第4話˹日常˼

無数のテントが並ぶ草原。一見キャンプでもしているのかと思うようなこの一角は、「新党」の基地であった。

他のテントよりふた回り大きいテントに淮翔は向かう。

「あ、おかえりなさいギルマスっ

会議、お疲れ様です」

テントの近くにいた女は、淮翔をギルマスと呼ぶ。

「ただいま那鶴芭ナズハ

淮翔はそう言うと、テントの中に入っていく。

テントの中はとても賑やかだった。淮翔と那好芭を含め十人がテントの中にいる。

「ギルマス、何かありましたか?」

眼鏡の青年が淮翔の顔を覗き込む。

「会議の事なんだけど、ちょっといいか?

いや、みんなに聞いてほしい」

「分かりました、集めてきますね」

ここはギルドホール。「新党」は「ギルド」という仲間を作り、「ギルド」ごとに分かれて個別に活動している。頭首である淮翔の命令には絶対従うのがルールなのだが、それ以外は基本自由だ。

淮翔が所属する「ギルド」は「フェザー・フリーゲン」。通称「FF」と呼ばれる「ギルド」だ。総勢十名で構成されている。

淮翔は「FF」のギルドマスターである。つまりギルドの一番偉い人だ。

「ギルマス、全員集められました」

眼鏡の青年、蓮霍レンカクはそう言うと淮翔を見る。

明らかにいつもと何かが違う。いつも淮翔と会議に参加している蓮霍は、そう思った。

「いいかお前ら!!!!!今日から俺達は「脅物」に潰される事になる!!潰されるな!迎え撃て!!!!!!!」


「ああああああとんでもない事になった……」

そう嘆くのは「保守派」の頭首、日向だ。

「しっかりしろ日向」

「ゆ、ユウ…」

すっかり弱り涙目になっている。そんな日向を見て茶髪の少女が笑う。

「日向はほんと怖いくらい頼りない頭首だね!そんなんじゃいつまで経っても強くなれないよ!」

「おい瑚比那コヒナ…」

「あっ………」

保守派の主力は日向、悠、瑚比那の三人だ。

「心配するな日向、お前ならどうにか出来る。

あの日俺達を救ってくれたみたいに」

「救う…?僕が??」

「おう、まあ知らなくてもいい、そのうち思い出すさ」

「うん!!「戦闘派」、私達で守ろうね!」


「ちっ…」

「綺琉!!!!!!!帰ったなら帰ったって連絡してってあれほど…」

「それどころじゃない」

綺琉はマフラーを外す。それを受け取るのは「混合種」の仲間である瀬奈セナだ。

瀬奈はマフラーを綺麗に畳むと、近くの机に置く。綺琉が一年ほどかけて作ったらしいコンクリート製のしっかりとした建物が「混合種」の基地だ。

「なにかあったの…?」

心配そうに聞く瀬奈を横目に、綺琉は足にベルトで巻いて固定していた短刀を取り出す。マントを羽織っている為、外からは見えない位置に隠してあるのだ。

短刀をマフラーの隣に置くと、ゆっくりと口を開く。

「「脅物」と戦うことになった。一応、皆に伝えてくれ」


「鴫、傷、痛む、か?」

焦点の合わない目、たとたどしい口調。

鴫からの返事はない。

「もう少しで目覚めると思うよ、恐らく後遺症もない。

安心して懸巣」

「戦闘派」の医療班の一人がそう優しく話す。

「脅物」の頭首である帽子の男に刺された傷は背中を貫く様な深いものだったが、器用に臓器を避けて刺されており命に別状はなかったのだ。

「俺は、弱、い…」

「しっかりしなさい懸巣、鴫が起きてそんな懸巣を見たら、鴫、きっと悲しむわ」

「お、俺…は、」

と、その時、医療室の扉を叩く音が聞こえた。部屋に入ってきたのは琥瑠璃だった。

「おかえりなさい、頭首」

「こ、琥瑠璃さ、」

琥瑠璃は鴫の様子を確認した後、懸巣の目線と並ぶ様に、懸巣の隣にしゃがむ。

「懸巣君、これから先、「脅物」と戦う事になってしまったんです。詳しい話は後でみんなを集めてからにしますが。

鴫君を守る為にも、元気を出してください。僕達には懸巣君の力が必要なんです」

「俺、の、力…」


それぞれが各々「脅物」と戦う事を知らされた。

今までの日常はしばらくは戻ってこなさそうだ。


「騒がしいな、森」

ボロボロになった服を着た、前髪の長い少年がいた。

「クロオ、お腹空いたか?」

「ニャ」

クロオと呼ばれた猫の様な生き物は返事を返した。(様な気がした)

「そっか、食べていいよ」

少年はそう言うと、右腕の袖を捲る。

クロオはどこか嬉しそうに、少年の右腕に噛み付くのだった。

「おいしい?」

「ニャーッ」

「良かった、もう少し歩くから、たくさん食べな」

少年とクロオの日常は相変わらず、何も変わっていない。

脅物が住む「西の森」をひたすら歩き、二人仲良く暮らしている。

「ぷはぁ」

クロオは満腹になったのか、満足そうに腕から離れる。

少年はズボンのポケットから布きれを取り出す。そしてクロオが食べたであろう場所に巻き付けた。無数の傷跡が彼の右腕に残されていた。

「クロオ、俺はクロオとなら生きていけると思うんだ」

そう言うと少年は、とても穏やかな笑顔を見せるのであった。

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