込んできたのは、意外にも緋音の妹、涙音だった。
「おやまぁ?」
華乃はそう言って涙音を見る。
涙音はカプセルの中に漂う、物言わぬ緋音を近くで座って静かに黙って見ていただけだった。
「私も戦います!緋音の仇を取りたいんです!!」
俺まだ死んでないぜブクブク……と緋音の方から聞こえてきそうな涙音のセリフ。
「どうする?」
「どうするって?」
決まっているだろう、と仁は六花に言った。
「今は猫の手でも借りたいくらいのヤバイ状況だ。是非とも一緒に戦ってもらおう」
「決まりだな、毎度お馴染みAI操縦のジェット機を出しておこう」
そう言って華乃はスマホよりも少し大きいタブレット端末を取り出して操作を始め、緊急会議は終了した。
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わぁは生まれた場所が分からない。
わぁは生まれてすぐに捨てられて、ずっと施設で暮らしてきた。
わぁが小学校に入学するまで育ててくれた人が普段から津軽弁だったはんで、わぁの口調はいつのまにか津軽弁さなってだ。
わぁがまだ小学生になる前、わぁはエネルギーを作り出す能力が使えた。だから中学校は能力者の集まる学校に決まってだ。
でも静電気くらいのエネルギーしか作れないし、口調も変だって皆には毎日笑われで馬鹿にされでだ。実は緋音がわぁと同じ小学校で、緋音はわぁの津軽弁を理解してくれでだ。
元々わぁはキレやすかったから、馬鹿にされる度にケンカしてった。
わぁの身長は皆より頭一つ分くらい大きかったから、肉体的な部分では簡単に勝てた。
静電気って案外痛いべ?
ちょっと手強い相手には静電気ちょこっと流して怯んだ隙に殴り込む。そんで殴りまくる。
これで大体勝てた。
先生さは毎回怒られでったけど。
お陰で中学校は問題児ばっかり集められてるナンバー持ちの学校さ入学した。
あそごは小学時代より酷がった。
わぁみたいな問題児が可愛く思えるほどのクズが沢山いるって言えば分かりやすいべが。
その中学じゃイジメなんてしょっちゅうあったし、カツアゲなんて日常茶飯事だった。
華乃や秋夜も、昔は相当いじめられて、公開リンチなんかもされでった。
緋音は小学の記憶も無くなってたみたいで、わぁのことを少ししか覚えてなかった。津軽弁は全然覚えでらったんだけども。
そんな緋音も寮ではペット禁止なのに捨て猫を拾ってきてで、それを見だ不良が猫を人質?にとって緋音を言いなりにさせでだ。
でもみんな、見てるだけで誰も助けようとしなかった。
わぁも見で、終わってた。
助ければ今度は自分だ。そう思うと誰も手出しなんて出来ながった。
だけど、二年生のある日、状況が変わった。
仁と結衣って奴が編入してきたんだ。
華乃と秋夜がいじめられてたのを見た結衣って女の子は正義感が強くて、すぐに止めに入った。そんで結衣に手を出そうとした不良は仁に半殺しにされでだ。
そのあど、緋音は仁と共闘して猫たちを奪還。
不良どもを再起不能さしてだって。
そんで、ついに不良のボスといじめられっ子軍団の闘いが始まった。
緋音ど友達だったわぁはその闘いさ参加した。
闘いはなんとか終わって、今のグループが出来て、こうして今に至ってる。
わぁは……
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「……はっ??!」
気がつくと皆が心配そうな顔で、わぁの顔を覗き込んでいた。
「大丈夫か?」
緋音が労いながらコップいっぱいに入った水を差し出す。
黒成はそれをグィっと一気に飲み干すと汗だくで火照った頭を冷やした。
「……まさか、俺と同じ夢? いや、まさかな……」
はは……と仁は苦笑いして自分に言って聞かせた。
黒成は今見ていた夢?の内容を心配そうな皆にかいつまんで話して聞かせた。
「あぁクソ、せっかく料理が台無しだわ……あと汗やべぇわ」
黒成が愚痴をこぼすと、皆から、え?と疑問の声が返ってきた。
「お前、泣いてるん、だ、ぜ??」
緋音は、マジかよと付け加えた。
「は?泣いてる?」
黒成は目をぐしぐしと擦る、確かに、水源はここからのようだった。でもなんで……
「まぁ、ちゃんと目ぇ覚めたみたいだし仁の夢とおんなじだと思えば大差ないな!!」
はっはっは!!と笑って火呂はドリンクバーのココアを一気飲みして大火傷していた。
いつもと変わらない日常だ。超能力なんてものは無くてただただ平凡なありがたい日々。小説の内容を夢に見てしまうほど、しかも白昼夢として見てしまうほど影響されている自分が、黒成は恥ずかしかった。
(でも、こんなシーンあったっけ?)
そう、緋音と火呂が合作したあの小説にはこんな話無かったはずである。
「とりあえず……」
ひとまず黒成の体調を気にしてか、その日はそのまま帰る事になった。
帰り道は用事がある奴ない奴とでバラけて帰る事になった。まぁ女子寮と男子寮の違いはあれど。
「黒成……」
話しかけてきたのは仁だった。
「お前もついに俺の仲間になったか」
仁は寝るたびに悪夢に魘される。火呂と緋音が合作したあの小説の、自分が殺される瞬間をずっと見ているらしい。
「いやまだ決まってねぇよ!?」
「いぃや決まってるね!!お前はもう夢仲間だ!!」
仁は嬉しさでか言葉が迷子だ。
もうダメだこれ。
(ついに、か。)
騒ぐ2人をよそに、1人思考を巡らせる人物がいた。
(黒成も夢を見た。決戦の時は近い)
(だが途中で目覚めてしまった。)
(黒成はこの後の出来事は記憶に無いはずだ、ならあそこで目覚めたのは当然、か)
(ひとまずこの続きは俺様が記そう)
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