第2話˹帽子˼
「どうしたんだ君達、そんなに慌てて...」
帽子を深くかぶっている為、男の表情はよく見えない。
「цъчпхюяйёж」
犬のような脅物が帽子をかぶった男に何かを話している。
「ああ、「ホラ貝」の音が聞こえたのか。
誰が吹いたんだい?」
帽子の男は脅物の頭を撫でながら聞く。撫でられた脅物は嬉しそうに尻尾を振っている。
「ощэуп」
「戦闘派の縄張りのある方角から聞こえた...??
そうか、なら私も同行しようかな」
帽子の男は帽子を深くかぶり直す。脅物は走り出す。
「さあ、均衡を崩しに行こう」
「な、なんだよこいつら倒しても倒してもキリがねぇ!!」
懸巣は自らの能力である氷の力を使い戦闘を行う。利き手である右腕は氷に覆われ、掌から剣の様な形をした氷の塊を脅物に向けて放つ。
「一万体、送り込んだんだよ」
背後から声がする。懸巣は反射的に振り返る。
そこには──
「うわっお前誰だよ!??てか帽子大きすぎだろ前見えねえじゃん!!」
帽子の男だった。ちなみに、つい数秒前まで犬のような脅物と話していた。
「脅物の頭首だよ、君とは初めまして、かな?」
「と、頭首...!??あっっ、戦闘派の頭首なら奥の建物にいるぞ?
話なら琥瑠璃さんにしてくれ!」
「頭首に用は無いよ。
私と話していてもいいのかい?脅物を倒さなきゃだめなんだろう?」
帽子の男は脅物の大群を指差す。指先につられて懸巣も大群に視線を送る。
「なあ脅物の頭首さん、俺こんなに倒せないしさーちょっと数減らしてくれたりしない?別に今俺たち戦う必要無くない?」
「ん?私達を呼んだのは君達戦闘派じゃないのかい?
「ホラ貝」、吹いたんだろう?戦う必要ならあるじゃないか、さあ、頑張りたまえ」
そう言うと帽子の男はその場に座る。ここで戦いを見物するつもりらしい。
「お、おいおいおいおい......一万以上いるだろ...」
懸巣は顔を青くする。すごく強い脅物はいないが、数が多すぎて1人では戦えない。
(俺がやった事だからちゃんと倒しきらねえと...)
「流石は戦闘派!頭首でなくとも強いねえ!!見物し甲斐がある!!」
突然帽子の男が大声で叫ぶ。
「が、見物だけも面白くないな。私も戦うとしようか」
そしてゆっくりと立ち上がる。背中から木の枝の様な、しかし枝のように硬くはない何かを数本生やす。
「知っているかい?世界の均衡を保つ為には、脅物の数を一定に保つ事が必要なんだよ。それがまあ、この有様さ。
「ホラ貝」を吹いた時点で世界の均衡は崩れた、そう言っても過言ではないんだ。全ては君のせいだよ戦闘派君?」
突然感じた殺気に懸巣はぞっとする。あまりの強い気に体が動かない。
「この世界にある五つの党派、どの一つも欠けてはいけない。そういう条約の元、小さい戦いを続けてきた。
それがどうだい!??これじゃあこの戦いが終わったあと私達脅物はもうおしまいだ!全滅だ!
ここはお互い、全滅して消えようではないか。平等に、ね」
「話し込んでるところすまないけど、俺達はまだ戦争はしない。
あと懸巣。今日倒していい脅物の数は100だ、それ以上倒すな」
「鴫!!」
帽子の男と懸巣の間に鴫が割って入る。
帽子の男は鴫と距離を置くように、後ろへ飛び退いた。
「懸巣も下がれ
俺達戦闘派は、戦争をしに来た訳ではない。戦う意思があって「ホラ貝」を吹いた訳でもない。すまない、これは決してわざとではないんだ
帽子、ここは退いてくれはしないか」
鴫は両手を広げ、戦う意志が無いことを表す。そしてゆっくりとそう話したのだった。
「黒い戦闘派君の言う事には理解出来るが…
現にもうこんなに脅物を連れてきてしまっている…私達側の戦力を大きく削がれたも同然なんだよ
それ相応の被害を、君達戦闘派に受けてもらわない事には退けないね」
帽子の男は薄い笑みを浮かべながらそう言う。背中から生やした木の枝の様なものは、まだうねうねと動いている。
「お前は、戦争を望んでいるのか?
被害を受けたと言いつつ、俺達にそれとなく戦う意思を匂わせてくる。お前の目的は一体何なんだ、脅物の頭首」
冷静ではあるが、少し圧を込めた視線を帽子の男に向ける。そんな鴫に圧倒されたのは懸巣だった。
「ハハハハハハっっ!!!!!!!そうだな確かにそうだ!!!
ふッ、一つ教えておこう。私は何も戦いたくない訳では無いんだよ、いや違うな、少しそれと似た物を、望んでいるのかもしれない。
まぁいい。今回の事は忘れてやろう…かなァッっ!!!」
「…!??」
何が起きたのか、理解するのに少し時間を使った。生臭いと言うのだろうか、独特な臭いが辺りに充満していく。
「……はっ…っ」
木の枝の様な、槍の様な、先の尖ったものが鴫の身体を貫いていた。
「戦闘派君、私は君の事を決して忘れないよ
また会う機会があれば、その時は…」
ただ呆然と目の前の光景を眺めるしか出来ない懸巣の顔を覗き込むようにして、帽子の男はそう言う。ただ懸巣には、ただの一文字も頭に入ってこなかった。
──それ相応の被害。それが鴫への攻撃だったのだろうか。帽子の男は大量の脅物を連れて「西の森」へと帰って行った。
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