第3話˹頭首˼
「ちっ、おいどういう事だよ「戦闘派」!!!!!!」
「お、落ち着いて
声を荒らげる「新党」の頭首、淮翔。それをなだめる「保守派」の頭首、
「うるせえよ「新党」、別にお前らには関係ねえだろ」
そう冷たく言い放つマフラーを巻いた青年。彼は「混合種」の頭首、
「あはは…いや……本当に、今回ばかりは申し訳ない…」
そう肩を落とすのは「戦闘派」の頭首、琥瑠璃だ。
「新党」。たった一つのドーナツを食らうも譲るのもその時の気分次第。
「保守派」。たった一つのドーナツはみんなで仲良く分け合う。
「混合種」。たった一つのドーナツを食らうこともどうする事もしない。
「脅物」。たった一つのドーナツは面白半分殺し合って奪えばいい。
「本当だぜ、いい加減にしてくれよな、巻き込まれる俺達の身にもなってくれよ…」
「だからお前ら「新党」は…」
「あの」
円卓を囲んでざわざわと騒いでいた頭首達は一気に静かになる。
「お前は…」
綺琉は自分の目の前に座る、白髪の少女に目を向ける。
「初めまして、今回の会議に代役として出席させて頂きます、アリアと申します」
アリアはそう言うと、軽く頭を下げる。
「そういや、帽子の奴いねえのな
あ、お前が帽子の代わり…」
「はい、えっと…「新党」の淮翔さんですね。
頭首から何度かお話は聞いております」
「お、おう…」
どことなく居心地が悪い、そう淮翔は思った。
「早速ですが、今回の会議を始めさせていただきますね。
進行はわたしに任せてください」
「ああ、よろしく頼む。
まともなのがお前しかいない」
綺琉はそう言うと、淮翔を睨む。睨まれた淮翔本人は、全く気づいていないようだ。
「あのーーしつもーーん!!!」
淮翔は右手を上げながらそう大声で言う。
「なんで今日は1人だけで来なきゃいけないんだ?」
「確かに、それは僕も思っていました…」
淮翔に同意する日向。どこか落ち着きが無い様に見える。
「はい、ではそちらについてお話しますね。
頭首が集まって話し合う今日の様な会議の時は、頭首ともう1人、自分達の仲間から連れてくるのが正しい形です。
今回頭首だけで集まって頂いたのには訳がありまして…」
アリアの淡々とした説明に納得する淮翔と日向。琥瑠璃と綺琉もなる程な、と頷く。
「その訳ってのは」
綺琉は一瞬琥瑠璃を見た後、アリアに聞く。
「先日、「戦闘派」の方が「ホラ貝」を吹いたことについて、皆様ご存知かとは思います。会議を開く原因になったのはその一件です。
「ホラ貝」が吹かれてしまった事により大量の脅物を動かす事になってしまいました。脅物を管理している頭首が身体を壊してしまったのもそれが原因です」
「今日帽子が来てねえのって、身体壊したからなのか…」
「はい、一度に大量の脅物を管理し自ら戦い…と彼には少し大変だったのかもしれませんね。
「脅物」からすれば、今回の件はとても痛手です。貴方方の言う均衡とやらも、少し傾いてしまったのでは無いでしょうか」
「均衡を保つ為にし──」
琥瑠璃の言葉を遮るように、アリアは立ち上がった。
「貴方です、いいえ、正確に言えば「戦闘派」です!
貴方方のせいで頭首が…っ、こんな事に……。責任を取りなさい」
「せ、せきに──」
「私達「脅物」は、「戦闘派」を敵そのものと見なし、均衡故の条約とは一切関係なく貴方方を潰す事に決定しました!
それを伝える為の会議です、皆様お集まり頂きありがとうございました」
アリアはそう強く言うと円卓から去ろうとする。
「待て」
綺琉はそう言うと立ち上がった。それにつられる様に淮翔も立ち上がる。
「それは条約違反だ、俺は黙って はいそうですか とは見過ごせない」
「お前らは何を考えてるんだ…それに結局頭首だけが集められた理由は…」
アリアは足を止める。ゆっくりと後ろを向き大きく息を吸った。
「さすがに許されはしませんか…
まず淮翔さんの質問に答えますね、頭首だけなら私達の事を理解して頂けると思ったのです。頭首が崩れるという事がどれだけ重大な事か、皆様にはご理解いただけるでしょう?それに無駄口を挟まれない様にする為でもあります。
……仕方ないです。頭首から許可は頂いています、皆様がご理解頂けなかったという事なので、やむを得ず、私達「脅物」は貴方方全員を敵と見なし、均衡故の条約とは一切関係なく潰す事に決定しました!」
アリアは少し楽しそうに、しかし淡々とそう言った。
「ふざけるな!!!」
綺琉はそう叫ぶとアリアに詰め寄る。
アリアは悲しそうな表情をしていた。
「綺琉さんには私達の気持ちも少しはご理解して頂けるかと思っていましたが…残念ですね
所詮貴方は脅物が少し混ざった程度の「雑種」でしかないのですよ」
「……っ!!!!」
「そこまでにしてください!!今ここで頭首が争うのはもっとおかしいです!!!」
琥瑠璃と並んで椅子に座ったままの日向だったが、綺琉とアリアの間に割って入り、剣を抜こうとしていた綺琉の右手を止める。
「「保守派」…」
綺琉は渋々右手を引っ込める。それを見た日向は安堵のため息をつく。
琥瑠璃は一人座ったまま、思考を巡らせていた。彼は彼なりに考えたのだ。
「皆さん、少し下がってください。
これは「戦闘派」が犯してしまった失態です。関係の無い皆さんまで巻き込むのは不本意です」
「琥瑠璃さん…」
琥瑠璃はそう言うと立ち上がり、背中に背負っていた大剣を抜き、戦う意思をアリアに伝えた。
「…但し潰す敵と見なすのは「戦闘派」だけにしていただきたい」
アリアは小首を傾げる。そしてとても楽しそうに、
「あははははっっっ!!!はははっ!
ええ是非!!「戦闘派」を潰せるのであれば光栄です〜〜〜
では今後、よろしくお願い致しますね?」
と言うのであった。
「お、おいおいお前ら正気かよ…
俺、こればっかりは無視出来ねえ、琥瑠璃の言い分も尊重してやりてえが「新党」も「脅物」と戦わせてもらう!!!」
「淮翔君!??」
そう言うと、淮翔も背中に背負っていた大剣を構えた。
「僕もです、均衡が崩れるのも「戦闘派」が居なくなるのも許せません。
「脅物」と戦わせてください!!」
武器を持たない「保守派」、日向もそう言うと琥瑠璃と淮翔に並ぶ。
「俺はお前達とは違う、半端者かもしれないが、俺は「混合種」を誇りに思っている。
それを侮辱する様な奴は許さない」
綺琉は黄色い目を赤く光らせながらそう言う。
「皆さん…!??」
「琥瑠璃、困った時はお互い様だ!
俺の仲間が世話になったみたいだしな!それに何となくだけど「
淮翔そう、笑顔で言う。
「……分かりましたありがとうございます。ですが!くれぐれも無理だけはしない様に!!!」
「おう!」「はいっ!」「ああ」
祝杯を上げるには程遠く、決して美しいものでは無かった。
空虚に栄えも何も無いのかもしれない。この世界がこのまま生存していく事自体間違っているのかもしれない。
この時の彼らには、この様な考えが思いつくでもなく、ただ信念を貫く為に戦うのであった。
「おかえりなさい、アリア。
すまないね、私がもっと強くあれば…」
太い木の枝の様な物に包まれた帽子の男。少し弱々しい声を出す。
「いえ、頭首は十二分に強いと思います。
あの、会議の結果なのですが」
「…しっかり聞いていたよ
これは、戦争の始まりかい?」
──数百年前の様に。
帽子の男は薄く笑みを浮かべた。
「待っていろ戦闘派君、私は君と戦える事を光栄に思うよ」
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