第5話-終末
「今のは……」
嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!
みんな死んだっていうのか?!
ナノマシンに呼びかける声に返答はない。黒成も、死んだ?
ここから研究所まではかなりの距離がある。それなのに、この威力と爆風。巻き込んだ宇宙人共も多いだろう。黒成の功績は大きい、が死んでしまっては元も子もないのだ。
「クソが……!!」
秋夜は怒りに任せて、自分に内蔵された加速ブースターを使い赤いナイフで敵を斬りつけていく。
超高熱で赤く光る斬撃が、敵が防御するたびに火花を散らす。
「秋夜!落ち着け!!」
仁の声も届かない。
殺せ、殺せ、殺す殺す殺す!!
ぐにゃり。
突然目の前の空間が歪んだ。
そこから振りかざした右腕が消え去るまで、ほんの一瞬だった。
「ぐあぁぁぁっ!!」
歪んだ空間から出てきた緑色の腕に、腕を掴まれた瞬間。右腕は消えていた。
「おまたせ〜」
「グレィナ、何をしていた!遅いぞ!」
初老の宇宙人の目の前に読んで文字の如く"現れた"のはもう1人の宇宙人。
「いやぁ、地球の女がどんな味かと思って味見しててさぁ」
彼が抱えているのは見たことのある女子用の制服だった。頭も片腕も無く、右手がひしゃげた腹を裂かれた"人"。
「お前も味見したのか!どうだ!美味かっただろう?」
「あぁ、最高だったよ!!姉妹?の熱い愛情とかも見られて、さ!!」
ははは!と笑う2人に仁の二本の刃が斬撃を繰り出す。姉妹、その言葉に確信が持てた。
「……よくも」
仁の怒りは最高潮に達していた。
「あぁそうだ、そこの機械は殺すなよ。我々のスクラップになってもらうのだからな」
そんな怒りさえ気にも留めず談笑する二体。仁は怒りのままに刀を振るうが、初老のグパーラと名乗っていた宇宙人に斬撃を阻まれてしまう。
キンっと高い音がして刀が一本弾き飛ばされる。弾かれた刀は少し遠くの草むらに突き刺さった。
「離せ!!」
もう片方の腕を掴まれて持ち上げられる秋夜は、自らの足に内蔵された赤く光るまでに熱されたナイフでグレィナと呼ばれた宇宙人に斬りかかる。
「おっと!」
「があぁぁぁぁ!!」
もう片方の腕も一瞬で消えて、秋夜は地面に落ちた。
器用に脚だけで受け身など取れるはずもなく秋夜はそのまま両の脚を潰される。
「頭だけ残ればスクラップにはちょうどいいだろ?グパーラ」
「させるか……」
鷹の声が響く。グレィナの首に何かが突き刺さり引き裂く。
「ッがアァァァ!?こ、の、人間風情がァ!?」
よくも!よくも!!と叫んだ宇宙人の緑の腕は、姿を見せない鷹を探すようにブンブンと振り回される。
そして、ゆっくりとゆっくりと秋夜の身体がズル…ズル……と引っ張られるのを秋夜は感じていた。
『仁、鷹、聞こえる?僕はもう無理みたいだから、鷹、僕を助けなくていいよ。僕はこれから今までのデータを全て削除する。戦いの記録も、皆の記憶も。大丈夫、魂には全部残るって聞いたことがあるから』
『何を言って……』
鷹の声が揺らめく。
『華乃から解除命令が出てたんだ。黒成のさっきの爆発も、リミッターが解除されてたせいだと思う。僕の記憶消去スリープモードも解除されてる』
「そこかァァ!!」
話に聞き入ってしまった。
鷹の身体が吹き飛ぶ。が、消えはしなかった。呼吸が乱れ、透明になりきれなかったらしい。
「俺らしくないな…」
口から流れる血を拭って、仁の方に目をやる。
刀を再召喚させる隙も与えられずに、一方的に攻撃されていた。
鷹は呼吸を整えて、迫り来る拳を避けた。勿論、透明になって。腹を切り裂き、あたかも攻撃対象がグレィナであると思わせて。
鷹は自分で掴むモノも透明化させられる。そして弾かれた仁の刀の元へと走る。
間に合うだろうか。
手を伸ばして刀を握り、仁の元へ投げる。
『仁!!』
名を呼ばれて振り返った瞬間、其処に見えたのは鷹が腹を貫かれている瞬間だった。
「え」
そして目の前を刀が飛びグパーラを直撃する。
『構うな!やれ!!』
「クソ!」
再び振り返って刀を構える頃には殴られ、体は飛んでいた。
「ぐっ…」
吹き飛ばされて倒れた先、目の前にあったのは、女性の死体だった。
見たことがある、甘栗色の綺麗な茶髪。見たことがある、銀色に輝く仁が持つのと同じ指輪。
目は見開き、口は恐怖と痛みに歪んだかのように歯を食いしばったような形のまま。相当怖かった、相当痛かったのだろう。爪が剥がれるまで指で地面を抉っていた。
腹からは、へその緒を伝って半分だけ抉れた赤ん坊のような肉塊。
頭が回らない。仁は呆然とその死体を見ていた。
背後に近づく影が笑う。
「それに興味があるのか?」
「……」
「ニンゲンの腹の中のコドモって奴も喰ってみたんだが、骨が脆くて実に食べ難い。美味かったがな」
初老の宇宙人は笑いながら続ける。
「そうそう、コイツは氷を出現させてくる能力者で……ん?なんだ?お揃いのアクセサリーかッ……」
もう喋るな。
ハラリと解けた仁の眼帯。今まで隠れていた仁の眼は紅く紅く染まっていた。
「これは、興味深い……!!」
いつのまにか左目を斬られたグパーラは笑う。
「グレィナ!機械を回収しておけ!」
一振り、それだけで幾重にも重なる斬撃が繰り出せた。指示を出している最中のソレさえも幾分か切り刻めた。
ぜんぶ殺してしまえ。
簡単な言葉が仁の頭の中を埋めていった。街、人だったもの、瓦礫、宇宙人、眼に映るもの全てにその斬撃が及ぶ。
「仁……よせ…」
ほぼ虫の息だった鷹は眼に映るもの全てを切り刻む仁に呼びかける。聞こえるはずもないが。
「僕たちは君達の思い通りにはならないよ」
「はっ、機械風情がなにを…」
回収を頼まれたグレィナは上半身だけの機械を持ち上げて笑う。もう何も出来ないのに、と。
「再起動すらできない、ただの機械と肉の塊になるからさ」
秋夜の得意げな表情とは逆にグレィナの緑の顔は青ざめる。
「おい、やめろ!おいっ」
秋夜は脳だけは人間のまま。それを機械で覆っただけのサイボーグ。脳はいずれ腐り朽ちて、記憶も記録も残らないただの鉄屑と化す。
「 サ ヨ ウ ナ ラ 」
バチバチバチッと光と音を立ててショートした機械の瞳に生気はなく、脳も焦げたのか炭のような臭いのする煙が鼻をついた。
「ッッックソッ!!!」
秋夜が逝った。光と音で判断した鷹は、眼に映るもの全てを切りつける仁を見て決心した。
1番使いたくない方法で、今一番使いたくないもの。それを取り出した。
ヒトの心を失いつつある遊部のリーダーに向けてソレを構える。
おもちゃのような形の小さな銃。呼吸を整えて引き金を引いた。
パシュッと小さな音を立てて発射されたそれは仁の首すじに命中する。
これで俺たちは全滅確定だろう。だが、それ以上に守りたいものがあった。もはや誰もいなくなったこの世界で、自分も動けないこの状態で。仲間が狂い独り戦う姿など見ていたくなかった。
「……なん、で、」
仁の膝が崩れる。仁に使ったのは国家が秘密裏に開発していた能力を使う全身の細胞を弱らせ、本体ごと眠らせる薬品。だが開発途中らしく眠らせる効果は時間がかかるらしい。
せめて、楽に。
ささやかな願いを口にする事も叶わず、鷹の体から力が、抜けた。
「なんだどうした、同士討ちか?」
刀も消え、膝をつく仁を見て2人の宇宙人は笑う。
仁の首を持ち、体を持ち上げる。
「不完全な覚醒、か……」
「コイツもか〜、くっくっく」
紅く光る仁の左目に手をかけるグパーラ。それを必死に睨みつける仁。
ぐちゃり。
ぐちゃり。
「ッ、あっ、がぁぁッッッ!!」
仄かに光る紅く染まった目玉がほじくられ、取り出される。体は動かなくとも痛みには嫌でも反応する。
「グレィナ、これもスクラップだ。中途半端な覚醒者の、な」
「それとコイツは見せしめだ!」
それは良いと笑う声が遠くに聞こえる。自分の体が地面に落ちたのと同時に、仁は薬品による眠りについた。
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目が覚めるとそこには大勢の人がいて、宇宙人たちが何やら演説していた。
首が動かない。手も、足も。磔にされた自分はもうどこも動かせなかった。
「いつか!いつか必ず復讐してやる!!来世で!!予言して予防して!!ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
叫んでいる最中のハゲたおじさんが、下半身を引き千切られ痛みに叫ぶ。その絶叫に頭がズキズキと痛んだ。
「俺ら、見せしめみたいだぜ?」
隣からいつか聞いたような声が聞こえた。いつだっただろう、昔、能力者になるときに対峙し敵対した者の声のような気がした。
「……」
何も喋る気力がなかった。
「無視かよ、まぁいいさ。俺の双子の兄貴は殺されてさ。刀を使う初心者能力者に。復讐してやろうと思ってたらコレだ。不幸にも程がある。」
刀を使う?頭が痛む。隣の顔が見たいのに首が動かない。
「……」
「あのオッサンが言ってたみたいに、来世があるのなら、両方に復讐してやりたいね」
来世があるのなら。その言葉に仁は目を伏せた。
「来世で、アンタとあの宇宙人共に」
「……!」
やっと少しだけ見えたその顔は。そうだ、同じ声だ。そして同じ顔だ。家族を殺し、同居人や家政婦たちを殺した自分が能力者になるキッカケとなった人物と同じ顔と声!!
「…俺も……復讐したいと思ってた」
生気のこもらない声で言う。何もかもを失った今、復讐したところで何にもならないのだから。
「じゃあ来世に持ち越しだな」
元気な声でそう笑った彼は真っ二つに引き裂かれて何も言わなくなった。
次は自分の番。
目線の先、集められた人々の中に自分の仲間の姿はない。
引き千切られる四肢。メキメキ、骨が悲鳴をあげる。ミチミチ、肉が悲鳴をあげる。ブチブチ、ブチブチ、筋肉の筋や関節が引き離されていく音が聞こえる。
「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
仁は叫んだ。
痛みに叫んだのではない。ただ、やり場のない怒りと悲しみ、ただ叫びたかった。
あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
いっそ狂ってしまえれば楽だった。四肢を引き千切られただけで全くどうしてすぐには死ねない。目の前に仲間の姿はない。あぁ、寂しいものだ。
しばらくして完全に降参し、家畜となる人間たちの姿が見える。
「我々はむやみに奪いはしない、この星は死の星に変えるつもりだったが、貴様ら人間が家畜となる事でこの星を救う手を差し伸べたのだ!!」
散々奪ってきて何を言ってるんだ。
仁はそのまま目を閉じて、深い深い眠りについた。
『行こう、仁』
聞こえるはずのない仲間たちの声に誘われて。
秋夜 永久スリープモードで死亡
鷹 腹部損傷、出血多量で死亡
仁 眼球、四肢損傷、出血多量で死亡
遊部 全滅。
その後、家畜の星となった地球では盛大なパレードが行われていた。
宇宙人たちの上級層の食事会ではスクラップになったサイボーグの頭と覚醒途中の能力者の目玉が飾られていた。
To Be Continued.
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